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辻整形外科クリニック   PAINFUL LESION

TSUJI ORTHOPAEDIC INSTITUTE


 人工股関節手術 ↑

 この患者さんには、人工股関節手術 - THA (Total Hip Arthroplasty) = 人工股関節形成術 (注:人工股関節形成術は股関節に行う人工関節手術のことで人工股関節置換術THRと同義)- という手術を行いました。人工股関節手術とは、ステムヘッドライナーカップという4つのコンポーネント(=部品)を入れて股関節の痛みを取り、股関節可動域(=股関節の動き)を良くする手術です。手術の際、脚長差(=足の長さの差)も補正し、術後約1年のこの写真では、細かった大腿骨も太くなって左右差があまりなくなり、弱かった大腿四頭筋の筋力も著明に改善し、大腿部(=ふともも)の筋肉が細かったのも著明に改善しました。人工股関節手術の適応疾患として多いものは臼蓋形成不全に引き続いて発症する二次性の変形性股関節症と一次性の変形性股関節症です。今お見せした症例は変形性股関節症の症例です。




以下このサイトでは次のことについて記載してあります。
 ◇人工股関節手術についての説明
 ◇人工股関節手術の施行頻度
 ◇人工股関節手術の適応疾患
 ◇人工股関節手術の目的(長所・メリット)
 ◇人工股関節手術の問題点(短所・デメリット)
 ◇人工股関節手術を行わずに放置した場合の経過
 ◇人工股関節手術で用いるインプラントの材質について
 ◇自己血輸血について
 ◇人工股関節形成術の歴史についてひとこと
 ◇MIS最小侵襲人工股関節手術
 ◇MIS人工股関節手術の脱臼・脱臼肢位
 ◇金沢市医師会ビデオライブラリー
 ◇歴史的な人工関節の実物写真


◆人工股関節手術についての説明◆
人工股関節手術は炎症・変性・破壊によって傷んだ股関節を人工股関節を用いて修復する手術です。股関節痛の強度な方、歩行困難となってきた方、股関節の拘縮をきたし日常生活に支障をきたしてきた方、股関節周囲の筋力低下をきたしてきた方が適応となります。人工股関節手術ではすり減ってきた大腿骨頭というところを切除しステムとヘッドという部品を挿入し、すり減った寛骨臼を削りカップとライナーという部品を設置します。

◆人工股関節手術の施行頻度◆
人口が約1億2743万人の日本では年間7万件の人工股関節手術が行われ、人口が日本の約2倍強のアメリカでは年間日本の約4.3倍の30万件の人工股関節手術が行われております。約20年前はアメリカでの年間人工股関節手術件数は10万件余りだったので、約20年間で3倍に増加していることになります。20年前当時の日本でも年間手術件数が4〜5万件あり、世界でも2番目の高頻度で人工関節手術が行われておりました。ドイツ・フランスなどの西ヨーロッパ諸国では、当時は骨切り術の適応がかなり多かったのですが、近年、人工股関節手術のよい術後成績が認められ、今では人口あたりの施行頻度では日本を格段に凌駕しています。

◆人工股関節手術の適応疾患◆
 * 変形性股関節症
 * 二次性変形性股関節症 (原疾患は、臼蓋形成不全先天性股関節脱臼など)
 * 関節リウマチ
 * 大腿骨頭壊死
 * ペルテス氏病
 * 大腿骨頭辷り症
 * 骨盤骨切り術術後の疼痛再発 (Chiari・RAO)
 * 外傷


