めっきの話題 2004年分



目次

2004/3/20:工程能力指数について(現場作業者向け)
2004/5/14:車載用チップ部品のはんだ接合面における高温劣化の挙動と寿命予測
2004/5/22:亜鉛電解採取と亜鉛電気めっき
2004/5/29:SIMS and XPS Analysis on Displacement Au Layers Formed on Electroless Plated Ni-P Layer
2004/6/17:無電解めっきの活性化前処理に用いられるセンシタイジング液の経時変化
2004/8/1:応用広がる光触媒技術
2004/8/6:電気銅めっき膜の内部応力および結晶成長に及ぼすハロゲン化物イオンの影響
2004/8/24:環境ISO講習会
2004/8/28:電子部品のマイクロ接合技術を支えるめっき技術 −鉛フリー化への対応−
2004/9/23:最近のめっき技術動向
2004/9/29:化学エッチングの基礎
2004/10/16:ホウ素およびフッ素処理
2004/12/27:Pbフリーはんだめっきの現状とSnめっきのウィスカー対策
2005/1/12:貴金属めっき浴の種類と特徴
2005/2/8:酸性電解水によるオイルの溶解作用
2005/3/1:環境に優しい表面処理鋼板


2005/3/1:環境に優しい表面処理鋼板


2004年の第十二号は「エレクトロニクス産業を支える表面技術」が特集です。
今更言うこともありませんが、電子部品に優れた特性を与えるためには、表面処理不可欠の技術です。
表面処理は古くは素材の化学変化の防止(簡単な例はサビ止め)を目的としていましたが、現在は表面に素材と違った特性を与えることで、そのデバイスに求める性能を付加するという用途が主流と言えます。
2004年度最後の特集では、最先端の表面技術について触れています。
正直なところ、話が高度すぎる部分があり、実用的ではないことばかりになってしまいます。
そんな中から、一番実用になりそうな話題として、表題の記事を取り上げます。


まず記事では、環境に優しいということについて、「含まれる環境負荷物質の低減」と「それを使用することによって環境への負荷が減少すること」の二つの観点があるとしています。
この両方の観点から、表面処理鋼板の解説をするというのが記事の内容です。
鋼板の表面処理というと、亜鉛鋼板のクロム系が思い浮かぶ方が多いでしょう。聞きなれない方向けに簡単に触れると、鉄に亜鉛の表面処理(例えばめっき)を施すと、亜鉛は自分が優先して腐食される形で鉄を守ります。このとき亜鉛は白サビを発生します。外観上の要請や全体の腐食の遅延のために、亜鉛を守るために行う処理のひとつがクロム系処理で、クロム系の皮膜が腐食を防止します。
クロム系表面処理は防錆力が強いこと、キズに対して表面状態が修復していく性質があること、比較的安価であることが特徴であり、これまで広く使われてきました。
こうした特長を持ちながら、環境負荷物質であるクロムを含まない表面処理が要請され、鉄鋼を供給する各社からすでに提供されています。

ちょっと横道にそれますが、クロムが表面処理で上記のような性能を有するのはなぜでしょうか。
これには科学的な性質からくる以下の理由があると(私は)認識しています。
 1:6価のクロムは大気中で安定であり、容易に還元を受け付けないため、表面に安定して留まることができる
 2:クロムは同時に3価も安定である。3価と6価が混在するクロム皮膜は亜鉛の介在を得て酸化・還元の両反応に対してクロム皮膜レベルのみで防御力を発揮できる。
 3:クロムの欠落部があると、水分や亜鉛皮膜の助けを得てクロムが酸化・還元しながら周囲から移動して欠落部を埋めていくことができる。これは通常からクロメート皮膜が完全に固定化した安定性で防錆力を発揮するのではなく、絶えず内部的に変化しながら全体として安定していると考えることができる。
特に重要なのは3であり、クロムフリー(過渡期的に6価クロムフリー)で突き当たる壁になります。
これらをクリアしたものが以降で述べるクロムフリー製品なのですが、よく考えてみてください。
クロムフリー製品も上記の特性を有します。これら特性はクロムの化学的性質からくるものであると言いましたが、クロムフリー製品も同じような性質があったりしないのでしょうか。
このことはすべての化学物質代替品に及ぶ問題です。より低い毒性ではあるかもしれないが、同じようなことを引き起こしたりはしないのかという危険は、常に考慮されるべきです。
うちで鉛フリー無電解ニッケルめっきをしていますが、一般の鉛フリー無電解ニッケルはビスマスのような別の重金属を含んでいます。これでは単なる問題の先送りで終わっているかもしれません。
幸いなことに、うちのものは「重金属フリー」らしく、薬品メーカーが新規開発したものだそうです。立ち上げは多少の苦労がありましたが(ビスマスを使うものは旧来から存在し、ノウハウがすでに蓄積済み)、大手を振って環境に優しい無電解ニッケルと言えそうです(あ、ニッケルがダメだとか有機物&リンがダメという意見はありますね)。
究極的に、工業と環境負荷物質は切り離せません。したがって市場への流出品(つまり製品)から環境負荷物質を追い出す必要があり、それは問題先送り手法では解決しないのだと考えるべきです。これが環境問題を考える基準点のひとつであるべきだろうと思います。

戻りまして、クロムフリー製品の品質ですが、むしろクロム系のものよりよいということになっています。代替技術とはいえ、以前より悪いものでは使えません。その結果(同じものは作れないので)、以前よりよい性質を持つものが作られることになったわけです。
また、外観などの要請を満たすためには塗装を施したプレコート鋼板を使用しますが、ここでも同じようにクロムフリー化されてきており、クロムフリーになっても外観を長期間保持する性能は劣らないものになってます。エアコンの室外機などといった屋外での使用を想定したテストでも良好な結果が出ているようです。
以上をもってクロムフリーは実用レベルに達している(使用実績も十分になってきた)とこの解説では判断しています。


はんだを使用する鋼板は電子部品用として使われてきましたが、これも鉛フリーなものへの転換が進んでいます。一例としてZn-Sn-Ni合金めっき鋼板を挙げています。
これは3元素の合金めっきを施すわけでなく、Ni、Sn、Znの順にめっきした後、加熱して各層を拡散させるというものです。これによってはんだ濡れ性とウィスカー耐性を獲得しています。
他に表面抵抗値が低いという特性があり、優れた性状を示します。耐食性は必ずしも優れているわけではないようですが、実用上の問題がないレベルだそうです。
この手のものには、防錆剤と有機樹脂を被覆した鋼板もあり、これは耐指紋性(何でしょうねぇ・・・指紋跡が残らないでいいのでしょうか)や耐取り扱い傷性(こんな風に書かれると変な感じですね。擦れ耐性ですね)が優れているそうです。つまり取り扱いが容易なんですね。


環境負荷が低減するものとしては、潤滑鋼板(潤滑油が要らない)のようなものがありますが、つまり付加価値として機能を付けることで、他のものの必要性や処理の要求を減らそうというものです。
解説では放熱性について取り上げています。電子製品は消費電力が増大して発熱量が増えていますから、放熱は重大な問題です。大きなファンを付ければ放熱しやすいですが、コズトがかさみます。孔を開けると電子部品の電磁波をシールドするのが容易ではなくなります。
今はそれ以外に筐体自体からの放熱を使う手法が使われています。例えばファンレスやキューブタイプのコンピュータがこの手法を利用しています。
この放熱は、吸熱・放熱性のよい鋼板によって実現します。内部の熱を吸収し、低い外気へ放出するわけです。これにより従来の放熱機構のコストダウン・ひいては環境負荷低減へと繋がるわけです。


この解説は鉄鋼業界の方がお書きになったもので、自社が扱う鋼板そのものの話でしょう。
当サイトはPCでご覧になっているでしょうが、昔の低い電力のPCと現在の消費電力が高いPCの筐体はほぼ同じ大きさです。ファンが増えたとか、通気孔が大きくなったというものもありますが、筐体放熱性の向上は重要な位置を占めます。
いわゆる「安物のケースはダメ」という話です。
鋼板はものづくりの基盤となるものです。これらの環境対応は全体の環境対応促進に大きく貢献すると思います。なにしろ、単純に表面積が大きいものに繋がりますから。




2005/2/8:酸性電解水によるオイルの溶解作用


2004年の第十一号は「アルミニウム化成処理の環境対応」が小特集です。
アルミニウムは錆びないなどと言いますが、実際の酸化還元電位を見ると弱い金属です。
しかし、一円玉などを見てわかるように、ほとんど変化を見ることがありません。これは表面で強固な酸化皮膜を形成して内部の金属が守られるためです。
この皮膜は優秀な防錆効果がありますが、表面に塗装したり、特別な性質を持たせるときには邪魔です。そこで行うのが表面を意図した性質の皮膜にしてしまう化成処理です。
一般的に強い薬品が使用され、今回の小特集にスポットを当てるならリン酸クロム系の処理が有名です。これは3価のクロムですが、全クロム規制も存在する以上、代替技術へとシフトしていかなくてはなりません。
代替技術としては、ジルコニウム・チタン系処理、有機系処理、陽極酸化の改良などが挙げられています。
これは大きな分野であり、車体の塗装など重要なものが多いのですが、アルマイトすらうちではやっていません。
そこで今回は上記の論文を取り上げます。


以前に一度電解水を取り上げていますが、オイルの溶解はアルカリ性電解水で行うという話でした。
今回は、そのアルカリ性電解水よりも酸性の電解水の方が油を溶解するという内容です。
アルカリ性の電解水の主な油除去効果は、アルカリであるが故のケン化によるものでした。
酸性の電解水にある効果として、金属皮膜の溶解、溶存酸素によるオイルの溶解を予想しており、特に次亜塩素酸の生成による効果を高く見積もっているようです。次亜塩素酸は塩化ナトリウム水溶液を電解すると得られるもので、水の電気分解ではありふれたパターンです。

実験はトリデカンを油脂として水に飽和させ、そこへ条件を変えた電解水を加えて溶解成分やTOC(有機炭素の量)を測定するというものです。
電解水と同じpHにした塩酸や硫酸の水溶液ではほとんどオイルは溶解しません(むしろ純水の方が溶ける)。電解水を塩化ナトリウム・硫酸ナトリウムのいずれで作った場合でも大きな溶解効果を示します。
電解水の条件を変更して溶存酸素を高めると、溶解の効果が高まる結果が出ます。この反応機構としては、溶存酸素がオイル周囲に集まって対象物から引き離す効果が考えられ、このほかに電気的な作用を研究することで知見を得たいとしています。
溶存酸素の引き離しの効果は、ガス溶解水が微粒子の洗浄に効果的であることと関係しているとしており、これに関係する特性としてアルカリ性電解水ではなかなか離れないエマルジョンが生じるのに対して、酸性電解水は油層と水層がきれいに分離するという観察をあげています。
このきれいに分離するという特性は、かなり有用だと思います。アルカリ浸漬脱脂の問題点のひとつは、水洗不十分になる可能性があることですが、酸性電解水はこの点を克服できそうです。

