題知らず

かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける

(中納言家持:新古今集・冬620)

天の川にかささぎが翼を連ねて渡した箸の上に降りている霜の真っ白なのを見ると
もう夜もずいぶん更けてしまったことだなぁ

<中納言家持>
大伴家持。大伴旅人の長男。はやくに父を失い、坂上郎女に養育された
『万葉集』の編集に大いに関わったと見られている。三十六歌仙の1人
この歌は百人一首にも採られている

大和国にまかれりける時に、雪の降りけるを見てよめる

朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪

(坂上是則:古今集・冬332)

吉野で一夜を明かしたが、ほのぼのと夜の明けるころに起きてながめ渡すと
まるで有明の月光がさしているかと思われるほど、夜のうちにこの里に白雪が降り積もっていた

<坂上是則>
坂上田村麻呂の曾孫好蔭の子と言われており、醍醐、朱雀の両朝に仕えた。
三十六歌仙の1人。なお、この歌も百人一首に採られている。

冬の歌とてよめる

山里は冬ぞ寂しさまさりける人めも草もかれぬと思へば

(源宗于朝臣:古今集巻六・冬315)

山里はいつも寂しいものだが、とりわけ冬はひとしおその寂しさが増したことだ
今まで山野の風物を訪ねて来た人ももう来なくなり、目を慰めた草も枯れ果ててしまうと思うと

<源宗于>
光孝天皇の皇子是忠親王の子。臣籍に下ったが、たいして出世できなかった。
三十六歌仙の1人。なお、この歌も百人一首に採られている。

雪のふりけるをよめる

冬ながら空より花の散りくるは雲のあなたは春にやあるらむ

(清原深養父:古今集巻六・冬)

冬でありながら空から花の散ってくるのは
雲のあちらのほうは、もうすでに春なのであろうか。

<清原深養父>
『枕草子』で有名な清少納言の曽祖父
紀貫之などと親交があり歌人としてすぐれていた。琴の名手でもあった。
百人一首には「夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいずくに月やどるらむ」が採られている。

富士の山を望める

田子の浦ゆうち出でて見れば真白にそ富士の高嶺に雪は降りける

(山部赤人:万葉集巻三・雑歌)

田子の浦を通ってながめの良い場所に出て見ると、なんとまあ、真白に雪が降り積もっていることよ
実に素晴らしい光景だ

<山部赤人>
奈良時代初期の宮廷歌人。歌聖、柿本人麻呂と並び立つほどのすぐれた歌人であると言われる。
なお、この歌は『新古今』にも採られ(ただし細部は変わっている)さらにそこから百人一首に採られている



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