◆人工股関節手術の目的(長所・メリット)◆
人工股関節手術の目的は、股関節の痛みを完全に取り除くことと、股関節可動域を改善するすることです。それに、脚長差があれば、これを補正して足の長さをできるだけ同じように治します。人工股関節手術を行うことよって痛みから完全に解放され、以前より可動域のよい股関節となり、ショッピングをしていても疲れない、より遠くへ歩けるようになる、より遠くへ自転車で行けるようになるなどのように、今までより日常生活動作での実用レベルが向上します。「足って、こんなに便利なものだったの?」と人工関節手術後に自分で感心する患者さんもいらっしゃいます。それは、今まで、足の痛みが出るのが恐くて、自分で活動レベルを下げていた(=家にふさぎがちだった)からです。人工関節手術前にやせてきていた膝より少し上の大腿部(=ふともも)の筋萎縮(=足の筋肉がそげ落ちて細くなること)の進行が止まり、手術後は次第に元の筋肉を回復してきて、大腿四頭筋や中殿筋の筋力も回復し、だんだんと進行してきた跛行(はこう=足を引きずって歩くこと)も手術後は次第に改善していき、今までより日常生活活動レベルが向上し、歩行容姿も格段に改善します。MIS手術の導入により、人工股関節手術を受けたあと普通の人と全く同じように歩けるようになる人が過半数を占めるようになってきています。当院で行っている、手術の傷の6〜9cmと小さいMIS最小侵襲人工股関節手術(=MIS極小侵襲人工股関節手術)で手術を行った患者さんの多くは、人工関節手術後、知人に「あなた、どこ手術したの?」と聞かれるくらいに改善します。自転車や水中運動はもちろんのこと、手術後ジムを引き続き楽しんでいる方も多く、中にはゴルフやテニスをされている方もいます。(もちろん人工関節は大切に使うことが重要です!)人工関節手術前は股関節痛があって脚力もなく海外旅行をあきらめていた方も、希望していた方の多くが術後痛みなしに海外旅行に行かれています。

当院では人工関節設置部を直視下に置くMIS最小侵襲人工股関節手術を人工股関節手術のほぼ全例に行うようになって、もう既に満10年が経過しました。術直後の短期的なMIS手術の優位性のみならず、従来手術とMIS最小侵襲人工股関節手術の患者さんの術後の長期成績の差も明らかになってきました。従来手術では人工股関節手術後にも歩行時に体がひょろつく跛行が見られることが多かったのですが、MIS最小侵襲人工股関節手術では手術後に跛行が全く見られない完全な歩行容姿の患者さんが過半数を占めるようになってきています。跛行せずに(びっこをひかずに)歩けるようになることは、心理的にも大きなメリットでしょう。