この洗浄効果の結果を調べると、溶け込みだけでなく化学変化が重要な役割を果たしています。
トリデカンを溶解させると、親水性・揮発性の生成物(蟻酸・酢酸・クロロホルムなど)を生じていることが確認されています。
この論文ではクロロホルムやクロロベンゼンが生じていることから、フェノール化合物の塩素処理同様、次亜塩素酸の働きによって有機塩素化合物が生成している、と推定しています。
硫酸ナトリウムによる電解水では、塩素によるような反応は見られず、上記を補足しています。

この溶解の前後で、TOCの変化は見られないという結果が出ました。
これはオイルが酸化分解されて二酸化炭素が生じる反応が起こっていないことを示しており、別の有機物への変化が支配的だと考えられます。
酸化分解については、論文の著者が予想していたようで、この点は違う機構であったことを報告しています。

この予想と違う結果(酸性電解水が油脂の溶解に効果的であること)は、広い応用の余地をもつと思います。
アルカリ性の洗浄と違う効果であるため、両方での洗浄を実施することはかなり効果的である可能性があります。こうなると戻せば水という強みも生きてきそうです。
まだ研究室レベルであると思っていますが、大規模な環境に実用化できる段階まで進むとしたら、優れた技術であると思います。
実際の生産で試すというものがなく、半信半疑というのが本音ですが、油の滴る製品をきれいに洗浄できる工程に組み込めることが私にとっての評価基準なので(他の分野なら十分であることもあるでしょう)、今後に期待したいです。




2005/1/12:貴金属めっき浴の種類と特徴


2004年第十号は「最新の貴金属めっき技術」が小特集です。
貴金属というと普通は金や銀を想像するところです。金や銀以外に、パラジウム、ロジウムほかの白金族や周辺の元素を扱うめっきを貴金属めっきと称します。
(論文では、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウムの8元素を貴金属としています)
これらのうち、オスミウム以外はめっきが可能です。
今回はこうした貴金属めっきの概論を述べた表題の記事を取り上げます。


さきに同号にあったちょっとした話題を触れておきますと、SACDとDVDーAudioの話が載っていました。
SACDはSuper Audio Compact Discのことで、片面2層の8.5GBの規格です。今のDVD+RW DLと容量的には同じで、専用の再生ドライブが必要になります。
DVD-AudioはDVD-Videoから映像を取ったものと理解すれば良いでしょう。基本的にDVD-Videoが再生できれば使用することができますが、一般のCDプレイヤーでは使えないことはSACDと同じです。
市販品としての両者は、長時間というより高音質のためにあります。DVDが焼ける環境があれば、CDの音質なら約7倍の時間のCDもどきをDVD-Audioで作れますが、売り物としては音質が高いことの方が大事です。
で、どっちが生き残るかという話からスーパーマルチドライブ系のことを触れていましたが、この先次世代DVDも控えていて混沌としています。
どれが勝ち残るのでしょうね。DVDはROMで争わなかったのですが、次はROMから違いますから。


さて、貴金属めっきですが、その化学的特性のために特殊な化合物をめっき浴に使用するものが多いです。以下、順番にその主な組成や特徴を挙げていきます。

金めっきは、通常シアン化金(I)カリウムを使用するシアン系と、亜硫酸金(I)ナトリウムを使用するノンシアン系に分かれます。
シアン系というと通常アルカリ性のめっき液を想像しますが、シアン化金カリウムはpH3付近まで安定して存在することができます。そのため、アルカリ性・中性・弱酸性のシアン系金めっきがあります。
産業に最も重要なのは、弱酸性の金めっきでしょう。酸性であるため、他の金属(アルカリ性で水酸化物を生成するような)との共析が可能で物性に幅を持たせることができ、またアルカリに弱い素材へのめっきも可能になっています。
酸性の金めっきでは、めっき時にシアンが遊離し、シアン化水素を生じるので作業環境への注意が必要です。シアンに弱いフォトレジスト関係を除けば、最も広く使われる金めっきです。
中性の金めっきは、硬質金とも言われる酸性金めっきと違って、軟質金めっきなどとも言われます。純度が高い金が析出することに関係しています。この浴は添加金属によってレモンイエローの均一な外観を得ることができます。
アルカリシアン金めっきは最も古くからある金めっきです。化学的に強い性質のため、ほぼ装飾用途でしか使われません。このめっきの優れた点は、均一電着性と厚付けが可能であること、幅広い純度・・・24K相当まで・・・の金を得ることができることです。注意点は遊離シアンが多いためにめっき後に皮膜が侵される可能性あることで、外観重視であることからもめっき後の水洗は十分に行う必要があります。
ノンシアン金めっきは、上記のレジスト問題に対処するためのめっきです。ただ、シアン系金めっきと比較して注意すべき点があります。
まず、めっき液の安定性に劣ります。亜硫酸金はもともと金属になりやすい化合物であり、それを抑え込んでいる亜硫酸イオンが空気や電解によって酸化・消耗するためです。バランスが崩れてしまうと金が槽に析出してめっき液が使い物にならなくなります。加えて、析出した金を王水で溶かして回収しなくてはならなくなります。
あとは、めっき皮膜に含まれるその他の成分(不純物)がシアン化金とは異なります。シアン系ならCやNがあるわけですが、亜硫酸金はそのかわりにSを含みます。

銀めっきはその他の貴金属めっきの場合と違って、特に変色に弱いのが特徴です。中でも「硫化」は有名でしょう。S(硫黄)を含むもの(身近なものならゴムとか)に触れるとすぐに色が変わってしまいます。
この性質ゆえに、優れた特性がありながらも研究が進んでいないようです。銀というと普通の人は装飾をイメージしそうですが、純銀はそうした用途には実に向きません。銀を装飾系の用途に使う場合は、最終処理でコーティングを行うか、ロジウムめっきをフラッシュして後めっきを施します(装飾ニッケルのクロムめっき仕上げのようなイメージです)。
変色防止の後処理を使うことで、銀めっきは電子関係を中心とした用途に使われています。
実用化されている銀めっきは、シアン化銀を使用するものです。シアンを使わない研究もされていますが、課題が多く実用とは言えません。
シアン浴はアルカリ浴と中性浴があります。ほとんどはアルカリ浴です。貴金属めっきでは唯一このタイプの浴で可溶性陽極が使えます。
アルカリ浴は光沢剤としてセレンなどの金属光沢剤や硫黄化合物がありますが、通常金属光沢剤が使われます。遊離シアンが多いタイプの浴では、汚染に強いという特徴も備えています。
中性浴は単純な組成が特徴で、高速めっきに使われます。

パラジウムめっきは中性・アルカリ性のアンモニア系浴です。純パラジウムめっきは応力が高く、光沢めっきでの厚付けはきませんが、ニッケルとの合金にすると良好な外観の厚付けめっきができます。応力は水素の吸蔵によるもので、光沢めっきでは顕著ですが、無光沢〜半光沢では厚付けすることができます。
パラジウム浴は塩化パラジウムや窒素系の錯体を形成したパラジウム塩を用いており、アンモニウム系の伝導塩を添加しています。

白金(プラチナ)めっきは、2価の塩を用いるめっきと、4価の塩を用いるめっきに分けることができます。
2価の方は、cis-[Pt(NO2)2(NH3)2](シス-ジニトロジアミノ白金)が広く使われています(Pt-Pソルトという通称があるそうです)。白金塩として入手しやすいのですが、酸性から中性のめっき液になるため、電流効率が低い浴になります。これは水素の発生が容易になるためです。
4価の方はヘキサヒドロキソ白金酸(塩化白金酸も使えるそうですが、不安定です)を使う浴があり、これは高アルカリ性のため電流効率が高いめっきができます。この4価のめっきは、従来水素の吸蔵で応力が高く、クラックして厚付けできなかった白金めっきを数百μmまで厚付け・電鋳できるようにしました。この辺りは両者を目的に応じて、となるでしょう。

その他の貴金属めっきですが、ロジウムは銀で述べたような銀の保護のほか、反射鏡の最終仕上げという用途があります。硬く、磨耗しにくく、外観が白く明るいのが特徴です。
ロジウム浴は硫酸、またはリン酸系の強酸性めっき浴です。めっきはもろく、1μm以上の厚付けは困難です。最近は厚付けめっきも開発されてきているようです。基本的に単純組成のめっき液ですが、外観を変えたり応力を減少させる目的で添加剤を使うこともあります。
ロジウムめっきの工業用途は、リードスイッチのコンタクト部へのめっきです。
ルテニウムは一番聞きなれないのではないかと思いますが(めっきできないオスミウムもそうですが)、ロジウムに近いめっき・用途・特性を持ちます。
色調が白金族の中でも暗く、それゆえに独特の色調をもつため装飾の用途で使うことがあります。
ルテニウムめっきの注意点は、陽極で酸化ルテニウムのガスが発生し、これが有害であることです。
イリジウムは酸化数が多彩で、化合物の色が豊かであるため、「虹のような」という語源を持つ金属です。酸化数はI、III、IVをとり、水溶液には3価と4価が存在します。
めっきにはIII価のヘキサブロモイリジウム(III)酸ナトリウムを使うのが実用的らしいです(この辺りは実用と研究の狭間なのでしょう)。
ちなみに、めっきができないというオスミウムは酸化数VIIIをとることができる珍しい元素です。瞬間的・極限環境で8価をとらせることは他の元素でもできます(一部の元素は割と安定な化合物を作ります)が、四酸化オスミウムは安定な化合物です。


貴金属めっきのうち、金・銀以外はあまりめっき業者も縁がないでしょう。特殊用途へのめっきでもパラジウム、白金まででしょうか。
貴金属めっきは「どうしても代用が効かない、特殊な用途」へのめっきです。めっきの管理も特殊で、かつめっき液も「貴重品」であるわけです。
金めっきではいかに金を(水洗水などから)回収するかで儲けが決まるなどと言うそうですから。
あと、貴金属の特徴は「化学的に不活性」であること。銀を除けば、通常環境で変色したりはしません。それゆえの装飾用途です。
貴金属に興味を持たれた方がいらっしゃったら、一度金属の相場を見てみることをお勧めします。その名前がなぜ付いたのか、知ることになるでしょう(それでも欲しい? 稼ぎましょうね)。




2004/12/27:Pbフリーはんだめっきの現状とSnめっきのウィスカー対策


2004年の第九号の小特集は「鉛フリー化への対応」です。
欧州指令の実際の影響が発生する時期が近づき、大手が本格的な切り替えを日程と共に推し進める段階に差し掛かっています。
私のところでも「6価クロムフリー」を中心に急速に事態が進展するようになりました。これは技術がなんとか追いつきそうであることに起因するようです。
鉛の問題はより広い分野にわたるものであり、多くの代案が検討された結果、対象とするものに応じた代替技術が使われる方向になるようです。
そこで今回は小特集の中から、表題の記事を取り上げることにします。


鉛フリーは電子・家電関係を中心に進み、ソルダリング(簡単に言えばはんだ付け)の方は方向が決まってきたようです。
しかしながら、めっきとしてのはんだはそうした代替技術が標準化されないままになっていると言えます。
このままではうまくないので、鉛フリーのはんだめっきの実用化は急務です。これには鉛レスのはんだめっきと、ウィスカーが出ない錫めっきの2種類のアプローチが考えられています。

