詳細レポート

KIT Golden Eagle号 オーストラリア世界大会で5位入賞
予選では歴代4位の最高速を記録。今大会最速でポールポジョンを獲得

10月17日にオーストラリア大陸北端の町Darwinをスタートし、オーストラリア大陸を縦断、
3010kmを走破して南端の町Adelaideにゴールする、世界最大のソーラーカーレースW.S.C.'99
に初参加した金沢工業大学・夢考房チームは並みいる世界の強豪を相手に奮闘し、22日11
時30分にゴール場所のAdelaide市内・Victoria Parkに日本チーム(12チーム出場)としては最
上位の5位でゴールした。また先立つ16日のスタート順を決める最高速テストでは歴代4位の
118.81km/hを記録してトップとなり、翌日からのレースではポールポジションからのスタートとな
り、初参加チームながら一躍注目を浴びることとなった。ちなみに歴代の記録は1位 '96ホンダ
ドリーム135.34 km/h 2位 '93 Biel工科大学129.0 km/h 3位 '93ホンダドリーム125.0 km/hとな
っている。
このレースに参加するにあたり準備も多々あり、先発隊(職員1名、学生6名)は9月30日に金
沢を出発した。おりしもこの日は関西空港滑走路上に別の飛行機が立ち往生し、一時閉鎖に
なるという事故があり、21時35分発Brisbane行きのカンタス航空374便は約3時間遅れの0時30
分に出発した。この遅れによりBrisbane空港では1日に1便しかないDarwin空港行きに乗り継ぎ
が出来なくなり、Brisbane→Cairns→GOVE→Darwinと乗り継いで予定より半日遅れて21時30
分にDarwin空港に到着した。空港では夜間にもかかわらず、ソーラーカー輸送全般をお願いし
ているスミトランス・ジャパン常務の阪本氏が出迎えて下さり、レンタカーの借用手続きを済ま
せた後、Darwinでの宿泊先であるAltai Holiday Apartmentsにチェックインした。

翌日10月2日、ソーラーカーの組立、整備場所となるT.D.Z.(Trade Development Zone)へ行
き、ソーラーカーを搭載してあるトラックを引き取り、ソーラーカー及び積荷の積み下ろしにか
かった。16時からは現地係員による検疫があったがこれも無事終了した。スミトランス・ジャパ
ンにお世話頂き、今回の組立、調整などの作業場所として用意されていたのはT.D.Z.内の飲料
水会社の倉庫であり、日本から出場する12チームの内スミトランス・ジャパンに依頼した10チ
ームがこの場所で作業することとなっていたが、我々が一番乗りであった。
翌3日からは毎日市内のホテルからこの場所まで通い、日本でやり残した加工や、調整、整備
及び蓄電池の充電などを行い、深夜まで作業する日も何日か続いた。

10月8日(金)午後、本隊(職員2名、学生6名、運送業者1名)が日本から到着し、合流後15時
頃から道路を試走する為の仮車検を受け、無事合格した。
10月10日(日)一般道路での試走を開始し、T.D.Z.周辺で1日に20km程度走行したが、フロント
タイヤがタイヤカバーに擦れ、タイヤサイドを傷つけてパンクした。

11日(月)、12日(火)にはT.D.Zを出て比較的交通量の少ない海岸までの道路をそれぞれ、
110km、250km走行し、オートクルーズシステムを使用した試走などを繰り返し行った。このオ
ートクルーズシステムというのは、指令車内で設定した消費電力をテレメータシステムを用いて
ソーラーカーに送り、一定消費電力という条件でソーラーカーを自動走行させる本学独自のシ
ステムである。この試走の間にも二度パンクしたが,前日同様タイヤカバーに擦れて起きたも
のと、路面の尖った石によりトレッド面がバーストしたものであり、タイヤに関しては先行き不安
な悪い予感に襲われた。

13日(水)には後発隊(教員2名、学生2名)が加わり、全スタッフがそろう事となった。
14日(木)には遠方の、比較的レースコースに似ていると言われるKakadu国立公園の方へ長
距離試走に行く予定で早朝に出発したが、試走を開始しようとソーラーカーをトラックから下ろ
す準備にかかったところ豪雨となり、回復しそうにもなかったので試走を中止し、先にレジスト
レーションを済ませることにした。レジストレーション及び車検はDarwin郊外のShow Ground に
あるFoskey Pavilion内で行われ、レジストレーションを済ませた後、登録したドライバー4名の
体重測定及びバラスト検査までを終了し、後は指定された翌日11時からの車検に備えることと
した。