◆人工股関節手術の問題点(短所・デメリット)◆
人工関節手術後には、@血栓、A脱臼、B感染、C骨折、D神経麻痺、E金属アレルギー、F転子部滑液包炎、G弛緩・摩耗などの合併症を認めることがあります。
@血栓は人工股関節手術後の最も頻度の高い合併症で、軽いものも含めると約20〜40%の発生率と報告されています。人工関節手術後の患肢の腓腹筋の深部静脈に初めに発生することが多く、これが発生した場合や発生の予防のために、弾性包帯や下肢の挙上を行います。人工関節手術後、早期にリハビリを行うことも深部静脈血栓症(DVT=deep vein thrombosis)の予防に大いに役立ちます。飛行機の中のロング・フライト症候群(=旧名エコノミー・クラス症候群であったがファースト・クラスでも長時間フライトで発症するため最近ではこう呼ばれている。)のようにならないようにするため、手術を受けた患側の足の筋肉を早めに動かして、筋ポンプ(=筋肉を収縮させることにより、静脈血を中枢に押し上げ、下肢の血管内に血液が停滞しないようにする筋肉のポンプ作用)を効かせ、血栓の発生を防止します。最新の深部静脈血栓症の予防対策としては、重大な合併症が予期される疾患の治療に予防的治療が2007年6月に健康保険診療では初めて認められ、静脈血栓塞栓症(VTE=venous thromboembolism、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PE=pulmonary embolism)の総称) の発症抑制薬として フォンダパリヌクス ナトリウム(fondaparinux sodium, ArixtraTM) 1.5mg〜2.5mgの術後皮下注射による治療が日本でも可能となりました。この薬は第]a凝固因子を選択的に阻害し、トロンビン活性低下や血小板凝集能低下が最小限で、手術創の治癒機転の妨げをできるだけ抑えて抗凝固作用も十分に得る事ができると考えられます。2001年よりアメリカで認可がおりていましたが、今回、日本でも「アリクストラ」の商品名で認可発売され、私も使ってみましたが、患者さんの状態をよく把握して慎重に投与すると深部静脈血栓などの静脈血栓塞栓症の発症予防と発生率の低下に効果が認められています。フランスでは、これより早い1987年より、主作用が第]a凝固因子阻害である低分子ヘパリン製剤 エノキサパリン ナトリウム(Enoxaparin sodium, ClexaneTM) が承認されていましたが、日本でも2008年4月に静脈血栓塞栓症の発症抑制薬として「クレキサン」2000IUの皮下注射が承認され、深部静脈血栓症の予防薬として2剤が使えることとなりました。半減期が14〜17時間のアリクストラに対しクレキサンは半減期が3.2時間と短く、また、中和剤として硫酸プロタミンが有効なため、投与量を細かくコントロールする必要のある高齢者によい適応があると考えて使用しています。(Clexane Injection
A人工関節の脱臼は手術直後に起こるものと何週間もしてから起こるものがありますが、手術直後のものは局所の安静にて対処します。手術後何週間もしてから脱臼させてしまった場合は、脱臼しやすい肢位をよく覚えていただいて、この肢位をとらないように気を付けていただきます。脱臼した場合、普通は再手術しなくても整復することができますが、整復しにくい場合は再手術を要することもありますので、手術後、転倒して脱臼させたりしないように充分に気を付けてください。 平成14年にほとんどの人工関節手術をMIS手術で行うようになってからは脱臼の発生率も大いに低下しました。
B感染はチャンレーが人工股関節手術を始めた1960年代には術後約7%も感染していました。1980年代のクリーンルームがまだあまり普及していなかった時代に新しい抗生物質の開発などにより3〜5%程度にまで減少してきました。クリーンルームを利用している施設では、最近の術後感染率は0.5〜1%程度です。当院では感染防止のためもちろんバイオクリーンルームで手術を行い、人工関節手術中に手術創は抗生物質入りの大量の生理的食塩水で充分に洗浄し、人工関節手術の前後に抗生物質も投与します。クリーンルームを作っても大病院で手術場が2階・3階にある場合は、人の出入りが多く患者の移送搬入も頻繁なのでクリーンレベルの実測値が落ちます。また、手術室と前室のみクリーンルームになっていて、手術室のドアの開閉の度にクリーン度が落ちることもることもしばしばです。当院での対応は、手術室内の空気の出入りを考えて、一般の方の出入りを制限した5階に手術室を設け、そこを手術室と器材滅菌室の専用フロアとし、全室(手術室2室・滅菌洗浄室・手術室の廊下・手術患者搬入用の廊下)すべてをクリーンルームとし、どこの病院よりもクリーンレベルが上がるように工夫して設計しました。感染防止のため、退院後も、歯槽膿漏になった歯の治療や、カゼなどをこじらせて気管支炎を合併してきた場合や膀胱炎など感染症を併発した場合は、早めに治療してください。
C手術中に大腿骨にステムを挿入したり、その準備操作の段階で大腿骨が骨折することがあります。大腿骨内に挿入するステムのサイズが小さいと手術後大腿部に痛みを感ずることがあるので、これを防止するためには大腿骨に挿入するステムのサイズはできるだけ大きい方が望ましいのですが、1段階大きなサイズのステムに進もうとする時に大腿骨に骨折を生ずることがあります。近位部の小さな亀裂骨折の場合はそこに骨移植をすればそれですむ場合もありますが、骨折が大きい場合は大腿骨周囲にワイヤやケーブルを巻いて固定します。以前はステムのサイズは5種類ほどしかなかったり、サイズが1.5mm間隔でしか製造されていなかったりしていたので、術者も骨折を発生させないようにするためにステムサイズの選択に苦労しましたが、最近はほとんどのメーカーがステムのサイズを1mm間隔にして10種類近くにしたり、中には0.75mmごとにしている会社もあり、メーカーサイドでも骨折を発生させにくい人工関節機種を作るように努力してくれています。また、ステムのデザインによっても骨折しやすいものとしにくいものがあるので、骨折しにくいものが使用可能ならばできるだけそちらを選択して対処するようにしているので、普通の人工股関節手術なら骨折はほとんど心配しなくてよいようになりました。
D短縮した下肢を2cm以上手術で伸展させようとした場合や、伸展が1cm程度でも以前に股関節の手術を受けていて坐骨神経が周囲の組織と癒着している場合は、術後坐骨神経が過伸展されて神経麻痺を起こす場合があります。一過性に回復することが多いのですが、手術時に神経麻痺のおそれがある場合はあまり無理に下肢を伸展させないようにして対処します。
E金属アレルギーは人工関節のように生体内にある場合は、皮膚などと違って、アレルギー反応の発生頻度はごく低頻度です。コバルト・クロム合金や、今ではほとんど使われないステンレス鋼(ニッケル含有)のステムでは、大変まれに体に合わないために挿入した人工関節に対して金属アレルギーを起こして人工関節周囲に骨融解を起こすことがあります。この場合、抜去してセメント固定にする必要がある場合もあります。チタン合金はコバルト・クロム合金やニッケル含有ステンレス鋼に比べて、人体での金属アレルギー反応は少なくてより安全であると考えられています。
F金属アレルギーとは別に単に転子部滑液包炎で手術創近辺に水がたまる事があります。その場合は一般的には手術ではなくて保存的な消炎処置で対処します。
G人工関節の弛緩・摩耗については長期的問題ですが、人工関節を早くすり減らさないように大切に使うように心がけてください。時々ゴルフをしたり、ダブルスでテニスをする程度なら許容範囲内ですが、ジャンプや登山などは控えていただきたいと思います。人工股関節のライナーにクロスリンク超高分子ポリエチレンを用いるようになってからは、以前よりは、自由に活動していただいても問題がなくなってきているように思いますが、やはり人工関節は大切に使っていただくことが何よりです。人工関節の材質・デザインを正しく選択し、初回の手術がよい場合は、人工関節の弛緩・摩耗の発生率を大いに下げることができます。人工関節が弛緩したり骨融解して骨欠損がある場合には、骨欠損部に同種骨を impaction bone grafting という方法で補填する必要があることがありますが、当院では16年前の開院当初より−85℃凍結処理同種骨の骨銀行システムを設置しており、どうしても困った場合の備えも行って対処しております。 (最近は骨融解しにくい手術方法がわかってきたのであまり必要性はなくなってきましたが。)