現状の実用に足る代替はんだめっきには・・・、
・Sn-Au 高融点
・Sn-In 低融点
・半光沢Sn 表面実装部品(SMD)
・半光沢Sn-Bi 半導体リードフレーム
といったものが現状あるようです。
基本的に代替はんだめっきは、Pbの代わりとして別の金属を使うものです。この金属の選定がめっきとその特性に大きく影響するわけです。
PbはSnと非常に近い標準電極電位を持ち、共析が容易です。合金めっきの電位として、Snめっきを基準(0)とすると、Pb合金が+11、上記のBiだと+317です。他の金属は更に大きな差があります。濃度比を変えて電位差を克服する手法を考慮しても、理論上は10倍濃度で±30させることが限界になります。こうなるとキレート剤を用いて析出しやすい金属を錯体化してしまう方法を使うことになります。めっきの現場から言えば、これは管理レベルの上昇や排水処理の問題を招くあまりうれしくない話です。もちろん手法として一般的なので、このくらいは仕方ないところでしょう。
こうした標準電位が近くない合金めっきは、金属成分比率を維持する管理も大変です。電流の密度・陽極の効率によって大きく影響を受けることが考えられます。もちろん、析出する皮膜の組成がウィスカーの発生ほかの特性を満足する範囲になることも考えなくてはなりません。
こうした管理上の知見はまだ完全ではありませんが、徐々に蓄積されつつあるようです。

鉛フリーはんだにとって大事なことは、従来のはんだと各種の特性を比較して問題が生じないことです。
はんだ付け性は鉛入りはんだの優秀な特性ですが、Sn-Zn系はんだ以外は問題が生じないようです。
はんだ付けの強度は、組み合わせの問題をきちんと考慮すれば(Bi系でありがちな問題など)、遜色ないとされています。
そうすると、あとの問題はウィスカーになります。

ウィスカーは鉛はんだにおいて問題が生じないとされる、錫系合金に多い重大問題です(本サイトでは頻出していますが)。
発生要因についても以前に述べていますが、この論文中では以下の要素を挙げています。

素地の応力
錫合金めっきの応力
素地金属の拡散による応力発生
自然酸化
温度変化による酸化
めっき後の加工による応力
使用環境での応力印加
合金のウィスカーの発生しやすさ

ウィスカーの問題がクリアできるなら、錫めっきをはんだの代替とすることができます。
上記のような発生要因を抑止することを考える必要があります。
まず、応力緩和のためにめっきに無光沢・半光沢を採用することが有力です。めっきとしてマット状になるものは普通避けられますが、この目的にはその方が有利です。
また、金属間化合物の生成による応力発生を抑えるため、下地にニッケルを付けることが有効であることはよく知られています。特性上の問題がないならこれを採用するのが基本になるでしょう。
皮膜自体の応力は、めっき後に加熱処理を行うことで緩和することができます。錫めっきは圧縮応力を持ちますが、加熱処理によって引張応力に転じます。光沢めっきではかなりの圧縮応力がありますが、これも引張りに転じます。
このほか、錫を厚く付ける・最終処理で酸化を防止するということも有力な対策になります。

結論としてこの論文では、フロー・リフローに続いてめっきでも鉛フリーが必要になってきたことを指摘し、錫めっきがめっきを扱う上で最もよいであろうことを述べています。
このためにはウィスカーを克服する必要がありますが、その知見も得られてきており、設計段階からの工夫によって採用ができるようになるだろうということを予想しています。
その上で、低温はんだとしてのSn-Zn系・高温かつ高強度のSn-Au系でのめっき液開発が進むと考察しています。


そろそろ、めっきにおける鉛フリーも態度を決めるべき時期が近いようです。
私の個人的な意見では、一般用途の鉛フリーはんだとしては錫めっきを採用するべきだと思います。
Bi或いはAg、Au、Inのような金属を混ぜることは鉛ほどではないだけで、環境にやさしいとは言いがたいです。
Cu、Znはウィスカーに対して弱さがあります。
総合的に見て、錫めっきの性能向上がよい解決案ではないでしょうか。
あとは特殊用途のはんだがどの程度必要とされるかで、どのような鉛フリーはんだが生き残るか決まるでしょう。




2004/10/16:ホウ素およびフッ素処理


2004年の第八号の小特集は「新しい排水規制への対応」と「湿式エッチング(U)」です。
湿式エッチングは前号から引き続きです。排水規制の方は特にめっき業界にとって厳しいと思われるフッ素とホウ素の規制を中心に、対応の方針・方策を議論しています。
その中から、概論的な位置付けの表題の論文を取り上げます。


両者のうち、フッ素はこれまでも規制の対象となっており、排水処理法も確立したものが存在します。
片やホウ素の方は国の一律基準がなく、そのために排水処理の実施例がほとんどありませんでした。このため、平成16年7月より実施予定だった規制(すでに暫定期間も過ぎて)が更に3年間延長されることになりました。
めっきでは両元素とも馴染み深い元素であり、特にホウ素はニッケルめっきのワット浴で主要な成分であるため、多くが排水に含まれることになります。また合金めっきなどではホウフッ化物塩を含んだめっきもあり、両元素がふんだんに使われていることになります。
論文中ではホウ素から順に述べていますが、ここでは簡単な除去法があるフッ素から見ていくことにします。

フッ素の処理は凝集沈殿法とイオン交換法が有力とされています。
凝集沈殿法は高濃度のフッ化物イオンを含む溶液に有効で、フッ化カルシウムの沈殿を生成させるものです。フッ化カルシウムの溶解度から、この処理で8mg/Lのフッ素イオン濃度まで処理を行うことができます。カルシウムを高濃度にするともう少し沈殿させることができるはずですが、共存する化学種の影響もあってこれ以上の処理は困難です。
イオン交換法は希薄な溶液からでも処理が可能であり、また5mg/L未満まで処理することができますが、イオン交換についてまわる問題として再生廃液の処理の必要性と処理の速度の問題があります。

ホウ素の処理方法としては、溶媒抽出、イオン交換、凝集沈殿、工程をクローズド化して放出しない、特殊な処理というふうに分けることができます。
溶媒抽出は比較的有力な案で、大規模なシステムで使われるようです。この溶媒や抽出剤は単純ではない有機化合物であり、めっき会社の処理としては向いていません。
イオン交換は処理としてはよいのですが、交換容量が小さい(たくさんの樹脂がないと吸着量が少ない)ことと、濃縮されたホウ酸の最終処理(固形化処理)が必要になります。ホウ酸を選択的に交換する交換材も作られていますが、大規模な処理は難しい点があります。
凝集をホウ酸で起こすことは容易ではありません。酸性域ではBO33-となり、アルカリ性域ではB(OH)4-となるため、単純な方法で沈殿させることができないためです。
従って共沈剤への吸着による凝集沈殿という処理を採ることになります。共沈剤はカルシウム・マグネシウム・アルミニウム塩によるものや(ホウ酸の滴定分析で使われる)マンニット(マンニトール)を併用する手法などがあります。一般に強アルカリで高い性能を発揮しています。
この凝集法には大きな欠点もあります。それは共沈という処理のため、目的以外の成分を含んだ大量のスラッジが発生することです。これは大きな負担になるため、決定的な処理方法とするのはためらわれることになります。
そこで、全鍍連が推奨する対処法として「クローズド化」が出てきます。
「クローズド化」とは、ニッケルめっき工程から排水を出さないようにすることで、ホウ酸を排出せずに済むようにする製造工程・設備の変更を指します。究極のめっき工程であるわけですが、一般にめっき工程のクローズド化はこれまでのめっき設備を根本的に変える必要が生じるもので、たやすく導入できるものではありません。
とは言え、これならめっき液の成分はほぼ回収することになりますから、安定運用ができればコストへのよい影響も出てくる可能性があります。何より、環境への配慮としてこの上ない処置です。
ニッケルの回収自体は加熱濃縮をすることで容易です。注意としては光沢剤を活性炭で除去しておかないと液のバランスに重大な影響があることです。活性炭の選択さえよければ、除去は容易に行えます。
クローズド化の難点は、工場全体の大幅な改修が必要になる点です。
他の研究としては、水溶液からの揮発による分離、三塩化ホウ素の固型分離というようなものがあります。

ホウフッ化物の処理は、困難を極めます。フッ化物を処理する王道とも言えるフッ化カルシウムの沈殿処理ができないためです。
従って、ホウフッ化イオンをアルミニウムによってフッ化アルミニウム錯体とホウ酸に分離して、フッ化カルシウムで沈殿とする処理を行います。このうち、フッ化アルミニウム錯体は生成速度が遅いため、アルミニウムを過剰添加することで反応速度を速めるようにします。この方法は反応のための時間が取れる場合に有効です。
別の方法として、水酸化カルシウムをいきなり反応させる手があります。高温(90℃以上)ではホウフッ化イオンが分解するため、フッ化カルシウムを沈殿させることができます。かなりの時間高温に維持する必要があるため、回分法で作業が出来る場合に適用できます。高濃度の廃液処理用と言えるでしょう。


フッ素の処理は比較的有名な反応があって進んでいるものの、ホウ素関係は基準値の問題もあって難しいと考えられます。ホウ素はめっきの世界では主成分とならないものであり、消耗する分はすべて排出されることになります。またホウ素は核科学的に見て安定性が低いため、地殻における存在比が小さな元素です。そのことを考えると、ホウ素の再資源化には意義があると論文は締めくくっています。
まったくその通りであると思います。敷居が極めて高いクローズド化ですが、遠い将来には当たり前になると考えて間違いないでしょう。まぁ、小さなめっき会社にいる身としては、たやすく想像できないことではあるのですが。




2004/9/29:化学エッチングの基礎


2004年の第七号の小特集は「湿式エッチング」です。
エッチングという技術は古くから用いられてきましたが、最近では少し様変わりした部分もあります。
エッチングは普通、金属を腐食させることで目的を達成する加工方法を指しますが、電子工学の進展により有機素材を対象としたり、通信機器の水晶をエッチングするというような方向も見受けられます。
今回はその中から、エッチングの基本について触れている表題の記事を取り上げます。


この記事では、フォトファブリケーションを指してエッチングとしています。これは光を利用してエッチングの程度に差をつけ表面を加工する技術で、フォトレジスト・フォトエッチング関連になります。
そちらへ行ってしまうと、私には縁遠くなってしまいますから、ここではエッチングの本当の基礎を中心に見ていきます。
もっとも基本のエッチングは表面状態を変化させるものですが、工業的には表面加工の一部ということになり、パターン作成などという設計どおりの形状を生み出すような技術を指します。
エッチングには大きく分けてウェットエッチングとドライエッチングがあります。化学エッチングはウェット(湿式)になります。ドライエッチングはプラズマによって表面を変化させるものです。
フォトファブリケーションでのエッチングには、次の工程があります。
1:被加工材料の前処理
2:耐食のためのコーティング(マスキング)
3:作り出す形状の画像作成
4:耐食性材料層に画像を形成(パターニング)
5:露出部分に化学加工を実施(狭義・古義のエッチング)
6:耐食性材料の剥離
めっきにおけるマスキングと近いですが、めっきする代わりにエッチングするわけです。

