マンガびとの館
『ありがとう』
(C)山本直樹
(小学館)

山本直樹 +++『ありがとう』(小学館)+++ その2

女の子の絵とキャラ

【カンチョ】  じゃあ、ちょっとストレートにいきましょう(笑)

 たとえば、女の子の描きかたとかはどうですか?
 すごく繊細でしょ?この人の女の子の絵って。
 みんな細くて鎖骨がはっきり描いてあって、デブやぽっちゃりがいない。
 これってなんかあると思う?

【ケイコロ】  かわいい女の子を描きたいというのは、マンガ家の自明の理でしょ。
 山本直樹のかわいいと思われる女の子の基準が「未成熟」がポイントなんじゃないですか? 藤原紀香などといった「大人」じゃ抜けない(笑)。
 絵画系の作家でいうと、リタ・アッカ−マンとかですね。少し古いと、ホルスト・ヤンセンとか。
 想像でモノを言っちゃいますが、多分、山本直樹自体ヤンセンの作品を見てるんじゃないかな?
 よく似てるんですよ。女の子の描き方が。
 そう思いませんか? 


【カンチョ】  似てます?ヤンセンに。
 ヤンセンは天野嘉孝なんかが、ずいぶん影響をうけた作家なんだけど、そんなに似てるかな?
 すくなくとも顔の描き方は似てないけど(笑)まぁ、それは関係ないか。
 たしかに、皮下脂肪10%以下の痩せた体格を描くという点では、共通してますね。
 その意味で「未成熟」というのは、よくわかる。
 そこらへんに、なんかあるような気がしますね。なるほど。

【ケイコロ】  心理学用語でいうなら「境界人」ってヤツでしょうか。
 大人と子供の間ですよね。大人でもなし、子供でもなし。
 じゃあ、なんなのか?と言われたら、すごく微妙な存在。
 さっきの絵柄の話とあわせていうと、あいまいなポジションにいるあいまいな存在になりますよね。ノーベル文学賞受賞者の言葉じゃないですが。(大江健三郎のことです)

 でも、吉田戦車がこれを描くと、すごく面白くなっちゃうよね。
 それは置いといて(笑)、このことは山本直樹の描く女の子すべてに共通しているのかもしれません。


【カンチョ】  これもさっきの話につながるね。
 『ありがとう』の場合でも、「未成熟」はちょっとキーワードくさいな。

【ケイコロ】  そういやさ、連載当時の読者のページにね。貴子ちゃんの体型についてのお便りがあったの。
 内容が印象的で覚えてるんだけど「山本直樹先生の描く女の子はいつも痩せすぎです。貴子ちゃんも痩せすぎじゃないですか?ちゃんとご飯食べないとダメだと思います」だってさ。確か10代後半の女性からのお便りだったと思うけど。
 笑っちゃったよ。大きなお世話だっつーの!そんな心配する人がホントにいるのか、あまりにもお便りがなさすぎて、編集部で偽造したのかは知りませんが、とにかく面白かった。


【カンチョ】  女の目からみてもさすがにスレンダーすぎますか(笑)
 ちょっと異質な感じするね。  子供のような脂肪のつき方に、大人の骨格で、ケツとおっぱいは大人。キメラじゃないけど。

 そういや、お姉ちゃんのH写真が、学校の黒板に張り出されて大騒ぎになるじゃないですか?
 それで、その写真を張り出した女が、いたでしょ?
 あいつはどうなんでしょうか(笑)未成熟から程遠い「おばさん」体型でしたが。
 あのおばさんは、っておばさん体型の女子高生ですが(笑)、彼女は不良たちと対等の立場のようでしたね。

【ケイコロ】  アイツぶっさいくだったね〜
 ごめん、読んでいて、あまり立場のことは気にしてなかった。
 でも、あの人なら少年たち側にまわれる性格と体型を持ってるよね。


【カンチョ】  あいつって2、3コマしか出てこなかったけど、すごく残っちゃって。
 もう、なんか怖いですよ。あのおばちゃん体型の女。夢にでてくるタイプで。

 まぁ、あのババァのことは置いときましょう。クチが腐るといけませんし(笑)

【ケイコロ】  (笑)
 あと、それよりもひどいのが貴子ちゃんのクラスメイト・自称親友
 あいつは極悪だよ。「悩みあるんじゃないの?」だって、スゲー楽しそうに。
 こういうヤツいるんだよ、義務教育中には、必ず。