MIS人工股関節手術後 4日目の歩行
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◆人工股関節手術を行わずに放置した場合の経過◆
変形性股関節症で人工股関節手術を行わずにいた場合は、次の3通りの経過があります。 @10年程、経過観察していても悪化が緩徐な方。初診時、変形性股関節症がかなり進行していて、すでに活動レベルが低くなっている患者さんに見られます。(10年経過観察例) A数年の単位で次第に進行していく方。前ページ写真のような変形性股関節症で、このグループに入る方が最も多数です。 B3〜6ヶ月程で急速に悪化する方。急速破壊型股関節症の方です。このグループに入る方の数は多くはありませんが、骨粗鬆症のある方に発生しやすくなります。
@のような方で、外来でX線検診を続け病気の進行が緩徐で短期的に問題のない方もいらっしゃいます。Bのように急速に大腿骨頭の破壊が進行して激痛を覚え、至急、人工股関節手術を要する方もいらっしゃいます。Aの方は注意が必要です。
臼蓋形成不全に引き続いて発症した二次性変形性股関節症の患者さんが多いのですが、この場合には、生まれてからその股関節しか知らないので、痛みがないと言う患者さんもいらっしゃいます。よく話を聞くと、あれ程度以上使うと痛くなるのがわかっているので、それ以上使わないようにしているから痛みが出ないと言う場合もよくあります。実際には、大腿四頭筋が細くなっていたり、骨萎縮といって、前ページの写真のように、骨が細くなっていたり、カルシウムが抜けてきてX線で骨が黒く見えたりしていることもあり、下肢の骨や筋肉が萎縮していること自体が、体の健康な運動能力に影響を及ぼしています。可動域の悪くなった股関節疾患の方では、歩行時などに股関節が充分に可動域がない時に、その不足する動きを脊椎の動きで補うため、腰椎に過度の負担がかかり、腰椎疾患を併発するようになります。また、変形性股関節症が進行して、骨頭が扁平化して患肢の下肢が短縮してくると、健側肢が相対的に長くなるため、膝を曲げて歩くようになり、屈曲時に荷重のかかる膝関節の軟骨に負担がかかり、股関節の悪い方と反対側の膝が痛くなるようになることもよくあります。股関節は体重を受けるとき中心になって体を支える場所ですから、ここの病気を治さないと、前述の通り、周辺の骨格に負担を与えてくることになります。股関節が悪くなってきたら、早めに治療しておく方が、これらの問題の併発を防ぎ、健康な寿命を長くするために有益と考えられます。
どのタイプであるかは病院でX線経過観察を受けてわかります。