エッチングの原理を考える上で、5の最も狭義なエッチングに注目します。
電解液中での金属は、金属が液中へイオンとして溶け出すと同時に、その電子が液中の金属に渡って析出するという反応を繰り返して巨視的に変化がない状態を続けます。これを動的平衡状態といい、一般に金属は電解液に触れているとき、この状態を維持します。
この平衡状態において、金属電極は電解液に対して正または負の電位をとることになります。これがいわゆる電極電位です。この値を水素のそれを0として比較したものを電気化学列と称します(学校で習うやつです。例えば「かそうかな、まああてにすな、ひどすぎる借金」とか覚える・・・というとわかるでしょうか)。
基本的には、これが卑である金属(K、Na、Ca・・・)は水の水素と反応してイオンとして溶け出すわけですが、事はそんなに簡単ではなく、卑な金属であるTi(チタン)は、表面に酸化皮膜を形成して溶解が進まないため、実用の上では耐食性が高い材料として扱われます。こうした金属としてはNb(ニオブ)、Ta(タンタル)が挙げられます(これらは金より腐食に強いとされます)。
普通に材料を扱う上では、こうした実用上の腐食への強さが重要です。
理想的な金属表面と電解液では電位がどこでも一定ですが、実際には表面状態によって電位が微妙に異なっています。そのため、電位が貴な部分と卑な部分で局部電池が生じ、片や金属が溶解し、他方水素が発生するという反応が起こります。これがあるために実際に反応が進むことになるわけです。
もちろん、金属の電解液における溶解現象はこの機構だけでは説明できません。他にもいくつもの反応原理によって溶解は起こります。

一般的に思いつくのは、酸による溶解です。酸といってもいろいろあり、酸化力の有無で分けて考えなくてはなりません
酸化力がない場合、水素と金属の電子授受によって反応が起こります。このとき、溶液中の陰イオンと金属との塩が水に溶けないものであると、溶解反応が進行しなくなるため(一種の不動態化)、金属は溶解しなくなります。
例えば、塩酸で鉄を溶かすと溶解しますが、高い濃度の硫酸で鉄を溶かそうとすると、硫酸鉄が水に溶けないために反応が進行しません。
このほか、水素と金属の電位が近い場合、水素過電圧のような影響で電子授受が進行しないことがあります。
水素より貴な金属は水素との電子授受が起こらないため、上記の形式での反応は起こりません。この場合、溶液中で金属を酸化する成分が含まれているときには反応が起こります。
金属表面で金属が酸化して塩基性の酸化物を生じ、それが酸と中和反応をして水に可溶な塩を生じると金属の溶解が進行するわけです。
銅は薄い硫酸に入れても溶解する要因がありませんが、実際には水に溶け込んでいる酸素などが表面を酸化して溶解がゆっくりと進行します。
アルカリによって溶解する場合もあります。これは両性金属(例えば亜鉛、アルミニウム)で起こります。

これまでの例は化学的にわかりやすいものですが、中性塩溶液でエッチングできるものもあります。
塩化第二鉄は実用的なエッチング液として広く使われています。銅と反応する場合には以下のように進行します。
2FeCl3 + Cu = 2FeCl2 + CuCl2
3価の鉄の酸化力によって溶解させる反応です。


エッチングにおける反応を系統的に考えると、
1:反応する化学種の素材表面への拡散
2:素材表面での電子授受
3:生成物の表面からの拡散
の段階に分けて考えることができます。
化学反応が複数のステップにわたる場合、その最も遅い反応が全体の速度を決定するものとなります。これを律速段階と言います。
1や3のような移動が速度を決定することを拡散律速などと言います。同様に2が速度を決定することを反応律速などと言います。
拡散律速には撹拌の影響が大きく現れますし、反応律速では温度が影響することが多くなります。
塩化鉄エッチングでは、物質の移動に速度が支配されます(つまり拡散律速です)。
速度向上のためには、律速段階を知ることが近道です。その上で更に向上させることも考えると、撹拌・温度・濃度(反応のチャンスが増加する)が重要といえます。


基本的なエッチングの記事でしたが、基礎の化学から一歩先までの知識に依らないと理解し難い部分があるように思います。
一般論で書いてあったわけですが、エッチングと溶解の違いについては触れていないように思いました。両者は化学的本質が同じであるものの、目的とすることが違うわけで(エッチングは溶かすことだけが目的とは限らない)、その辺が不親切かなとも思いました(「表面技術」には後続の記事があり、それとあわせると丁度よいのかもしれません)。
めっきに縁がない人に有用そうなことは、電気化学列が耐食性(錆びやすさ)を表す指標ではないという部分でしょうか。
参考までに、電気化学的に弱いもので耐食性がよいのは、既出のもの以外にはZr(ジルコニウム)、Sn(錫)、Be(ベリリウム)、Al(アルミニウム)などです。アルミニウムはよく知られていると思いますが。
逆の傾向があるもので目に付くのは、Ag(銀)Cu(銅)、Pb(鉛)などでしょうか。
最後に余談ですが、実は鉄よりニッケルが実環境で弱いと評価されているのにびっくりした人なのです。そういうイメージないですねぇ。




2004/9/23:最近のめっき技術動向


9月に講習会へ行きました。
講習会というか講演に近いものでしたが、いくらか真新しいこともあったので取り上げてみます。


まず、めっき業というものについての状況ですが、零細や大企業の組み込みラインの一部のようなものを除いた事業者は、ここ10年余で20%程度減少しました。
従業員・売り上げも減少しましたが、給与はほぼ同じです。でありながら一人当たりの売り上げは減少している事実があります。
総合的に見て、めっき業は苦しい方向へ向かっていると受け取ることができます。
めっきの総売り上げ(需要)も減少していますが、産業全体で考えるとめっきという表面処理の全体の売り上げが減少することは考えにくいところです。すなわち、これらは海外へ出て行ったものがあるということを示唆しています。

都市部のめっき業者は、バブル崩壊後の対応によって二極化しました。
革新的な変化に乗り遅れ、従来品の消滅によって淘汰された業者と、特化した・オンリーワンの技術がある競争力が持続した業者です。
地方の場合は、地方の確かな技術・販路を持った素材メーカーと組んでいるめっき業者が多く、これらは生き残りに成功した者が大部分です。こうした業者は素材メーカーなどの海外進出に協力して自身も進出する例があります。
ここ数年で都市部のめっき業は総体として見て甚大な打撃を受けたというのが実情です。

製品の種類別に見ると、一般的な電気・機械のめっきはすでに消えたといえるでしょう。
電子部品はめっきが有効な範囲では、専業化した事業者が受け持っており、これも一般的な場所からは消えています。
プリント回路板は今でも日本が過半数を生産する製品だそうです。これも極めて特殊な技術であり、専業者の範疇です。
自動車関係は高信頼の必要な部品は国内に残留しています。これらは海外ではうまくいかないものが多く、一度出て行ったものが結局戻ってくるという例も少なくありません。
電装部品も同様の傾向ですが、作っても儲からないままに続けているようなものもあります。
その他一般のものは多くが流出し、特殊な表面処理が残った状況です。特化した・優位性のある技術や特色を持つ事業者が生き残った事実が反映されていると言えます。


海外進出とめっき業の関係としては、取引先の海外進出があるかどうかが分かれ目になります。
もともと特殊な技術を持っているメーカーでない場合は海外進出が必須であり、めっき事業者は共に進出する以外に生き残れないというパターンがあります。
逆に取引先が国内に踏みとどまれる技術や特色を持つメーカーであるなら、国内にとどまる道が選択できます。
海外進出というと、今は「中国」か「東南アジア」でしょう。
中国は経済開放政策によって日系企業の進出が顕著であり、同時に消費地でもあるという強みがあります。
しかしながら、中国に進出する大手企業は、必ずといっていいほど中国一辺倒ではありません。
自動車業界を例に採るなら、タイに一大生産拠点を築いています。どうしても、中国にはリスクが潜んでいるという見方が正しいようです。

海外進出する場合、何までを海外・外国人に任せるかという点は成否を大きく左右します。
講師の方はいくらかの例を挙げておられましたが、顧問以外は中国人にして成功したとか、上を日本人で固めてすぐに撤退の憂き目を見たとか。
中国はコネの社会ですから、独特の視点を持って当たらないといけない部分があります。


現在のめっき業は、一言で言って旧体質の打破を成し遂げることで生き残ることができる世界です。
などと言いますが、めっき業界はこうした進展はなかなか見られないような気もします。
また、めっき技術の現状としてはめっきが「旧来の技術」に依っている部分があり、最新の技術成果を受け入れられない環境・体質にあるというマイナス点もあるようです。
どういうことかと言えば、よく出てくる「職人の世界」であるということです。
そもそも教育現場で化学は軽んじられやすい学問です。
職人気質ですから、わざわざ訓練などを企業で行うこともありません。技術は極端な話「盗むもの」であって「教わるもの」ではないのです。当然指導者など育つはずがなくなります。
そういう世界と、学術的な表面処理研究では大きく乖離が発生するのは当然の流れになります。
それでも先端の流れを得ようとする企業は出るわけですが、そうした技術には信じられないような設備を要したり、高度な解析・評価が可能な環境を求められたりします。
そうなると、元々の状態によって大きな企業間格差が生じることになるわけです。
簡単な話、自動化の進捗自体も差別化されてしまいます。

こうした環境、そして世界の状況の中で、武器にするべきなのは「新技術の開発」と「管理能力」であると指摘しています。
長期的な戦略は、よく言われる「創造」「情報」「環境」をキーワードにするべきで、短期的な戦術は「隙間」「複合」に求めることを奨めていました。
先行きが明るいめっきの方向として、ファイン化・ナノテクノロジー対応、特殊素材、非電導性素材対応、品質特性の調整可能、工芸手法の導入、一般に言われる多様化への対応などを挙げています。
そして無論のこと、環境対応は無条件に否応なく進めなくてはならないものです。


環境対応は日本が当初の遅れを取り戻して、先進の位置にいるようです。
講師の方は、「IBMなんかは鉛フリーはもういい」みたいなことを言っているとか仰っていましたが、アメリカは純環境的にはヨーロッパに反感があるみたいです。
ただ、軍事的な意味合いで規制はしているみたいで、講習とは関係ないですが硝酸を使うことはまずいらしいです(火薬の原料ということで)。
個別事例でいくと、クロメートは主にトップコートを利用した3価クロメートが採用されています。3価クロメートはジンケート浴と相性がよく、シアン浴では皮膜が削られすぎる問題があります。
クロメートの場合はまったく別のアプローチとして、他の多酸化金属塩(モリブデン・タングステンなど)で皮膜を形成することも考えられています。
クロムめっきは通常クロム酸を成分としますが、当然6価クロムですから制限を受けることになります。そこで3価クロムでめっきをするのですが、まだ発展途上というところです。耐食性・耐摩耗性ともいまひとつ及ばない面があります。
鉛フリーについては、当サイトでいく度か取り上げている通りです。

環境対応の中で、身近な問題ともいえるのは「土壌汚染」と「排水」です。
「土壌汚染対策法」が施行され、土地を手放す時には汚染されていない状態にすることを求められるようになりました。
めっき業は地下への水の浸透の問題があり、この法律の規制の影響を受けることになります。
といっても、めっき業を続けている間は問題ないわけです。厳密に言えば土地を担保にしての取引が難しくなる(土地の価値が下がるため)という重大な問題はあるのですが。
土壌の汚染は対処が難しく、基本的には客土や封じ込めなどのかなり大掛かりな行動が必要になります。
ただ、現在のめっき工場は床がFRP張りであったりして浸透の危険性は大きく減じており、過去の履歴を照らしながら考える必要があります。
特に地下浸透の問題では、有機塩素系の溶剤(例えばトリクレンのような)について最も注意を払う必要があります。

