マンガびとの館
『キャプテン』
(C)ちばあきお
(集英社)

ちばあきお +++『キャプテン』(集英社)+++ その2


エンドレスな日常の話 その1

【his】  終わり方がすごく上手い、というかぼく好みで。

【wat】  あ、そうですか? 終わり方は……僕はチョット物足りなくて。イガラシが優勝できなくて、そんでもって近藤が将来のことを考えて、で、ジュニアがキャプテンになって優勝するというのが理想だったかなと。勝手な言い分ですが。

【his】  イガラシシンジ? ジュニアって。

【wat】  そうそう。

【his】  うーん……。キャプテンでは野球少年たちの等身大の姿を描いていると思うんです。ようするに、野球のある日常だと。
 野球が軸になっていて、少年達は、それこそ谷口だったり、丸井だったり、イガラシだったり、時間が流れていくなかで、それでも少年は野球をしていくんだ、と。そういう時間を描いていると、ぼくは思っているんですよ。
 なので、近藤が墨二の将来を考えて、結果を見せないで終わるという、そういう終わり方からも、それが伺えるんじゃないか、と。

【wat】  なるほど。ずっと野球少年たちはそうやって「がんばって」野球をやり続けていくと。上手く余韻を残しているんじゃないか、と言うことですね。

【his】  はい。watさんがシンジの野球を見たいと思ったのもその余韻ゆえのものだと思うんですよ。ぼくも見たかったですよ、JOYとか。

【wat】  かもしれないです。
 ただ、僕が慎二の野球を見たかったのは、イガラシ、近藤と、1年の時からレギュラーで活躍していた人物が結果的にキャプテンになっているわけじゃないですか。
 だから、多分慎二はキャプテンになるんだろうと。そして、JOYもなるんだろうと。
 で、2度あることが3度あったらそうなり続ける証明になる気がするんですよね、なんとなく。あと、4代で終わっちゃったのが中途半端な気がしますし。

【his】  半端といえば、半端ですね。

【wat】  まあ、終わり方については意見が割れるところだと思います。

【his】  そこらへんは好みですかねぇ?

【wat】  でしょうねえ。

【his】  きれいには終わってないけど、そこがいい、という感じなんです、ぼくは。

※編注  実はこのあたりのことが今回で一番言いたかったことでした。あとはホント、コネタばっかりなもんで(笑)
 あとからも何度かこの話題をふってますが、ここでも少し補足します。。

 まずね、『キャプテン』にしても『プレイボール』にしても、たぶん作者は途中でやめてます。その意味では中途半端な終わりでしょう。
 ただ、この物語は、というかちばあきおの描く物語は、エンドレスな物語です。つねに日常の積み重ねで時間が経過してゆくという。そこには劇的な”なにか”というのは必要としないもんです。アクシデント、事件でもってストーリに起伏がもたらされることはありますが、それでもちばあきおの世界は、かならず日常に吸収されるんです。



エンドレスな日常の話 その2

【wat】  そうそう、僕は全体的に見やすくって好きなんですが。

【his】  見やすい? といいますと?

【wat】  さっきも出ましたけれど、トーンをほとんど使っている割には汚くなっていない。カケアミも丁寧だし、服の汚れの表現も細やかだし。
 これは結構すごいことだと思うんですけれども、どうでしょうか。

※編注  ぼくに振られても困ります(笑)

【his】  泥臭い絵なんですけど。印象は泥臭い、ですよね?
 でも、きれいなんです(笑) バカみたいな言い方してしまいました(笑)

【wat】  いやいや、実際そうなんですよね。人物の描き分けも見事ですし。

【his】  なんというか、藤子不二雄の藤本先生の絵とある意味同じことが言えるんですが、真似しづらい絵だと。

【wat】  僕はそのあたりはよく解らないのですが……

【his】  説明がむつかしいんですが、単純な線で、迷いなく描いていて、なおかつ精錬された技術を持っている人の絵は、基本的に真似しづらい、と。だからアシスタントなんかが人物を描くとすぐバレるんですよね。アシなどの他人が、作者のタッチそっくりに描こうとすると、線に迷いがあったりとかで。

【wat】  ふーむ。

【his】  あ、変なこと書いた。あんまり関係ないんですけどね(笑)

【wat】  というか、やっぱりよく解らない(笑)。わかる人にはわかるんでしょうかねえ。

【his】  ちょっと難しいです。説明するのって。すみません。

【wat】  いえいえ。

※編注  ここは少し補足しないとマズイですね。でも補足しようがないんですが(笑)

 野見山暁治(のみやまぎょうじ)さんという画家さんがいるんですが、彼の言葉でぼくが学生時代に感銘をうけた、こんな言葉があります。
 曰く、「一本の線も満足に描けない造形作家なんて、作家ではない」と。
 これは一本の線がどれほどの表現力をもつか、あるいは、どれほどの表現を込めることができるか、ということを端的に表した言葉だと思います。