◆人工股関節手術で用いるインプラントの材質について◆
人工股関節手術で現在主流の方法では、カップ(アセタビュラー・コンポーネント、ソケット)・ライナー(インサート)・ステム・ヘッドという4つの部品を用います。これらの挿入される部品の事をインプラントといいます。
人工関節の実際の術中写真をご覧になりたい方は、ここをクリックして下さい。(ブラウザーの「戻る」でこちらへお戻り下さい。) 

人工股関節手術で臼蓋側の寛骨臼にはカップという部品を設置します。骨親和性のよいチタン合金でできたものがほとんどです。その中にライナー(インサート)といって、人間の軟骨の代わりをする部品を挿入します。材質は超高分子ポリエチレンというプラスチックの仲間のものでできたものが現在でも主流です。テフロンやカーボン強化ポリエチレンや長鎖ポリエチレンなどがさらに優れているとされてしばらく使われたこともありましたが製造停止やリコールとなり、結局、ポリエチレン・ライナーと金属ヘッドの組み合わせがチャンレイ以来45年以上の歴史の中で実際に90%以上の10年成績がある組み合わせとして今も多くの施設で使われています。若年者や過度の肥満の方のために、第3世代のアルミナ・セラミックのものもあります。第3世代アルミナ・セラミックを使用した機種は少なく、これを入れるカップの選択機種も現時点では限定的ですが、2007年9月1日にアメリカで使用認可のおりていた製品が数機種日本の厚労省からも認可され選択の余地が広がりました。アルミナ・セラミックについては破損の問題があり長期臨床成績評価についてはまだ確立されていません。2007年9月1日に同時に金属のライナーも認可されましたが、これについても重金属イオンが腎臓などの生体に及ぼす長期的影響が不明なため長期安全性はまだ未確定です。
超高分子ポリエチレンについては、クロスリンクといって超高分子ポリエチレンの長い分子の側面をさらに結合させて強度を上げた材質のものが主流になってきています。今までの人工関節用の超高分子ポリエチレンは実験室内で、股関節を模して作った hip simulator という機械を用いた耐摩耗テストで100万回摺動させて(=こすりあわせて)超高分子ポリエチレンが減り始めてきましたが、新しい人工関節用のクロスリンク超高分子ポリエチレンは500万回摺動させても、まだ、摩耗し始めないというデータが出ています。体内では、実験室内ほどの耐久性は無理としても、少なくとも2倍程度の耐摩耗性があると推測されるので、今まで、10年の耐久性があった人工関節なら20年の寿命も予測されるし、15年の耐久性であったのならその2倍の30年も不可能ではないと考えられ始めています。昔の人工関節のカップはライナーと一体化していて、まとめてソケットといわれていましたが、壊れたときの入れ替え手術を要する場合に、受け皿である臼蓋側の骨を壊す必要がありましたが、新しい製品では、摩耗しやすいライナーだけ交換できるようになっており、人工関節が摩耗して再手術を要するようになっても、2度目の手術では自分の骨を壊さなくてもよいようにできています。