「排水」に関する最近の問題としては、窒素・フッ素・ホウ素の規制が実施されるようになったことがあり、特に窒素は硝酸の問題から注視する必要があります。こうした規制に対応する方策も検討されています。
ホウ素は主にニッケルめっきに含まれますが、これを酢酸やクエン酸を使った浴にする研究があり、皮膜も優秀なものができつつあります。
他の注意として、全亜鉛の規制があります。相当に厳しい規制値となる危険性が有り、規制の動向が注目されるといえます。

他の環境規制として大気も触れていましたが、無電解ニッケルの硫酸ニッケルが入っているのはちょっと意外でした。言われてみればミストが飛んでいるような気がしますが・・・。
産業廃棄物の規制も強化されており、マニフェストが最終処分まで付いていく管理が施行されています。
直接ではないものの、リサイクル法の施行によって、顧客の製品に対する要求が厳しくなることが予想されます。
PRTR法と関係する法令群が機能し始めており、化学物質の管理レベルの向上が必須となりつつあります。


実にまとまりなく書きましたが、実際の講義もこんな感じだったので仕方ないということで。
他にもSRI(Socially Responsible Investment、社会的責任投資・・・企業が利益のためではなく、社会への責任として投資を行うこと)に関する話もありました。
小さなめっき業者にはピンと来ないわけですが、小さいところでは環境ISOの情報開示もこれに近いでしょう。
個人的には、2010年頃までの動向によって、その先の状況が大きく変わるのではないかと思います。
環境関係も2010年には予定されている規制が実施されている可能性が高く、その影響が確定するでしょう。
めっき業としても、旧来とは違うめっきを導入していく出来事がそこまでにはあるでしょう。
直前の10年間は我慢の期間というイメージでしたが、次の10年間は攻勢の時期なのかもしれませんね。




2004/8/28:電子部品のマイクロ接合技術を支えるめっき技術 −鉛フリー化への対応−


8月に表題の講習会へ行きました。
当サイトでもこれに非常に近い話題を取り上げましたが、折角ですから再度このお話をします。
講師は製薬会社の研究所の方でした。


表題からは幅広い分野が想像されますが、講習会では主にマイクロソルダリングで話は進みました。
鉛フリー化は環境への鉛排出の規制によって求められています。
鉛は元来から自然界に存在する元素であり、ウラン系列などの放射性物質の壊変核種としてどこにでも存在は認められます。
しかしながら、一定濃度以上の蓄積が起こると生態系の異常や健康被害を及ぼすことになります。
そうした危機に対応するため、欧州でRoHS(ロースと読むようですね)指令を初めとする各指令が出され、今回の鉛も対象物質です。
余談的に語られましたが、欧州連合は法体系として上から「規制(Regulation)」、「指令(Directive)」、「決定(Decision)」、「Recommendation(勧告)」、「意見(Opinion)」があり、決定以上には拘束力があります。
このため、鉛フリー化は避けられなくなっています。
講習会では、WEEE指令(廃電気電子指令)、ELV指令(廃自動車指令)についても触れていました。これらは2005年以降に順次実施されていく予定です。

鉛フリーの動向ですが、鉛を使うものでめっきに関係し、重要度が高いものにはんだめっき、はんだ(との接合性)、鉛フリー無電解ニッケルがあります。
これまでは基本的に、はんだと言えばSn-Pb(主に9:1)の共晶はんだを指していました。めっきについても同様で、はんだに関する特性は通常共晶はんだを相手に考えるものでした。
ところが鉛フリーはんだは種類が多く、めっきや素材との組み合わせによっては重大な問題を引き起こしかねない情勢です。
講習会ではそうした点に重きを置いていました。


鉛フリーはんだは種類が多く、大きく分けても4つになります。
1:Sn-Cu系
2:Sn-Ag系
3:Sn-Bi系
4:Sn-Zn系
この他、In(インジウム)を使うものや、3種・4種の合金にしたもの(主に上記元素同士で)があります。

Sn-Pbの共晶はんだに代わるためには、全てが勝っているか、さもなくばとりえになる性質が必要です。
融点:Bi系は低い
伸び性:Ag、Zn系がよい
濡れ性:Ag系がよいが、共晶はんだにはやはり劣る
耐腐食性:Zn系が弱い
コスト:いずれも高い、Cu、Zn系が中では廉価な方
このように違いがあると、使用の状況によって選択が変わってくることが予想され、製品で接合される組み合わせが複雑になることが予想されます。
この他の鉛フリーはんだの問題点としては、設備が特殊である必要がある場合があること、Cuの溶解速度(はんだとCuの合金の形成速度)が大きいため、Cu食われが起こってCuの細線が弱くなったりすること、融点が高いものを使うためには部品の耐熱性が必要であることなどがあります。

改善しなくてはならにことはまだ多く、主要なものとして低温化があります。
物性が優れるAg、Cu系のはんだは融点が高く、扱いやすいものではありません。これを設備の改良やはんだの構成金属を増やして低温化するなどして実装を容易にする必要があります。
他のアプローチとしてZn系はんだの使用、はんだを2段階に接合する(BiまたはIn系を使用)、Agをそもそも使いたくない(高い、Agには環境負荷や毒性の側面がある)ことから電導性を持たせた接着剤への切り替えがあります。
もちろんいずれも、共晶はんだのような決定的なものではありません。
規制が近づいているものの、まだ道半ばというところです。


他方、鉛フリーのはんだめっきもはんだと同様の系統で開発されています。ただ、3種以上の合金めっきは現実的ではないですから存在しないようです。
少し変わったところでは、銀の微粒子を共析させる複合めっきという手法があります。
講習会ではここで各種のめっき組成についての概略を紹介していましたがここでは細かくなるので割愛します。もちろん、自社のめっき液の売り込みもしておられました。
説明の中で比較が載っていましたが、個人的には普通のSnめっきが案外よいのではないかと思ってしまいます。欠点はウィスカーですが、実は他のはんだめっきもウィスカーに関しては絶対的なことが言えるものでもないようです。Sn-Cuではウィスカーが発生しうるという評価が出ています。

ウィスカーは錫や錫合金から錫の単結晶が成長する現象で、他の部分に接触して短絡する原因になります。溶液からの結晶化の形状をコントロールし難いのと同じで、結晶の成長をコントロールすることは通常難しいです。Sn-Pb合金はウィスカーの抑制に絶大な効果があり、ウィスカーを回避するならはんだめっきという流れを作っていました。それができなくなったので、ウィスカーをコントロールする技術が必要になっているわけです。
ウィスカーに対する詳細かつ精確な解析というのは、まだないという表現であながち間違いではありません。それは原因足りえる要素が多岐にわたるためです。
めっきでのウィスカーは、「圧縮応力が高い」、「めっき後の熱膨張収縮」、「皮膜の酸化」、「異金属の拡散」、「Sn-Cu金属間化合物の形成」などが原因になると言われています。
潜伏期間がありすぐには発現しない、高温多湿・低温環境で成長が早い(常温が早いという意見もあるそうですが・・・他の環境条件にも依存でしょうか)、外部からの応力で促進される、亜鉛系の素材で多い、1〜10μmで発生が多い(薄いor厚い場合は現れない)というような特徴があります。
錫が主要な成分の合金では、手段を尽くしてウィスカーを「抑制」することはできても「解消」はできないという認識が正しいようです。もちろん、発生が少ない皮膜がよいことは当然です。

リフトオフ現象はウィスカーと並んで鉛フリーはんだの問題です。簡単に言えば、はんだが剥がれることです。
共晶はんだはSn-PbめっきやSnめっきとよく接合する優れたはんだでした。Ni皮膜でも良好な接合を形成できるので、素材としてのリフトオフ問題はなかったと言えるでしょう(当然、表面が汚れていたりすれば起きますが、それは管理問題です)。
ここに鉛フリーはんだがはんだとめっきの両方に加わり、組み合わせが多様になってきました。場合によってはSn-Pbめっきに鉛フリーはんだを使うということも、作業上あり得るのが現状です。
致命的な組み合わせとしては、Biが含まれるはんだをAuめっき上やPb系はんだに使用するというのがあります。これはSn-Pb-Bi化合物を形成し、これで物性が悪くなります。方法次第では問題をなくせるようですが(温度の管理次第らしい)、避けるのが無難でしょう。
リフトオフが起こるのは、はんだの中で金属成分に偏りが生じるか、金属層ともろい合金を作る場合です。前者は加工方法を工夫する、後者は組み合わせを事前に検討することで防止ができます。

鉛フリーはんだめっきは、これまでなかった組み合わせの問題と旧来無視できたウィスカーという問題を考慮する必要があります。
また、はんだ同様コストが従来よりもかさんでしまうという切実な点もあります。
めっきそのものは難しいものとも言えませんが、製品の設計には従来以上の慎重な検討が要求されるでしょう。


もうひとつのテーマ、鉛フリーの無電解ニッケルはかなり軽視されてきた問題です。
無電解ニッケルには古くからめっき液の安定剤として重金属、特に鉛が使われています。もともと不安定であるはず(還元剤と対象物質が同居している)の液ですから、安定剤自体は作業上必要です。
この結果、皮膜にも鉛が含有されることになります。300ppmと言われており、基準と照らし合わせればクリアしている水準です。同時に、環境への流出の危険も(皮膜のため)低いものです。しかし、環境負荷物質を使わないことを掲げる企業が増えています。消費者はそちらを安心して使うという流れがあるからとも言えるでしょう。
こうなると、無電解ニッケルも鉛フリー化へ向かうことになります。鉛フリー自体は金属の種類を変えて実現することが可能であり、鉛登場以前に使用されていたBi(ビスマス)を使った鉛フリー化無電解ニッケルは早くから登場しています。この他、将来を見越した「重金属フリー」な液も開発されています。
鉛フリーのめっきも、物性はほとんど変化がありません。もともと主要成分ではなく、目的も「液」の安定化ですから、当然と言えます。

無電解ニッケルは、めっきそのものの鉛フリー以外にもうひとつの重要な問題が絡んできます。それはNi-Auプロセスめっき上への鉛フリーはんだの使用です。
上記はんだ同士の場合同様、構成元素との関係が重要で、ここにはPとAuという要素が入ってきます。
P(リン)はニッケルと錫の界面に濃縮層を形成することがあり、これが劣化に繋がっています。前にも別の部分で書きましたが、Ni-Sn化合物の成長が早いとP濃縮が見られるため、これを抑えるCu系・Zn系はんだが強度の点で優れています。
Auは下地Niとの関係が問題になります。置換金を厚く付けてしまうと、下地Niが劣化してしまい、Ni-Sn化合物が適切に形成されない(空隙ができる)ために物性が悪くなります。これを防ぐ単純な方法は還元金めっきを採用することです。
ただ、Ni-Auへのはんだの使用では鉛フリーの方が物性が有利な場合があり、これは通常のはんだ付けとは違った傾向です。とはいえ、濡れ性はSn-Pbが圧倒的に有利であり、これの克服なくして完全な代替とは言えないでしょう。
Cu上へのNi-Auプロセスで使う鉛フリーはんだとしては、Zn系がよい結果を出しているようです(濡れ性は課題です)。