15日(金)はFoskey Pavilion内で車検が行われたが、事前準備もよく、何事も無くスムーズに車
検は終了した。

16日(土)にはHidden ValleyサーキットにおいてStability Testが行われ、3連の大型ロードトレ
ーンと対向してすれ違い、その時の風圧による車体の安定性がテストされた。さらにその時に
最高速度も計測され、記録した最高速度順に明日からのレースのスタート順が決定される。こ
こでKIT Golden Eagle号は118.81 km/hを記録し、第1位となり明日ポールポジションからスタ
ートすることとなった。この記録については前回まではソーラーカーが動いている状態からの加
速であり、今回は停車状態からの加速であったので単に比較することはできないが、歴代4位
の最高速度を記録することができた。夕方16時30分より市内スタート場所前に建つNovotel
Atrium Darwin Hotelでブリーフィングが開催され、スタートの方法、前回までとは異なり、各メデ
ィアストップ(報道関係などのために設けられた30分間必ず停車しなければならない指定場所)
では基本的に車両に触れることが出来ない事(整備やタイヤ交換も出来ない)、スタートから
153km地点に道路工事区間がありダート(非舗装路)である事などの説明が行われた。

[レース1日目]
17日(日)スタートの朝、4時20分ホテルをチェックアウトして出発。スタートライン手前でトラック
からソーラーカーを下ろし、整備を行った後、6時までにスタートラインに整列させた。8時にスタ
ーティングフラッグが振り下ろされ、KIT Golden Eagle号を先頭にレースは開始された。スタート
時はソーラーカー単独だったものが、約30分経過した時点で先々行車、先行車、ソーラーカ
ー、指令車の隊列となり、さらにその後ろにはキャンプ時に食事の調理をするためのキャンピ
ングカーと、工具、スペアパーツなどを積んだ運送用トラックが続いて所期の態勢となった。
先々行車は隊列の前方約20km先を走る。これは無線の届くぎりぎりの範囲である。その任務
は搭載した太陽電池によるその地点での発電量、日射量の計測、路面状況、対向車の有無
などの情報収集で、これらの情報を無線でソーラーカーの直後を走行する指令車に伝える。情
報を受けた指令車は前述のオートクルーズシステムでソーラーカーを自動走行させる。スター
ト後は順調に走行していたが、前日のブリーフィングでも説明のあった153km地点での工事区
間のダートでリヤタイヤがパンクし、タイヤをその場で交換、またこの時ブレーキが効かなくな
っているのが判明し、工事区間を抜けた地点でブレーキ修理を行った。これらの作業で約1時
間の停車を余儀なくされた。スタートより約310km先の最初のメディアストップ、Katherineに到
着した時点でもブレーキは改善されておらず、メディアストップ後に再度ブレーキの修理を約20
分かけて行った。ルールで定められている17時まで走行を続け、1日目の走行距離は約513km
で、この時点では12位であった。この日は予期せぬトラブル続きで、前途多難を思わせた。17
時に停車しても太陽が沈むまではソーラーパネルに太陽光を当てて充電を行い、少しでも電
気を蓄えるようにする。なお、この日何度修理しても改善されなかったブレーキは、マスターシ
リンダからの油漏れが原因である事が判明したので、マスターシリンダを交換し、明日からに
備えた。

[レース2日目]
太陽光を利用して充電するため太陽が昇り始める前、早朝5時30分より充電準備を開始す
る。朝日が顔を出してから、ルールで定められている走行開始時刻8時までは充電を続け、少
しでも電気を蓄えるようにする。今日はブレーキトラブルも解消され、順調に走行を続け
Dunmarra、Tennant Creekの二つのメディアストップを通過して約526kmを走行した。順位を6
位まで上げ、スタートから1039km地点まで進む事ができた。この日、理事長、学長より応援の
メールを戴き、チーム全員大変感激した。17時に停車後バッテリをチェックした所、搭載してい
る新種のバッテリ(酸化銀亜鉛蓄電池)82個のうち1個が死んでいるのを発見し、そのままでは
他の電池にも影響を及ぼすので、配線をバイパスするように接続し直した。酸化銀亜鉛蓄電
池は高性能ではあるが非常に短命で、また固体差が大きいことを改めて知らされた。

[レース3日目]
これまで順調だったオートクルーズが不調となり、この日はドライバーが消費電力を指令車か
らの指示通りコントロールするマニュアル運転で走行した。しかし路面の勾配などにより一定
消費電力で走行する事は難しく、オートクルーズシステムの有効性を再認識した。このオートク
ルーズシステムは数年がかりで開発したものであるが、今回このシステムを塔載したチームは
他にはなかったようである。また、スピードメータもセンサーのクリアランスが大きすぎたのか今
日は働かず、走行には非常に苦労した。それでも約598kmを走行、第4のメディアストップでち
ょうど中間地点に当たるAlice Springsを通過し、スタートから1637km地点まで進んだ。順位は
オーストラリアのSpirit of Canberra号を抜き5位に浮上した。なお不調だったオートクルーズシ
ステムは夜間スペアのものと交換し、翌日には支障ないように対処した。