人工股関節手術で大腿骨側にはステムという部品を挿入します。人工股関節ステムは強度の強いコバルト・クロム合金のものと骨親和性のよいチタン合金でできたものがあります。チタン合金は強度的に心配されましたが、正確なコンピューターによる強度計算と実際の臨床成績から、次第に、信頼性の高いものができるようになり、最近はチタン合金のものが増える傾向にあります。ハイドロオキシ・アパタイト(水酸化アパタイト)という素材をコーティングして骨親和性をさらに高めてあるものもあります。ハイドロオキシ・アパタイトをコーティングしたマイクロストラクチャード・セメントレスの人工関節は、20年前よりアメリカで発売されておりましたが、ハイドロオキシ・アパタイトをコーティングした部位より遠位部に骨硬化がおこり、意図した部位でのボーン・イングロウス(骨が人工関節の中に入り込むこと)が不十分で、近位部での骨が弱くなるAMLステムで起こるようなストレス・シールディングという問題がありました。しかし、最近、ハイドロオキシ・アパタイト・コーティング部位より遠位部を鏡面仕上げとし、ここでの骨硬化を抑制し、ハイドロオキシ・アパタイト・コーティング部位にボーン・イングロウスがしっかりと起こることを目的とした商品が開発され、私も使ってみましたが、目的通りにボーン・イングロウスがしっかりとステムの近位部で起こりストレス・シールディングも発生しないので、最近多く愛用しています。 (もちろん、人によってかなり違う股関節の形状と人工関節の形状がぴったり合致することを重視し、常に進化・開発される素材の中で効果が実証された各社の最新機種の中から、その患者さんにとって最もよい使用機種を手術ごとに決定します。)
人工股関節ステムの上には球状のヘッドをかぶせます。ヘッドは強度と耐摩耗性を重視してコバルト・クロム合金のものが主体でしたが、セラミックの使用が増えてきています。セラミックは丈夫な素材として日本では認識されていますが、第1世代のアルミナ・セラミックでは、回収標本でもヒビが入っていたり、実際に破損している症例が学会で発表されており、リコールされた商品もあります。(コバルト・クロム合金のもので破損したものはない。) 第2世代のジルコニア・セラミックでは破壊靱性強度(=こわれにくさ)という耐久性がより向上しています。ジルコニアの方がコバルト・クロム合金よりも表面をなめらかに加工でき、また金属よりも表面の親水性が高くヒアルロン酸や水分を多く含んだ関節軟骨の実際の状態により近いと言えるので、ジルコニア・ヘッドの人工関節の方が人工股関節ライナーの寿命が長いと考えられます。金属とセラミックでは摩耗と破損の比較ですから、どちらがよいかは、20年以上経過してみないとわからないので、今のところ、どちらがよいとは断定できませんが、1996年5月20日に発売されて以来11年半近くたっても破損が実際に起こっていないので、最近では、ジルコニアの方が良いと思っています(下の2枚の写真)。 最新の第3世代アルミナ・セラミックは硬度がダイアモンドに次いで硬く耐摩耗性にたいへん優れており、今後、第3世代アルミナの使用も増えてくると考えられますが、破壊靱性強度については第2世代のジルコニア・セラミックの半分程度です。どんな素材の人工関節がよいかは、それぞれの患者さんの年齢・性別・体重・活動性・ライフスタイルをそれぞれ充分考慮に入れて、硬度・破壊靱性強度・表面粗度・親水性・耐摩耗性などによるトータルでの臨床的耐久性や脱臼のしやすさや破損した場合の生体への影響など各素材の特性を熟知した上で最適の素材を選択することにより、それぞれの患者さんにベストがつくせると思います。


◆自己血輸血について◆
当院では、人工股関節手術前に貯血する自己血は400mlで1回の採血のみです。私は自己血を回収するCBCコンスタバック・ドレーンという器具を1988年に最初にメーカーに輸入依頼し、薬事承認された3年後の1991年から今では常識になった術後自己血回収術を日本で最初に開始しました。それ以降は他家血輸血は原則的には行っておりませんので、術後、肝炎やエイズに感染する心配はありません。エホバの証人などの無輸血手術にも対応しております。