【カンチョ】  あぁ〜いましたね。
 なんか、ひさびさに思い出しました。
 もう、長年、あの手の人種とは接触がなかったので忘れてましたが。
 あの手の女は、ケイコロさんの一番憎むべき存在なんですね(笑)
 いやぁ、おれだって嫌いですが、たぶん、みんな嫌いでしょ。

 あ、ちょっといっていい?虫くん、好きなんだけど、おれ。
 とにかくあだ名がいいですよね。虫だもんなぁ、虫(笑)昆虫にたとえられるってイイよね。まぁ、ベタといやぁ、ベタベタですが。
 しかも、なんかいじめられっこのクセに、女の子の前ではいいカッコして、ハッパとかすってたりね。
 でも、その辺を貴子ちゃんとかは見抜いた上で、わりとやさしく見ている感じでよかったですね。
 結婚までしてるし。いやぁ、貴子ちゃんもいい娘だなぁ(笑)
 ひそかに感動しました。あ、虫くんよかったなぁ!って。てっきり虫くんは自殺かなんかで死ぬものだと思ってましたから(笑)

【カンチョ】  あと、絵の話で1個気がついたんだけど。
 2巻の17話の表紙ね。トーンがおとうさん(笑)

お父さんトーン(右図・拡大)

【ケイコロ】  ホントだ(笑)。
 サルまんのちんぴょろトーンですね、これ。
 芸がこまかい(笑)一応、お父さんに支配される貴ちゃんの図ですよね。


【カンチョ】  うん、そう。
 細かいよな。ふつう気づかんよ、こんなの(笑)



すきなシーン

【カンチョ】  なんかある?
 って、オマエは無いのかよってツッコまれそうですが(笑)

【ケイコロ】  特にないんですよ。どこのページを見ても「パソコン使ってるんだ〜」なんて思っちゃって。
 山本直樹の作品にしては、エロくないなぁと思います。
 連載始まった何週間かは、確かにエロかったですがね。あれは「つかみ」だったんでしょう。


【カンチョ】  うん、たしかに「つかみ」っぽくて、とにかく連載第1回目はショッキングなシーン続出という感じだった。
 でも、あれはさっきもケイコロさんが言ってたけど、エピソード自体は、例の「女子高生コンクリ詰め殺人事件」ですよね。

 この事件、知らないひとのために、すこし説明しておくけど、ようするに「ありがとう」で使われてた方法で、女子高生をうまく言いくるめて40日間、拉致監禁したあげく死亡させた。
 その遺体をドラム缶に詰め込んでコンクリ流しこんで放置した、と、こんなあらましなんだけど、この事件では、少年たちの凶悪性とか、ホントいろいろなことが問題になったんですよ。
 そのなかのひとつに、それこそ「家族」という問題があったんですね。

 それはどういうことかというと、もう刑が確定しちゃったので被告と呼ばずに犯人といいますが、とにかく犯人は4人いて、そのうち一人の自宅で、女子高生を監禁し、若さと薬にまかせて陵辱の限りを尽くしたわけですよ。

 で、その少年のうちは、金持ちであまりに家がひろくて地下室とかあって、ようするに人間ひとり飼ってても、その家に住んでる家族とかには、絶対ばれない、なーんてことはゼンゼンなくて、まったく普通の家だったんです。
 そうすると、当然家族も、なんか知らない女の子が、ずっと家にいるけどどうしたんだろう?くらいは思うわけ。
 実際に犯人の少年の父親も母親も、監禁されていた少女とめしくったり、「帰らないの?」くらいは声をかけていたらしい。

 でね、普通、ここで思うのは、お決まりのセリフだけど「なんで犯行に気づかなかったのか?」家族は何してたんだ!?って、大ブーイングが起きた。
 そりゃそうだわなぁ。おれだってそう思ったもん。
 なにしてたんだ!?って。

【ケイコロ】  私もこの事件はすっごくびっくりした。
 「家族は何してたんだ?」と日本全国でツッコミがあったと思います。
 新潟少女監禁事件が最近あって、引きこもりなどの状態がメジャーになったけど、「女子高生コンクリ詰め殺人事件」の頃はまだまだ超マイナーでしたもんね。


【カンチョ】  とにかく、その事件をしょっぱなのエピソードにもってきたってのは、やっぱり連載第1回目だから読者をひっぱらなきゃ、ってこともあったにしろ、それよりも、この作品のテーマは「家族」、あるいは「父親」なんだってことを、一番最初に言ってるわけなんです。

 ずいぶん社会的な問題だけど、それの良し悪しは別にして、かなり自覚的な描き出しだなぁ、と思った覚えはあるよ。
 「あぁ、なんて社会派なんだ」って(笑)