めっきからの鉛フリーはんだへの対応としては、濡れ性改善にはP濃度をコントロールすること、めっき表面を改善するために素材表面をきれいに仕上げること、還元金の採用を検討することがあります。
また鉛フリーはんだの高温に耐えやすいようにP濃度を高めにすることや薄いPdめっきをNiとAuの間に挟むことがあります。
経時変化の防止として、最後に有機防錆膜を形成する(ニッケルめっきなどの防錆剤処理と同様)ことも考えられているそうです。


全体として課題が多い中で駆け抜けようとしている印象があります。
ビスマス系はんだについては、大手で問題があったと聞いたことがあります(リフトオフだったと思います)。個人的にPCのマウスをリコール交換してもらったことがありますが、あれははんだの剥がれ問題だろうと思っています。
今しばらくは鉛フリーを謳うはんだ付けがある製品は要注意であると考えることを(一般消費者的に)お奨めします。完全に鉛フリーになってしまうと、いくらかの問題は解決しますし、技術の進展も早まるでしょう。
めっき会社としては、顧客が要求するはんだめっきの規格や要求に注意を払うことが不可欠になると思います。はんだめっきの選定は、自社都合では決められなくなってしまうでしょう。扱う製品の使用されるはんだとどうしても相談しなくてはいけないからです。一番懸念されるのは、組み合わせの悪いはんだを使って不良とされてしまうことでしょうから。
めっきの品管を預かる方は、不用意に自社のせいにされないためにもこうした知見は大事であると結論付けて、講習会の分を終わりにします。




2004/8/24:環境ISO講習会


6月に3回にわたってISO14000シリーズ(環境ISO)の講習会に行きました。
取り留めがない話になっていますが、ちょっとだけその講習会から触れておきます。

環境ISOというと、「クーラーの使用時間と設定温度を・・・」とか、「照明の明るさを・・・以下に」とか思ってしまう性質ですが、一応達成度にはけちを付けない規格なのだそうで。
もちろん審査員はそんなことにはお構いなく、達成度で査定をするのだろうと思います。
しかしながら、仕組みを評価するのが規格要求と言うことで、システム構築としては形があればよいことになります。

品質ISOを取得している立場からすると、環境の取得に際して問題となるのは「環境側面の評価」と「遵守する法令の把握」だと思います。
環境側面の評価については資料が多く存在し、その手法自体はISO規格で決め付けられてはいないことから、それなりに対処可能であるかとも思います。
遵守する法令の把握は、小さな企業では難しい問題です。法令の改正や新規の法令に関する情報の把握は、専門家でないと容易に行えないものです。
講習会の主催をしていたのは、ISOの取得を手助けするコンサルタント企業ですが、自ら臆面もなく環境ISOの継続的なコンサルティングが必要であるというニュアンスを伝えています。品質の場合はここまであからさまにはしないように思うのですが、小企業相手の講習会ではさも当然であるかのように言えるほど、当事者のみでの実施は大きな負担です。

この講習会では、一部の時間を割いて「群コンサルティング」「群審査」の話をしていました。
「群〜」とは、いくつかの企業(異業種・同業種とも)が同じ骨格の(或いは全く同じ)環境マネジメントマニュアルを制定し、同じ運営方針の下で管理のみ区分して活動を推進する形態です。
これでも認証は個別に発行され、各企業(コンサルや認証機関も含めて)の負担が小さくなるのが特徴です。
ある程度の共通要件(所在地が近い・連携する業種・交流がある企業同士など)がある場合、こうした環境ISOの取得・維持の形式が使われることもあるようです。
これは中小企業が多い工業団地などでは有効なのかもしれませんが、うちの会社ではちょっと・・・。
グループ企業間や、完全な下請け会社のような場合には、ごく自然に運用できる可能性があると思います。
同業種間の運用は、システムとしてはよいのですが、企業のノウハウや秘密事項に触れる機会が発生するかもしれないので、あまり好まれないようです。

もうひとつ、この講習会でちらほらと出てきたのが次のISO規格。
どうやら「情報セキュリティ」らしいです。すでにご存知の方も多いのだろうと思います。私は確か労働衛生関係のものが次だと思っていた人ですが。
当社には無縁な話ですが、5000以上のメールアドレスを管理するものは法規制がかかるなど、ITに疎い視点で見れば急速に規制がかかり始めている今を考えると、妥当ではあります。
情報セキュリティとなると、自社で人材を持ってPC管理をしているような企業でない場合は、どうしてもその筋の専門家が必要になります。
コンサルにとってはこれもまたビッグチャンスなわけですね。

小さな会社でISO取得を考えておられる方々には、冷静に価値を判断していただくべきかと思います。
大きな取引先が取得していれば、その要求に従いさえすれば一応最低限度はクリアできるので、取得しなくては規格を満たせないわけではありません。
ただ、誰がISO規格を維持・管理するコストを受け持つかというそこの問題なのです。
ただ環境ISOは、地域に根ざす企業の責務というような側面もあります。
あとはトップの決断次第です。




2004/8/6:電気銅めっき膜の内部応力および結晶成長に及ぼすハロゲン化物イオンの影響


2004年の第六号は「表面技術のフロンティア−バイオテクノロジーが必要とする表面技術」です。
何のことかと思っていましたが、生体内での微小機械や生体作用と影響しあう表面、生体デバイスといった全般を指しているようです。
生物と機械が融合する未来(漫画の世界ですかね)があるならば、この技術は最低限で必須となるものでしょう。
興味本位なら楽しめるかもしれませんが、めっき業にはかなり無意味な内容です。そこで今回は表題の論文を取り上げます。


ここで言う銅めっきは硫酸銅めっきです。
この論文は、配線基板のビアやトレンチを充填するボイドフリー(空隙が生じない)銅めっきにおいて、その性質のために添加される成分のうち、塩化物イオンの働きを検証していくものです。
硫酸銅めっき中で塩化物イオンは銅電極表面に吸着し、銅(I)イオンと溶解度が比較的小さい塩化第一銅を形成して、銅めっきの反応や結晶成長に大きな影響を与えます。
他方、臭素やヨウ素の第一銅塩も類似の性質を示します。そこでめっき膜の断面観察、ひずみの測定を通してハロゲン化物イオンがめっきの結晶成長・内部応力・析出機構に与える影響を比較検討します。

実験は硫酸銅めっき液を使用し、ハロゲンイオンを50mg/L添加(実際にはカリウム塩として)したもので行っています。
素材は銅板で、リン酸電解して電解研磨してめっきしたものをひずみ測定に使用します。
断面はSEMで観察し、結晶構造は薄膜X線回折(XRD)法で調べたものです。

硫酸銅めっきは引っ張り応力を持ちます。ハロゲンを添加すると、フッ素では応力は増加し、他は減少しました。その効果はヨウ素が大きく、塩素が小さいものでした。
硫酸銅めっきは電着する際に2段階で反応し、

Cu2++e-→Cu+
Cu++e-→Cu

このうち上段の反応が遅いため、律速段階になっています。
ハロゲンの第一銅塩の溶解度はヨウ素が最も小さく、このことが応力に影響を与えていることが推測できます。
めっきの断面を見ると、第一銅塩が形成されないフッ素では緻密なめっきが成長しますが、他のハロゲンでは大きな結晶が成長して粗な皮膜が形成されていました。
この皮膜性質が内部応力を小さくすることに効果があったと考えられます。

一方、銅の還元そのものへの影響は、イオン添加による還元電流の大きさの変化で見ることができます。
フッ素は無添加とほとんど同じ挙動で、影響を与えていないことがわかります。
塩素では還元が促進され、臭素・ヨウ素では抑制される結果となりました。
後者は第一銅塩が容易に生成され、表面に吸着するものの、第一銅塩が還元されにくいため反応を抑制しているのが理由です。
前者の促進効果は、第一銅塩を経る反応によって説明できます。

薄い塩化物イオンが存在すると、銅イオンは一塩化銅(II)イオンから直接銅に還元される反応を起こします。
しかしながら、塩化物イオンが濃い場合は、塩化物イオンが銅(II)イオンと電極付近で会合する時に電子を受け取り、銅(I)化合物になります。

Cu2++Cl-+e-→CuCl

塩化第一銅が表面に吸着していると、さらに電子を受け取って銅原子と塩化物イオンとなります。

CuCl+e-→Cu+Cl-

この反応が前述した通常の2段階反応よりも電位的に(熱力学的に)有利であるため、反応を促進しているわけです。
臭素・ヨウ素との違いは、ここでの電位的な有利・不利によって発生しています。

塩化物イオン添加での結晶構造は、素地の銅のそれとほぼ同じようになります。このことはごく自然な成長の様子です。
詳細に観察すると、低い塩化物イオン濃度ではCu2Oのピークが、高い塩化物イオン濃度ではCuClのピークが見えます。両者の中間的な濃度では両方が見えます。
これは各濃度で中間性生物を生じながら反応が進行することを示しています。特に高い濃度でのCuClの存在は上記の促進効果を支持します。

塩化物イオン濃度の最適条件についても実験がなされています。
内部応力の低下は50ppm前後で最も顕著だという結果が出ています。
還元電流は添加量に応じて複雑な挙動があり、吸着による抑制と吸着物の反応による促進効果がせめぎ合う様子が見えます。

結論として、ハロゲンイオンのうち、硫酸銅めっきの総合的な改善に役立つのは塩化物イオンであるということ。
塩化物イオンの内部応力減少効果は、電着面での第一銅塩の生成によるものであること。
還元電流の増大(めっきの促進)は第一銅塩が銅の電析に有利な反応経路を提供することで生じているということ。
適当な塩化物添加量の例としては、50ppmという値があること。

こうしためっきの物性の改善の研究は地味な内容であり、大きな成果であるとは言えないような印象がありますが、実際にはこのようなデータがあることで物性のよいめっきを最適条件で付けることができるようになっているのであり、実作業に従事するものとしてはありがたい限りです。
残念ながらこの内容は私の仕事に直結しませんが、挙動解析の参考には好例であったと思います。




2004/8/1:応用広がる光触媒技術


2004年第五号の小特集は「光触媒の高機能化」です。
「光触媒」というのは、光によって起こる反応において触媒の役割を果たすもののことです。触媒は反応の前後で自身は変化しませんから、光を当てるだけで継続的に同じことが起こるわけです。
以下に記事を取り上げますが、そこでは光合成の葉緑素を光触媒と同じものだと書いています。上記の定義からすればまさにその通りです。
今回はめっき関係で直接的によさそうな記事・論文がなかったので、「応用広がる光触媒技術」を取り上げます。


一般に光触媒と言うと、二酸化チタンを指すようになっています。光触媒作用は他にも見られますが、実用化のことを考えれば「光触媒=二酸化チタン」でもよいでしょう。
この物質は実に一般的なものですが(例えば白い塗料に使われています)、普通光に不活性な状態で使われてきました。予期せぬ反応が起こらないためです。
もちろん光触媒に使うものは、工夫して光に対する活性を高めて使用します。