◆人工股関節形成術の歴史
について◆
変形性股関節症は股関節の正面のX線写真(レントゲン写真)1枚があれば診断がつくと言っても過言ではありません。そのレントゲンが臨床に応用されたのは遠く1896年のことですが、驚くことにそれ以前の1885年にオリエールは傷んだ関節の間に人体の筋膜を挿入する手術を行い、1890年にグラックは人工関節の原型となる手術を行っていました。数多く手術が行われるようになってきたのは、1923年にスミス・ピーターソンによって大腿骨頭の表面に球形のガラスを埋め込む「カップ関節形成術」が行われてからです。しかし、カップ関節形成術(=表面置換型人工股関節)では骨頭末端の重要な円靱帯を切断し骨頭の10〜30%を支配する円靱帯からの動脈血流入と静脈環流が阻害され、内外側回旋動脈の血行も手術操作で傷むため、カップ内の骨頭や大腿骨頸部が血行不良により壊死に陥り、大腿骨頸部骨折に陥ったり阻血性大腿骨頭壊死になって骨頭とカップの間で偽関節状態となって痛みが増強し再手術を要する症例が頻発し、スミス・ピーターソン自身が表面置換型人工股関節は3年程ごとに再手術を要する手術であると患者さんに説明するようになりました。高齢者では円靱帯そのものが変形した関節で摩耗して重要性は低いのですが、円靱帯の正常な若い患者さんでは問題となります。術後、骨頭内の血流が回復する方と回復しない方がいて、回復しない方は術後骨頭壊死になり股関節の痛みのほかに手術した足が短くなってくるので自分でもわかります。骨頭内の血流障害が回復する方では、"buy time operation" としての価値がありますが、股関節脱臼などの外傷で骨頭の血流障害が発生した場合に手術侵襲がなくても骨頭壊死の発生する確率が10〜25%あります。(近年、臼蓋側の置換と共に表面置換型人工股関節を行う方法も始まっていますが、骨頭部分が破損して再手術が容易にできるといっても、新たに臼蓋側の再置換も同時に要し、破損していない骨盤側の健常な骨をさらに削るという別の問題が発生します。また、臼蓋側が最初にゆるむ事も多く、実際に過去の教訓では、臼蓋側が原因による再置換は大腿骨側が原因による再置換より多く発生しています。クリーンルームの普及以外はほぼ現在と同じ医療水準となった1970年代にも一時表面置換型人工股関節が見直され、欧米で行われましたが、1980年代になって10年成績は30〜60%の残存率と非常に悪い事が判明し、特に臼蓋形成不全(DDH)および大腿骨頭壊死(AVN)に対して手術したものでは、10年以内に63〜69%が再手術に至りました。) また、ガラスをはじめとして象牙やアクリルなどいろいろな素材が試されましたが、股関節はテコになって体重の3〜4倍もの力がかかる場所ですから、破損しない素材を見つけるまでに15年近くかかりました。1938年になってバイタリウム(コバルト・クロム合金)という金属のカップが使用され、人工物自体の破損は概ね解決できるようになってきました。同じ1938年に、初めてステンレス製の人工関節でできた「人工関節置換術」がワイルズによって行われ、今の人工関節手術の時代の幕があけました。1958年に研究に着手し1961年にチャンレイが雑誌ランセットに多くの点で今の人工股関節形成術の原型となる「新しい手術」を発表しました。チャンレイは臼蓋のカップの受け側にポリエチレンを使用し、骨セメントで人工関節を固定することによって、飛躍的に良好な成績を治めることができるようになりました。その後、人工関節に向かって骨が成長するタイプ(ボーン・イングロウス)のものや、骨に親和性の高い水酸化アパタイトなど新しい素材が開発され、力学的デザインや製作もCAD・CAMで行われ、ステムという大腿骨側に固定する部品についてはコバルト・クロム合金やチタン合金で良好な長期成績が得られるようになりました。今後の最大の関心事は、臼蓋といって人工関節を受ける側に用いられるカップの素材で、耐摩耗性の高い超高分子ポリエチレンもしくはそれに代わる破損しにくい新しい素材の開発が待たれることでしょう。日本の整形外科の歴史は約50年ですが、皆さんが新しい治療と思っていらっしゃる人工関節手術の歴史はその約2倍で、今日、人工関節手術で良好な成績が得られるのは、100年以上にわたる世界中の整形外科医の臨床研究の集大成としての成果なのですね。

(金沢市医師会ビデオライブラリーで音声説明と共にご覧になりたい方はこちらへお入りいただき、パスワードを入力して左にあるカテゴリの上から11番目の整形外科の中にある、タイトル:「人工股関節手術について」の所をご覧下さい。(17分10秒))

最新の股関節手術であるMIS最小侵襲人工股関節手術についてはこちらへどうぞ
(歴史的な人工関節の実物写真パネルをご覧になりたい方はこちらへ(296KB))

(高画質でビデオライブラリーの原本をごらんになりたい方はこちらにあります。(Internet Explorer 6 およびクリーンインストールした Windows Vista のIE7で再生可能ですが、Netscape Navigator では再生できません。IE6をアップグレードしたIE7でも何度か試行すると閲覧できますが、まだフリーズしやすいです。) 53MB!ありますのでご注意下さい!  クリックしたあとIE6で左下段に「ページが表示されました」と表示されても、まだ、ダウンロード中で、スライドは表示されていません。Bフレッツ100Mbpsの光ファイバー環境のデスクトップパソコンで表示まで約3分、10MbpsのCATVで表示まで約20分かかります。ダウンロードが終了しますと自動的に1枚目のスライドが表示されます。ハードディスクの作動ダイオードが点滅している間はダウンロード中ですので、モニターの画面は何も変わりませんがそのままお待ち下さい。「人工股関節手術」のスライドが表示されましたら、右下の「スライドショー」をクリックすると自動進行のスライドが開始します。)


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