【ケイコロ】  連載当時は覚えてないです。でも描き出しとしては的確だなと思います。
 既に家としての機能を果たしていない家にですね、侵入者が入り込む。
 しかし、主人公は学校に毎日行き日常生活を続けます。そこに単身赴任していた父親が帰ってくるわけですが、主人公は壊れているという「家族」の事実を父親によって再認識させられていきます。

 「家族」という団体を再認識する作業が始まるには、壊れきったところから始まるのがベストではないでしょうか? 現に、父親は「家族」を再構築させようと奔走するのですから。
 哀れにも再構築することはできず、「鈴木家」は解散しますがね。


【カンチョ】  そうそう。最後でつまづいた(笑)
 でも、あれって、自分で壊したわけじゃないから。お父さんが帰ってきてから、はじめて本格的な破壊が開始されたんですよね。
 で、最後にやっと再構築されるという。
 なんか、こう言うとベタな感じですが(笑)

【ケイコロ】  えっ! 最後って再構築されてるの? そうは思わなかったよ。

【カンチョ】  ちがいますかねぇ?

【ケイコロ】  家族の形態を最後まで模索してるんだと思ってた。
 模索の段階で「ありがとう」って言うセリフはありかな〜、って言う程度に感じてた。
 お父さんは一生懸命、旧世代なりの愛情をもってして家族を立て直そうとしてるじゃないですか。
 お父さんのとった行動がいいとは思いませんが。
 根っこからくさってるのに、家の外観だけ取り繕ってもダメでしょう。

 あっ! ちょっとわかった。今さらだけど。
 さっき、「家族愛」じゃないんじゃないのと言いましたよね、私。
 お父さんとお母さんのコミュニケーションって描いてない。少しあるけど、家族を構成するにあたって、現存している父・母の状態があまりにもひどい。
 このお話は、貴子ちゃんとお父さんのコミュニケーションが主体になってますから。
 「家族愛」よりも「隣人愛」、「隣人愛」よりも「父子愛」に近いのかな?

 それでですね、お父さんが亡くなるところで「ありがとう」と言いますよね。
 小津安二郎の映画では、嫁ぐ娘から父親に「ありがとう」と言います。図式にすると
    山本直樹   父親「ありがとう」→貴子ちゃん
    小津安二郎  娘 「ありがとう」→父親
 となるわけですが、このセリフをいう方の条件として「旅立つ」ということが挙げられます。
 「旅立つ」者として、自分が所属した団体に対して放つ言葉ということになりませんか?

【カンチョ】  なるほど。勉強になるなぁ(笑)
 その通りだわ。うん。
 さっき、ちょっと「テーマは隣人愛」っていわれて、「ちょっと違うなぁ」と思ってましたが、じつは(笑)
 「父子愛」もちょっと違うか。「父子関係」としておきませんか?この際。

 というのも、それも愛といえば愛かも知れませんが、やっぱ、普通でいう「父子愛」からはズレてますよね。
 あくまで、「父と子はどういう関係であるべきか」を主眼としていて、そのために壊れた関係をまず始めに持ってきているわけですから。
 その結末、「ありがとう」のセリフの意味を、愛と解釈するかどうかは、山本直樹ではなくて、やはり読者がすることでしょう?
 だから、「父子愛」というと、どうもピンとこない気がするけどなぁ。

【ケイコロ】  そうですね。そのほうがいい。訂正して撤回するけど、謝罪まではしないよ。

【カンチョ】  謝罪すりゃぁいいってもんではないっすから、世の中(笑)



印象的なシーン

【ケイコロ】  そういえば、貴子ちゃんって泣くシーンが多いよね。
 っていうか、要所要所で必ず泣いてる。最初は1巻の最後の方。警察に捕まえられたお父さんを迎えに行ったとき。次に、ロストバージンの時。あと覚えてるのは「鈴木家」が解散する時。そして、最後 のお父さんが亡くなる時。最初の泣き意外、失ったものへの懐古という涙じゃないですか。
 とってもセンチメンタルですね。

【カンチョ】  あれ?泣いてたっけ?ロストバージンの時?覚えてないなぁ・・・。つーかちゃんと読み直せ!と突っ込まれそうですが(笑)
 ぼくは、この対談にあたって、テキストを一度も開きませんでしたから(笑)。もちろん、自慢にはなりませんが。

 それはともかく、たしかに1巻で泣いてたのは、印象的だった。こういうことで泣くってことは、ちょっとさっきの話にもどりますが、やっぱ彼女は当事者という自意識があるんですよ。
 あるいは、お父さんの登場で芽生えたのかね。
 う〜ん、いい娘だなぁ、やっぱ。
 と、なんか、話している間にだんだん貴子ファンになってきました(笑)