二酸化チタンの光活性の秘密は、光によって酸化力を得ることです。
二酸化チタンは光を当てられるとエネルギーを得て酸化還元準位を変化させます。このジャンプのエネルギーが大きいため(3V程度)、強力な酸化力を発揮します。
他にもこうした性質を示すものはありますが、二酸化チタンはその酸化力でも自身が変化しないという特性があります。普通は自身が分解したり、反応したりします。このため、触媒として作用することができるわけです。

もうひとつの二酸化チタンの特性は、水に対して高い親和性を持ち、例えば水滴にはならずに表面に膜を作るような挙動を示すことです。
これの結果どうなるかというと、汚れなどが二酸化チタンの表面に付いても、その下に水が入り込むことができ、容易に洗い落とすことができます。
また上記の酸化力は水をも分解しますが、汚れが有機物であったりすると、そちらが優先的に分解されます。
こうした能力があるため、例えば車のサイドミラーに使われているそうです。水滴にならずに膜になるということは、水が付いても鏡面が維持されるということであるので、見易さを損ねないわけです。

他の応用例として殺菌・抗菌の用途が挙げられています。
すでに銀などが使われていますが、二酸化チタンは菌以外に「毒素」を分解できる点がこれらと異なります。
また汚れに対して銀などは無力であり、汚れが付いてしまうと抗菌作用も消滅しますが、二酸化チタンなら前述の分解・洗浄性によって抗菌力を維持し得ます。
いまだ研究途上ですが、これらの特性から食品衛生の分野で活用する道が模索されているようです。


いくつか実用への例示をしましたが、目的に応じて二酸化チタンの形状は考慮が必要です。
空気や水の清浄化に利用するには、表面積が大きくなるような多孔質に加工する必要があります。分解性能を高めるためで、活性炭などでおなじみのものですね。
他方、壁の外観維持や抗菌表面としては、平滑な表面にし、水への超親和力を生かして洗浄性を優先します。
以前は平滑な表面と活性が高い二酸化チタン構造は相容れない条件でしたが、二酸化チタンの結晶形を操作できるようになるつつあって、応用の幅が広がってきました。
光触媒の最も期待される利用は、このセルフクリーニング機能です。

課題もまだ残されています。
有機物と接触させておくことが困難であるため、下の層には無機系の材質が求められることです。それに関連して、有機系の塗料で色を付ける事ができなくなります。
また、その結果として無機系の材質の混ぜると厚塗りしにくい(割れやすい)という問題があり、有機物に代わるバインダーを検討することが必要です。
作業上の問題としては、光触媒が無色透明であるため、塗装が確認できないということがあります。これはわざと分解される着色料を混ぜて塗装し、その後反応で色を消してもらうというやり方があります。


光触媒は塗装として使われるのが普通でした。二酸化チタンがもともと塗料の成分であることからも自然なことです。
しかしながら、こうした溶液を使う利用ではなく、ドライプロセスで光触媒を製造・利用することが実用化されてきました。
スパッタリングや蒸着、イオンプレーティングで、一般にスパッタリングが使われます。雰囲気を適切にコントロールすることで、二酸化チタンとして表面に付着させていくものです。熱線反射ガラスを作成するプロセスがこれで、それを転用したものだそうです。活性の高い二酸化チタンを得られるように条件を適切化して、先のサイドミラー製造などに実用化済みとなっています。

最近の環境の流れもあり、光触媒は注目に値するポテンシャルを示していると思います。
小特集の他の記事では、標準化の作業が進んでいることが示されており、重要分野として地位を得つつあるようです。
建物の外装に使うというのが現在最も身近な利用だと思いますが、将来は広く光触媒が生活に根付くように思います。




2004/6/17:無電解めっきの活性化前処理に用いられるセンシタイジング液の経時変化


2004年の第四号は「めっき・電鋳を用いたMEMS」が小特集です。
MEMSは"Micro Electro Mechanical Systems"であり、「微小な電機機械システム」などと称します。
簡単にいってしまうと、全ての部品を微小なものにした機械を使ったシステム(或いは機械そのもの)のことです。
イメージしやすいように言えば、普通なら1cmの長さのねじを使うところを、0.1mmの長さのねじにしてしまうように、すべてを微小にしてしまうことを指しています。
そうした部品を作るには、普通に圧力をかけたり、熱処理したりしてもできないものが多いです。そこで電鋳によって生み出してしまうことで難しい変形の過程をクリアしてしまうのが有望視されています。
枠を作って成長させれば、思った形にコントロールできるというわけです。
これは実に将来大事な技術になると考えられるのですが、私には縁遠いので、今回は表題を取り上げることにします。


めっきをよくご存知の方は「センシタイジング」がわかるでしょうが、そうでない方のために「センシタイジング−アクチベーティング」プロセスについて少し触れておきます。
非電導性のものにめっきを施す場合、電導性を持たせる必要があります。無電解めっきはそれが不要と考えられるようですが、無電解めっきでは最初の反応を引き起こす触媒が表面に存在していなくてはなりません。ちなみに、無電解めっきが継続している時は、皮膜自体が次の反応の触媒になっています。
触媒に用いるものは何でもよいわけではなく、最終的に密着力を損ねるものでは意味がありません。現在よく用いられるのはパラジウムです。
しかし、パラジウム(金属)をどうやって対象物の表面に付けるかが問題になります。幸い、パラジウムは貴金属であり、還元析出は比較的容易です。そこで例えば塩化錫(II)を利用して

Sn2+ + Pd2+ → Sn4+ + Pd

という反応で析出させます。
「センシタイジング」とはパラジウムが反応できるように塩化錫(など)を対象物に付着させる処理を指します。
「アクチベーティング」はパラジウムを析出させることです。
つまるところ、前処理です。前処理でめっきの大部分が左右されることは自明ですから、この処理はとても重要です。以上を前提に見ていきましょう。


今回のプロセスは標準的な塩化錫−塩化パラジウム系です。
この反応は非常によく用いられていますが、吸着する成分の組成や濃度などの処理条件との関係で不明な点も多いのが現状です。
錫とパラジウムが別々の液となっている二液法では、センシタイジング液(塩化錫)がエージングによって変化し、比較的短時間で失活することは広く知られていて、その原因は錫の酸化によるとされています。こうした老化によって、めっきの始動までの時間が長くなるというような報告もあるようです。
この論文では、センシタイジングに関する総合的な知見を得ることが目的だとしています。

実験はガラスに対して行ったようで、濃度は数十ミリモルオーダーで設定されていました。アクチベーチングも同程度の濃度であり、かなり薄い条件であると思います(材料にも依るのですが)。そのかわり45℃に加温しています。
無電解ニッケルめっきにはNi-P系を使用し、コハク酸・リンゴ酸系の溶液になっています。
実験における全SnとPd濃度はICP発光分析で、Sn2+はヨージメトリーにて、溶存酸素は溶存酸素計で測定をしています。


エージングと挙動や状況は、4つの時期に分けて考えられるようです。
最初(I期)はSn2+濃度がほとんど変化しない時期です。
II期はSn2+濃度が少しずつ下がり出す時期で、溶液は透明なままです。
III期はSn2+濃度が大きく減少する途上の時期で、溶液は淡黄色を示します。
IV期はSn2+濃度がほとんどなくなる時期で、溶液は透明になりますが、白色で半透明の沈殿が生じます。

各時期における溶存酸素を見ると、I期にはほとんど変化がなく、II期・III期にはSn2+の減少に従って減少し、IV期に増加してI期のレベルに戻っています。
センシタイジング後のSn吸着量は、時間とともに増大し、III期の最後に極大を示した後、急激に減少しました。
アクチベーティング後のPd吸着量は、II期までほぼ一定(わずかに減少傾向)を示した後、III期に大きく減少方向に変化し、Sn吸着量がなくなるところでPd吸着量もなくなりました。

これらの結果を違う視点で見てみると、Sn2+が増大するとSn吸着量は減少しまています。これは時間変化よりもむしろ明敏に現れています。SnCl2の濃度とSn吸着量は同一の変化傾向を示します。
Pd吸着量はSn2+、SnCl2の両者と同じ変化を示し、これらが増大すると吸着量も増加します。
溶存酸素との関係は、温度とエアーレーション(バブリング)によって確かめています。
温度が低いほど液の寿命(無電解めっきを開始できる限界)は長くなり、Arガスを吹き込むと更に長くなります。当然、酸素を吹き込むと極端に短くなります。
液の成分との関係では、塩酸濃度が高い液は寿命が短くなっています。SnCl2濃度が高いと、比例的に寿命は延びます。両方の濃度が高い場合も、同じように寿命は長くなりました。
酸が酸化反応を促進すること、Sn2+濃度が寿命の要であることが見て取れます。

無電解めっきの反応開始までの時間は、Pd吸着量が多いほど短くなります。また、センシタイジング液が新しい場合も短くなります。
濃度が高いセンシタイジング液を用いると、時間は長くなります。一方、濃度を低くしたセンシタイジング液を用いると、Pd吸着量は少なくなりますが、時間は短くなります。
定量的に話をしていませんが、光沢もセンシタイジング液のエージングによって変化すると書かれています。

エージングの影響の原因を探る方法として、SnCl2とSnCl4を混合した液を始めから作って比較するという手法を行っています。
Sn吸着量はSnCl4の増加に従って増加しています。Pd吸着量はしばらく一定の値を示した後、減少してSnCl2がなくなったところで0になります。
Sn2+イオンがなくてもSnが吸着すること以外は、普通のエージングと同じ挙動であると言えます。
SnCl2とSnCl4の比を変化させると、SnCl4の割合が増加するに従って寿命が短くなっています。
見た目の状態では、Sn2+が存在しない環境では、Sn4+は黄色くなることなく沈殿しますが、Sn2+が存在すると黄色に変色する過程を経ていくことがわかります。


こうした知見を総合すると、センシタイジング液の挙動を把握することができます。

 ・ Sn2+は溶存酸素と反応することで消耗し、エージングが進む。
 ・ Sn2+の濃度が最も寿命に影響する要素である。
 ・ 液が黄色に変化するのは、Sn2+とSn4+が共存している時である(複核錯体を形成しているとされる)。
 ・ Snはいずれの原子価でも吸着するが、Sn4+の方が多く吸着する力があり、Sn2+が吸着しないとPdが吸着しない。
 ・ Sn4+は吸着力があるものの、エージングされて生じるとスズ酸に変化してSn4+としての反応性を発揮せず、吸着しない。
 ・ 無電解めっきへの活性は、Pd吸着量に影響されるが、Sn吸着量からも(逆の)影響を受ける。

つまり一般に言われているエージングの影響は、Pd吸着量の減少とSn吸着量の増大によってめっきへの活性が低くなるというものだと言えます。
以上が論文での結論です。


こうして見ていくと、Sn吸着が多いと、Pdがめっき液に触れる機会が少なくなり、反応開始に影響が現れると捉えるのが単純でわかりやすいでしょう。
すなわち、よいめっきをするためのセンシタイジング液の条件は、そこそこに濃度があり、新鮮でSn4+の少ない液を作ることにあるでしょう。
純度やコストの兼ね合いからすると、薄いセンシタイジング液を使い捨てにするというやり方は、活性を高く維持しつつコストを下げている点で理にかなっていると言えます。
すでに常識化しているセンシタイジング−アクチベーティングプロセスですが、めっきのこつはこうしたところにも眠っていたわけですね。




