その57.

見えるの、私 (BY コンパの夜に)


何が楽しいって、独身時代に楽しいのはコンパでしょう。その日は知り合いの女性と
 
約束のコンパでした。男女6人のコンパでした。男性陣は私の友人たち。女性陣も

私の知り合いの女性の連れです。女性陣は高校時代からの付き合いだそうで大切な

親友だと私の知り合いの女性は紹介していました。楽しいひとときが過ぎ、ふと私の友人の一人が

自分の心霊体験を話し出しました。それは、自分の家の2階に気持ちが悪いと感じる部屋が

があるとかなんとかというくだらない話ではありました。

ふとそのときに、私の隣に座っている可愛らしい女の子が話し始めました。

「私さあ、見えるんだ。よくねぇ、見えるの。だって、見えるんだから仕方ないんだ・・・・」

へっ!?何の話。私たちは彼女が何を言い出すのかと思いました。だって、全くそんな雰囲気の

子ではないのです。ふっくらしてて優しそうな女性です。そんな私の思いとは裏腹に彼女は話し

始めます。

「あのね、今まで話したことなかったかな。私ね、変わり者だと思われるかも知れないからずっと

隠してたの。子供の頃からね、その・・・・生きていない筈の人たちが見えるの」

ぽかーんとしているのは彼女の友人たちです。長い付き合いの中で一度もそんなこと聞いたこと

がなかったのでしょう。こんなとこでカムアウトするのか??それとも、酔っているのかなぁ。

彼女はなおも続けます。

「最近ね、嫌になるのは大きな顔なの。家に帰ると部屋の隅に、その人がいるの。大きな大きな

顔で真っ赤になってるの。顔だけがあるの。そこに。いつでもいるわけじゃないけど気がついたら

そこにいるの。」

私は彼女に言いました。「何で、赤いんだよ、それは」

「多分ね、やけどだと思う。だって、ただれているもの。それに、何故かいつも怒っているの。

すんごく怒っていて、私を睨みつけているの。」

一同「・・・・・・・・・・・・・・・・・」我々がたんたんと話す彼女に凍り付いているのにも構わず、彼女は

続けた。「私、分かるんだ。その人は、誰かに焼かれたの。生きたまま火を放たれたのだと思う。

熱かったんだと思う。」彼女はチューハイを口に含んだ。

「何でわかるんだよ。そんなこと。君の家が昔そんな場所に建っていたとか言うんじゃねーだろーな」

私は言った。それには答えず、彼女は続けた。

「部屋の隅だけじゃなくて、2階の窓に張り付いて覗いている時もある。」

みんなは凍り付いている。彼女の友達のA子が言った。「あなた、今までそんなこと一度も言ったこと、

なかったじゃない。」おお、コンパは冷え込んで盛り下がっているぞ。こんな筈では・・・・・・

「あのね、A子。今まで黙っていたけど・・・・・・あなたの家の階段の前の廊下があるでしょ。

あそこに掛かっている絵なんだけど、あれは良くないと思うわ。外してもらったら?」

A子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」おおっ嫌な雰囲気の沈黙だぁ〜

私は言った。「結局さあ、それでどうなの?その大きな顔はどうなったの?」こうなったら話をすす

めるしかないだろうなぁ。彼女は静かに頷き、口を開いた。

「どうもないの。そのままよ。いつも出てくる。悪さするわけじゃないし、仕方ないから、そのまま

なのよ。」

私「・・・・(つまりオチがないってことだな)・・・・・・・・・・・・・」そんなことを考えながら唸っている

私に彼女は言った「あれ、みんな沈んじゃったぁ?ごめんね、大した話じゃなかったのに、

ごめんごめん」気を取り直してまた、飲まなければいけない。それから乾杯をしたが、その日は

2次会に参加するものは皆無であった。

「見える人」って、日常なんだな。