その55.登山屋の話


 私は学生時代から登山にいそしんでいました。

苦しいけど登り切った感覚、頂上で味わうコーヒーの味は

格別です。私が学生時代から通う登山の専門店の親父の話を

したいと思います。

 その親父は本当に普通のスポーツ店の親父です。別に変わっている

ところなんてありません。そうですね、変わっていると言えば、山男と普通に

話をしている人、考えてみれば釣具店の親父だって釣り人と話をしてるでしょ。

そんな感じなのです。

 そんな彼がある日酔っぱらったときに私に言いました。

「俺、分かるんだ。」

「分かるって何が?」と私。

「人が遭難するの」と親父。

親父は淡々と遠くを見つめるように話を始めました。脚色なく以下、その話を述べます。

 登山店にはたくさんの人が季節を問わず来店する。その中で、影が薄いというか、

生命の糸が切れているというか、そんなやつがいる。それは、店に入ってきた瞬間から

分かるんだ。特に冬なんて気が重い。にこやかに買い物をしているカップルなんて最悪だ。

その彼氏の影が薄いと「どうせ今度の登山で遭難するから結婚をやめておけ」と言いたく

なってしまう。

 いつから、こんなことが分かるようになったのか。数十年前、その団体が先生に引き連れて

買い物に来たとき、なんかおかしいと思った。その一行が影が薄く、なんていうか色があせて

いるという感覚が見て取れる。

その一行の件は、ニューズで聞くこととなった。

一度、そういうやつがいたので「今回は登らない方がいい」そう言ったことがある。

だけど相手にされなかった。そりゃそうだ。雪山に登る時は100%遭難しないなんてことは

ありえない。スキー場に行くやつに今回はスキーに行かない方がいいと言ったって

みんな行くだろう。

ちなみにそいつも遭難した。だから、俺はもう分かっていても指摘するのはやめた。

あんまり、商品を勧めないだけだ。俺の感は100%あたり、生存率は0%だ。

 彼の話は、あまりに淡々としているので嘘を付いているように思えなかった。それに

そんな理由が全くないから。こんな人もいるんだぁと私は思っていた。

















「で、君。もし、君の影が薄いと俺が言ったら、どうするかね?」

突然、そう言われた時はぞっとした。今度の登山はほとんど遊びのレベルだった。

登山経験のない女性を伴い、職場の同僚と遠足に行くレベルなのだ。

「何、気持ちの悪いこと言ってるんですか。○○岳は、全然、問題ないですよ。ほとんど

遠足です。初心者に山の良さを教えるために登るんです。もう、嫌だなあ」

私は、そう言って彼の目を見ました。彼は力無く目を伏せました。

それから、その話をしても彼は何も言おうとはしませんでした。

私は悩みました。だって・・・・・まさか・・・・・同僚に言えるはずない、あんな子供でも

登れる山で・・・・・そう思って、傍らで眠る息子の顔を覗いたとき、今回はやめようと

瞬間的に感じたのです。


その結果、同僚には文句を言われましが、彼と職場の女性が2人で登ることになりました。

残念だったけど。

彼らが予定通り、戻っていない!そう、職場で騒動になったことはびっくりしました。

そうです。遭難したんです。遺体はあがってきませんでした。遭難する山じゃないのに。



その56.怪談話の時に起こったこと


 それは、くだらないTVを見ていた時におこりました。

よくある心霊スポットへ霊能者と取材班が一緒に行ってなんだ

かんだ言って心霊写真だ、霊だと騒ぎ立てる興ざめの番組を見ていた時でした。

私は、その番組を見たときに全然番組と関係のない記憶が頭の中に

突然よみがえって来ていました。

なんで、あんな記憶が・・・・・・・

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それは自分が高校時代の頃、部室で夜中に酒盛りを友人たちと

していた時のことです。女の話ばかりに疲れ、怪談をしようと言うことに

なりました。当然、私はわくわくしていました。だって、ゾクゾクすることと

日頃威張っている彼らが小便ちびりそうになる顔が見れるのだから。

怪談話が佳境に入ったとき、ことは起こりました。

突然、ピキッという音がしました。怪談話の時ってみんな音に敏感になるでしょ。

みんな「何の音・・・何か聞こえない」ってびびっていました。

でも、もう一回音がした。「ピキッ!」そう、それは、部室の窓ガラスでした。

小さな窓ガラスでボールが当たっても割れない中に針金のような

ものが入っている頑丈な磨りガラスです。

私が期待した小便を漏らすことなんてはるかに越えた事態がおそいました。

ピキピキピキピキツ!ズズズズツ・・バリ

バリン

ガラスの破片が我々を襲いました。命からがら、みんな部室から飛び出しました。

あの時のこと、あれ以来誰も話さなかった。。。。

長い回想でしたが、この記憶を突然思い出していたのです。

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嫌な予感・・・・・・

突然です。台風が来たと思えるような突風が吹き荒れました。

へっ今日は天気予報晴れ。32度。降水確率0%だぜ。

しょうがねーな。天気予報当たらないし・・・・

2階の窓ガラスをたたくように突風が吹いてきます。私は悟りました。

まさか・・・・・

ガシャーン

網戸が最初に吹っ飛んで行きました。

そして、窓ガラスが・・・・・・・

自慢じゃないが私の家は頑丈です。欠陥住宅でもないし、建てたばっかりです。

翌朝、会社に行って聞きました。「台風来てる?昨日、風邪強かったよね?」

想像通り周りの反応は怪訝なものでした。風のない寝苦しい熱帯夜だったはずだと。