是貞のみこの家の歌合によめる

月見れば千々に物こそかなしけれ我が身一つの秋にはあらねど

(大江千里:古今集巻四・秋上193)

美しく澄んだ秋の月をながめているとなんとなくもの悲しくなってくる。
別に自分ひとりだけに来た秋ではないのだけれど。

<大江千里>
漢学者。『伊勢物語』などで有名な在原業平は叔父にあたる。
また名前は「おほえのちさと」と読み、どこかの歌手とは別人(・_・)
この歌は百人一首にも採られている。

題知らず

有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし

(壬生忠岑:古今集・恋三625)

つれないあなたに逢えないまま帰ることになった時
そのあなたのようにそ知らぬ顔をして出ていた有明の月
それを眺めて以来、暁ほどつらいものはありません。

<壬生忠岑>
『古今集』撰者の1人で三十六歌仙の1人でもある。
なお、この歌も百人一首に採られている。

永承四年内裏歌合によめる

嵐吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり

(能因法師:後拾遺集・秋下366)

山嵐が激しく吹く三室山の紅葉の葉は
竜田川を錦織りのようにして散り乱れているのだなぁ。

<能因法師>
俗名橘永ト(ながやす)。はじめ大学に学び文章生となったが、26歳ごろ出家。
諸国を行脚して歌を詠んだ。
なお、この歌も百人一首に採られている。

題知らず

さびしさに宿を立ち出でてながむればいづこも同じ秋の夕暮れ

(良暹法師:後拾遺集・秋上333)

あまりの寂しさに堪えかねて、庵を立ち出でてあたりを眺めると
どこも同じくわびしい秋の夕暮れであることよ

<良暹法師>
後朱雀、後冷泉朝期の歌僧
経歴は明らかではないが、叡山の僧で祗園別当となり、大原に隠棲し、晩年は雲林院に住んだらしい。
この歌も、百人一首に採られている。

崇徳院に百首の歌たてまつりけるに

秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ

(左京大夫顕輔:新古今集・秋上413)

秋風によってたなびいている雲の切れ間からもれて出てくる月の光は
なんという澄みきった明るさなのであろう。

<左京大夫顕輔>
藤原顕輔。六条藤家の始祖顕季の三男。
数多くの歌合に出詠し、判者をつとめたこともある。
この歌も、百人一首に採られている。



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