[レース4日目]
スタートしてすぐにブレーキのホイルシリンダが戻らず、ブレーキの引き摺りが発生し、消費電
力の割にはスピードが上がらないトラブルに見舞われた。すぐに停車して修理を行ったが、約
25分間停車する事になり、昨日抜いたSpirit of Canberra号に抜き返されてしまい、6位に転落
した。しかし、修理後は順調で、次の5番目のメディアストップCadney Homesteadまでには再度
抜き返し、差は5分程度であったが先行する事ができた。メディアストップを出てからも順調に
走行を続けていたが、16時40分頃、突然スピードが出なくなり走行停止。原因は今回新しく採
用している酸化銀亜鉛蓄電池の特性を完全には把握しきれてはおらず、バッテリ残量がまだ
残っていると思っていたものが、実は空になってしまったものと思われた。今日はこの場所でキ
ャンプする事に決め、早々に夕方の充電を開始し、明日からの走行のために少しでも多くの電
気を蓄えることに専念した。また、充電後にバッテリをチェックした結果、さらに4個のバッテリ
が死んでいることがわかり、これらの蓄電池も配線でバイパスし、明日からは搭載82個中、77
個で走行することとなった。本日は584km走行。スタートより2221km地点まで進んだ。順位の変
化はなし。

[レース5日目]
昨日の走行で空になったバッテリも夕方、朝の充電である程度回復し、走行に支障のない程
度にまでなり、8時にはいつも通りスタートすることができた。本日は全てが順調であったが風
が強く、安全のためペースを上げられない時もしばしばあった。また風のため竜巻(現地では
ウィリーウィリーと言う)が多数発生し、隊列の直前を横切る場面もあったがソーラーカーの走
行に支障はなかった。本日は快調でGlendambo,Port Augustaの2箇所のメディアストップを通
過し、今大会で初めて予定していた1日600kmを超える608kmを走行することができた。スタート
からは2829km地点となり、ゴールまで残り207kmとなる場所で最後のキャンプをすることになっ
た。この時点での情報によれば、最後の計測ポイントGepps Crossを上位2台は通過したが、
17時を過ぎたので市内のゴールにはまだ到着していないとのことであった。ゴール地点は市内
Victoria Parkに設けられているが、市内に入ると交通渋滞なども予想されるので、市内の入口
にあたるGepps Crossで最後のタイム計測を行い、そのあとはフリー走行となっている。

[レース6日目]
この日も風が強かったが順調に走行し、最終計測ポイントGepps Crossを11時03分に通過。こ
の後は市内の交通混雑、信号などがあるため安全に注意を払い、慎重に走行を続け、11時
30分頃、Victoria Park内にある、元F‐1グランプリが開催されていたコースの、当時のコントロ
ールライン上にあるフィニッシュラインを横切り、ゴールとなった。結果は1位と同一日ゴールの
5位であった。公式結果は以下の通り。

順位 車両名 参加国  所要時間  平均時速
1位 Aurora オーストラリア  41時間06分 72.96km/h
2位 Radiance カナダ  41時間33分 72.12km/h
3位 Sunshark オーストラリア  41時間50分  71.86km/h
4位 Desert Rose オーストラリア  42時間14分 71.00km/h
5位 KIT Golden Eagle 日本 44時間33分  67.31km/h


ゴールした日の夜、宿泊先のApartment On The Park内で、教職員主催によるささやかな祝賀
会を開きチーム員全員で喜びを分かち合った。
26日まではVictoria Park内に設置されたテント内でゴールしたソーラーカーの展示があり、日
本で作成してきたPR用ポスターや英語版配布資料を同時に置いてPRに努めた。

26日、19時30分からプレゼンテーションディナーがVictoria Park内テントで開催され金沢工業
大学チームはSilicon Silver Zinc Classで2位となり表彰を受けた。また、このパーティーは他チ
ームとの交流の場でもあり、金沢工業大学チームは成績も上位であったことから「カナザワ・カ
ナザワ」と外国チームからも人気があり、学生たちは進んで他の外国チームとTシャツ、トレー
ナなどの交換をするなど友好を深めていた。(私もAuroraチームのウインドブレーカーとトレー
ナを交換し、大事に保管してあります)
最後にトラックへの積み込み、積み込んだトラックを倉庫へ搬入、レンタカーの返却などを済ま
せ、10月30日(土)Adelaideを後にし、金沢には31日(日)12時55分に到着した。金沢駅にはプ
ロジェクトメンバーと共に多くの方々に出迎えていただき、とても感激した。

今回の大会に参加した学生は準備のみの者も含めて14名であったが、製作,事前準備には
プロジェクトメンバー全員が当たり、学校に残ったメンバーも、随時現地から送られてくる情報
を基にホームページの更新を行い、学内外へのPRに努めるなどプロジェクトメンバー全員が
一丸となってこの大会に臨めたと思う。

今回初出場ながら5位入賞できた事で各方面から多くの祝福の言葉を戴いたが、プロジェクト
としては当初目標とした5日以内でのゴールは達成できず、車のポテンシャルを見る限り、もっ
と上位を狙えたはずである。砂埃に対する考え方の甘さからブレーキトラブルが発生し、修理
のため長時間停車する事を余儀なくされたり、バッテリの特性を掴みきれておらず、バッテリを
空にしてしまい走行不能に陥るなど要因は多々ある。原因を究明すると共に、次回大会の
2001年には今回の反省を基に自動車としての安全性を高めて再挑戦し、学生世界一を目指し
たい。



 
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