【wat】  で、「ああっ、同じ顔」っていうのは僕の中では島田と牧野くらい(笑)。といっても「似ている」って程度で。

【his】  同じ系統の顔ですね(笑)

【wat】  あとは、脇役までバラバラ。このシンプルな絵柄であれはすごいと思います。

【his】  ちゃんとわかりますよね。全員 。

【wat】  あとは、ネーミングセンスですね。

【his】  いかにもな名前が多いです。

【wat】  これはキャラクターの位置づけとも関係してくるんですが……例えば、フルネームがわかるのは谷口・慎二くらい。丸井もイガラシも近藤も下の名前がわからない。

【his】  主人公なのに名字しかわからないのっておもしろいですよね。イガラシなんてカタカナだしなぁ。

【wat】  そうそう。で、あと名前がわかる脇役がいっぱい。松下や曽根や牧野や……

【his】  加藤、遠藤とか(笑)

【wat】  その後に名前がわからないけれど、いつも応援団にいる人やら、そんなのがいっぱいいると。記者さんだって名前わからないし(笑)
 あとお気づきかも知れませんが、最初の最初に、佐野君っていう人が名前だけ登場します。
 前キャプテンがレギュラーの発表をするでしょう?ボードに書いた名前が、「2番キャッチャー佐野」(笑)

【his】  なんだ(笑) 青葉の佐野かと思った。

【wat】  でも谷口と松下とイガラシのタマを受けていたのは「佐野」だと言うことに(笑)

【his】  でも、小山じゃなかったっけ? キャッチャーって。丸井のときだったかな?

【wat】  でも、そうですよね。まあ、最初だからなあ。

【his】  プレイボールなんか、もっとすごいですよ。半田の学年が変ったりとか(笑)

【wat】  そうそう、それは僕も思った。谷口とタメの筈が、いつの間にか丸井と同学年に(笑)

【his】  そうそう。期待の新人が何人も消えていたりとか。

【wat】  期待の新人って?

【his】  えーと松川と同じ学年で大島中のサードだったやつとか。

【wat】  あー、なるほど。

【his】  なんか、ちばあきおって人はマジメなのか、いいかげんなのか(笑)

【wat】  ところで余談なんですが、倉橋って『キャプテン』に出てきます?

【his】  でてきません。

【wat】  松川は記憶があるような気がするんですが……

【his】  松川もでてきませんよ(笑)

【wat】  やっぱりそうなんですよねえ、実際。

【his】  あれはさすがに後付けですね。

【wat】  結構いそうなキャラクターだったんですが。

【his】  はいはい。いそうですよね〜(笑)
 それはさておきですね。ときどき間違えたり消えたりするキャラはいるものの、基本的にはレギュラーメンバーには名前があるわけですよね。
 それは、どんなマンガでもそうなんですが、名前までつけて、しかもレギュラーなんだってことならばそれなりにキャラ付けしていきますよね、ふつう。『ルーキーズ』のように。
 ところが、それをやらないんですよね。なのに名前はあるし、打順も決まっているし、ポジションも決まっている。
 それって、なんていうか……視点が動かない、といえばいいのかな?
 あるときは加藤、あるときは浅間に、といった感じでカメラを向けないで、あくまでも「○○率いる墨二」という視点を崩さない。

※編注  ここでも言ってますね。しつこく(笑)

【wat】  なるほど。

【his】  なんか、不思議なんですよね。

【wat】  不思議だけど、イヤじゃないでしょう?

【his】  もちろん、いいなぁと思うんですよ。でも不思議(笑)
 島田なんて、近藤のせいでレギュラーおろされたのに、スポットライトがあたらない。
 松尾くらいじゃないかなぁ、家庭環境がみえたのって。あ、べつに家庭環境じゃなくってもいいんですけど。

【wat】  そうですね。松尾はちょっと他と違う感じで。そのあたり、あんまり意識しないで自然にやっていたような気がするんですけれど。
 描きたくなったら描く。必要なかったら描かない。

【his】  その、ちばあきおにとっての「自然」って「チーム」なんだと思う。
 個性派ぞろいの、スラムダンク系のチームではないんだ、と思うわけで。

【wat】  そうですね。確かに。しかも、攻守にバランスがいいし。たとえば、守備やバッティングは全員で同様の練習をしてチーム全体として上手くなる事ができる。
 しかし、ピッチングだけはそうもいかないわけで、歴代キャプテン4人のうち3人がピッチャーなのは、ピッチャーに才能が集まりやすい「野球」というスポーツ自体の特性だけではなくて、勢いピッチャーに個性を出さざるを得ない面があったんじゃないかと思います。

【his】  ピッチャーはどうしようもない、と。

【wat】  そうそう。

・・・つづく

2001/10/20に行われたチャットのログを編集しました
2002/01/01


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