 あと、泣くといえば、おかあちゃん(笑)
 おかあちゃんはすごいですね。見開き二ページ、ドーン!!で大アップで、大演説(笑)
 『童夢』のチョウさんクラスのインパクトがありましたね。



エロマンガのこと

【カンチョ】  最初にもちょっと触れたけど、山本直樹はエロマンガ出身で、そのころ、森山塔、塔山森ってペンネームで活躍してましたね。

【ケイコロ】  この辺の話は、あまりよく知りません。エロマンガにうといんです。守備範囲じゃない。

【カンチョ】  つめたい反応ですね(笑)そんなふうに言われると、ぼくがエロマンガ、メチャクチャ好きみたいに思われるじゃないですか。

 さっき、ケイコロさんは、『ありがとう』のエロは、あまりいやらしくない、みたいなこと言ってましたが、それはどういうこと?
 ぼくなんかは、けっこうエロく感じるけど。

【ケイコロ】  えっ? そうなのかなぁ。確かにやってることはすごいエロなんだけど、そんな執拗に描いてないように見えるんですよね。
 あまり気にしないで下さい。何しろエロマンガといったら「みやすのんき」しか思い浮かばないような人間の言うことなんですから。

【カンチョ】  あぁ、そういう意味ね。
 りょうかい了解。

 あまり煽情的に描いたりしないってことでしょ。
 それはたしかにそう。

 なんつーか、こういう言い方はヘンかもしれませんが、プレイの内容自体はけっこうおとなしいよな。
 その意味で、エロマンガっぽくなかった。昔から。
 ほら、よくあるエロコミって、とにかくって感じでしょ(笑)
 いかに汁に質量を持たせて現実感を出させるかって問題でさ。

 でも、山本直樹のHシーンって、そうじゃないよな。
 どこか乾いた感じがするし、これまでのコンテクストを踏まえていえば、やっぱ、距離感があるんですよ。「オマエもオレも欲情させるぜ!!」って感じはつたわってこない。
 「今、自分が描いているHシーンを、距離をおいて冷静に眺めている山本直樹」の姿が浮かんじゃう。作品と作者の距離感が遠いという、そんな感じしませんか?

 ちなみに「みやすのんき」は「ひろもりしのぶ」というペンネームで、やはり森山塔と同じ時期に活躍してました。

【ケイコロ】  さっすが、エロマンガに詳しいね。別にうらやましくないけど(笑)。
 うん、それは説明してもらった通りだと思う。
 だって、エロマンガ少し読むとさ、すごいでしょ擬音が。ここに書きたくないぐらいの文字でさぁ。  山本直樹のエロシーンにはそんな擬音がないじゃないですか。だからなのかな。

【カンチョ】  そうだそうだ(笑)
 オノマトペ(擬音・擬態)がエロマンガらしくないってのは、あるな。
 いや、昔は今の山本直樹みたいな、静かなオノマトペもめずらしくなかったんですよ。
 ここ10年のあいだに、独特の体系を築いてしまったんです。エロマンガ業界が。
 う〜ん、なるほど、これもわかった。
 山本直樹がエロマンガ業界から独特の位置にあるわけではなく、エロマンガ業界が山本直樹から離れていってしまったといえるな。
 まぁ、それはちょっといいすぎか(笑)

 あと、ついでにいっとくけど、ぼくはエロマンガにはけっこうウトい方です。このくらいで「くわしい」とか言ってたら、モノホンのマニアに怒られますよ(笑)



おしまいに

【カンチョ】  と、いうことで、お時間、つーか容量のほうが予定の量を充分過ぎてしまいました(笑)  短い時間のわりには、けっこう、充実した内容になったか、と我々は満足しておりますが、みなさんはどうでしたでしょうか?

【ケイコロ】  けっこう、話たりないよね。でもまぁ、もう疲れたのでカンベンしてほしいけど(笑)

【カンチョ】  と、いうことだそうです、みなさん(笑)

 それではケイコロさんもお疲れのようですので、このへんで第1回マンガミーティングのほうはお開きとさせていただきます。

 次回のマンガミーティングのお題は、河合克敏『帯をギュっとね』です。ただいま会議中でして、たいへん盛り上がっております。公開日をおたのしみにおまちくださいまし。
 それではまたお会いしましょう。



2000/06/20


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□オタヨリ:【 mangabito@anet.ne.jp
□書くのが面倒なひとはコチラで。
 簡単アンケートです。

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