2004/5/29:SIMS and XPS Analysis on Displacement Au Layers Formed on Electroless Plated Ni-P Layer
(SIMSおよびXPSを利用した無電解Ni-Pめっき上置換金めっきの構造解析)



2004年の第三号は「マイクロエネルギー源」が小特集です。
ぱっと思いつくものは燃料電池になると思いますが、小特集ではもうひとつ「ガスタービンエンジンの小型化」に触れた記事がありました。
燃料電池の欠点を補っていくと、内燃機関を小型化するのと似たような方向へ向かうためらしいです。
純技術的には面白い話ですが、例によってめっきには縁遠いです。そこで、表題の速報論文を取り上げます。
速報のためか、和訳はなしです。なので原題の表記で項目を立てています。とか言いつつ、私は英語は×なんですが、強引に進めてみることにします。


本論文は、無電解Ni-Pめっき上の置換金めっきについてのものです。このめっきはセラミック基板などに用いられるプロセスのひとつです。置換めっきであるため、金の厚さはたいした事がありませんが、比較的浴組成が安定していて還元金めっきよりも操業上有利なのが特徴です。
表題の通り、置換金という薄い皮膜の構造を調べることが必要で、そのためにSIMS(二次イオン質量分析)とXPS(X線光電子分光分析)を用います。
SIMSとはSecondary Ion Mass Spectroscopyのことで、一次イオンとして軽元素などを照射し、スパッタリング(エネルギーを受けとった試料内の原子の一部がとび出すこと)が起きて発生する二次放出物(多くは中性の原子)のうち、二次イオンの質量/電荷の比を測定します(ICP質量分析などと同じく磁界を通して分離します)。この結果から、試料の化学組成・同位体組成を知る事ができます。
XPSはX-ray Photoelectron Spectroscopyの略で、一定のエネルギーのX線を照射し、その結果放出される光電子を測定する分析手法です。この電子は結合エネルギーを断ち切って飛び出してくるので、入射X線のエネルギーと結合エネルギーの差に当たる運動エネルギーを持っていますから、光電子のエネルギーから結合の状態をうかがい知る事ができます。
この他にもAES(Auger Electron Spectroscopy、オージェ電子分光分析)、SEM−EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersed X-ray analyzer、走査型電子顕微鏡・エネルギー分散形X線分析装置)といった金薄膜表面の分析手法があります。
XPS・AES・SEM−EDXは気化した元素を測定することで、試料中の元素の量を測定します。
本論文では、表題にあるようにSIMSとXPSによる10-100nmの金薄膜の構造解析を行います。

実験に用いた皮膜は銅板上に5μmの無電解ニッケルめっき(6%のリンを含有)を施し、置換金を行ったものです。
金の厚さは蛍光X線分析で測定し、AFM(Atomic Force Microscope、原子間力顕微鏡)で全表面に金が置換していることを確認します。
SIMSはセシウム原子を用いて行い、XPSはマグネシウムの線源を使用します。

SIMSでは1.6nm程度までスパッタリングしていると推定され、100nmの金薄膜に対して照射を行うと金の強いピークが現れますが、ニッケルのピークは弱く、近傍の鉄やコバルトに埋没しています。
XPSでは、表面付近しか測定できないにもかかわらず、ニッケルの2p軌道のエネルギーを検出しました。AFMによると全体に金薄膜が析出しているので、この上(もしくは中)にニッケルが含まれていると考えることができます(論文中では表面と表現しています)。
また、各金属の深度分布を取ると、表面付近からある程度までは金が多く、ニッケル・リンが少ない層を確認できますが、奥へいくに従って先にリン濃度、続いてニッケル濃度が上昇し、飽和に達してから金濃度が減少する分布が得られました。
これは境界面に近い金の膜はニッケルを多く含んだ層になっているということを示しています。金の厚さとニッケル濃度が高い層・低い層の割合の関係を見ていくと、20nm程度のニッケル高濃度層ができてしまうと、あとはニッケル低濃度層が成長することがわかります。すなわち、境界付近の20nmの金の膜はニッケルを多く含んでいると考えることができます。
論文中ではもう少し詳しく読み取っていますが、大まかにまとめるとこのような感じです。


以上を受けて、金の薄膜生成ではその厚さは非常に重要で、耐食性・化学反応性があるニッケルリッチな金皮膜が表面に現れないように設計する必要があると結論付けています。
私の所でこのプロセスに近い置換金めっきをしていますが、置換金めっきでは最初に薄く成長が遅い金めっきをつけ、その後で成長が早い金めっきを行います。
本論文の結果とあわせて考えると、成長が早い金めっきはニッケルとの反応が直接起こる環境では粗悪なめっきが付くので(これは本当です)、まずニッケルと生成する金めっき層が傷まない遅いめっきを一定量(これが20nmという理解でよいのでしょう)以上付けてから後のめっきをすることで、ニッケルリッチな部分への直接反応を避けているということでしょう。表面から徐々に金が内部へ置換するように反応させることで、物性のよい(よく「黒化」など称する不良のない)金めっきになるわけですね。
そうするとこの前金めっき(一般に薄付置換金と言うようです)が純度の高いものでないと危険であると考えることができそうです。
経験的にも合致する部分がありますから、そういうことなのでしょうね。




2004/5/22:亜鉛電解採取と亜鉛電気めっき


2004年第二号の小特集は「受動素子内蔵基板の技術動向」です。
「受動素子」とは、コンデンサーや抵抗、インダクターなどのように入力信号の特性を変えないで電流、電圧を制御する素子のことです。
信号処理機能があるものが「能動素子」で、ICやメモリが該当します。
受動部品は「不器用な」部品ですが、CPUなどに多く搭載されており、コストが小さく部品数が多いのが特徴です。
しかも技術的な進展が遅れ気味で、小型化が進んでいないのが現状のようです。
基礎になる部品ですから、これの技術が進まないと全体の進展を阻害してしまいます。
そうした「受動素子」の状況について書かれているのが今回の小特集です。
と言っても、私には縁もゆかりもない世界。そこで今回は「くらべてみよう」というコーナーから表題を取り上げることにします。

ここでの亜鉛めっきとは、亜鉛鋼板への高速めっきに使われる硫酸亜鉛めっきです。通常の耐食・外観のめっきとは少し違います。
亜鉛電解採取は亜鉛を純度が高くなる酸化亜鉛にした上で、硫酸溶液に溶解して電解する精錬工程です。
比較するわけで、基本的に主要な構成イオンは同じです。

<浴組成の特徴>
電解採取は「金属成分がやや低く」、「硫酸濃度が高く」、「添加剤はニカワや大豆かす」です。
電気めっきは「金属成分がやや高く」、「硫酸濃度が低く」、「添加剤は硫酸ナトリウム」です。

<電解条件の特徴>
電解採取は「電流密度が低く」、「通電時間が長く(1、2日)」、「極間距離がやや大きく」、「浴電圧が低い」です。
電気めっきは「電流密度が極めて高く」、「通電時間は非常に短く(10秒程度)」、「流動が必要」、「極間距離が小さく」、「浴電圧が高い」です。

上記の差異の意味を考えていきます。
両者で硫酸亜鉛電解が用いられるのは、安定性・コスト・電導性の観点で総合的によいためです。
電解採取では長時間の電解を行いますが、これは析出量当たりの消費エネルギーを下げるためです。そのために電導度が高い必要があって硫酸濃度が高くなり(つまり浴電圧が低い)、時間当たりの析出量が小さくてもよいので金属濃度はやや低い目、極間距離も大きくてよく、添加剤は平滑化のニカワとミスト防止の大豆かすになります。
電気めっきはごく短時間に析出させる必要があるので、高めの金属濃度と小さい極間距離、流動していて液に多く製品が触れること、高い電流密度が必要になります。そのため浴電圧は高くなり、そうした条件であるがために添加剤は電導度塩の硫酸ナトリウムが使われます。硫酸濃度は可能なら下げたい(作業環境の悪化を防ぐ)ので、低めになります。

電解採取では、電流密度が小さく金属濃度が低いため、条件のバランスが悪くなると「水素を発生するだけになり、亜鉛が析出せずにむしろ溶解する」事故が起こりえます。
通常亜鉛が析出し始める電流密度以上になるようにしますが、もともと析出に有利ではない条件で電析させるため、このようなことがあります。

不純物はいずれでもやはり問題です。
電解採取では製品純度が低下し、めっきでは耐食性が低下します。
亜鉛よりも貴な金属は優先的に析出しやすく、めっき後も亜鉛が優先的に腐食する原因になります。
亜鉛と共析するFe、Co、Niなどは水素過電圧を低下させて電流効率を落としますし、共析しない砒素やアンチモンなども析出を妨害する効果を持ちます。
非常に卑な金属であるマグネシウムやマンガンなどは共析しないため、影響が見えないまま蓄積していきます。これらは両工程で異なる作用をみせます。
電解採取では蓄積に従って電導度が低下します。めっきでは電導度塩として働き、電導度が上がります。これはなぜでしょうか。

通常、酸溶液での電荷の移動は、陽イオン移動において水素イオン移動が支配的です(水素は特別小さな元素のためです)。水素イオンが動いていくという考え方よりも、オキソニウムイオンと水分子がプロトンを移動させていると考えることができます。格子状の酸素と水素の構造体を想像してください。酸素から2本手が出ているのが水、3本出ているのがオキソニウムイオンです。それらが近くにいると、手を動かす(電子の移動)だけで両者が入れ替わります。これはイオンが移動するよりも早く、電荷を移動させることができるプロセスです。これをプロトンジャンプと称します。
プロトンジャンプは自由水で起こります。つまり金属などに配位している水分子のような束縛された水分子はこれを起こしません。こうして考えると、電解採取では硫酸イオン濃度が高く、硫酸イオンは強力に水を配位するため、自由水によるプロトンジャンプが抑制されていると考えることができます。
そうした状態へ更に金属イオンが増加すると、更に水を束縛して電荷の移動を妨げてしまうことになるため、電導度が低下するわけです。
めっきでは硫酸の束縛の寄与度が低いため、金属イオンが増加してもむしろその電荷移動が電導度に寄与する結果になっていると考えられます。


同じような組成の液で電解しているにもかかわらず、このように違いが発生するのは面白いところです。
ちなみに、不純物が共存する系は亜鉛の合金めっきの状態と同じであると言えます。前出のめっきが始まる電流密度は、合金めっきの転移電流密度と同じ意味があります。
今回は単に亜鉛めっきを見たわけですが、目的が違えば挙動が違い、ある目的では悪いことも他の方法での知見となる出来事であったりする、という視野の広さの大事さを見せてくれているようです。
まさに「くらべてみよう」ですね。




2004/5/14:車載用チップ部品のはんだ接合面における高温劣化の挙動と寿命予測


2004年の第一号は「自動車用マイクロデバイスとその表面技術」が小特集です。
私のところでも自動車関係の製品が少しありますが、それらには高い信頼性が要求されています。増して環境負荷物質の絡みから、従来の信頼性があった工程・物質が使えない状況も見られるため、今後難しい分野であると言えます。
今回はその中から表題の論文を取り上げます。


車載用の電子機器は高い信頼性が必要です。安全に直結するものが多いためであることは言うまでもありません。通常の電子機器とは違って、エンジンルームの近くというような過酷な環境での動作が必要になるものもあります。
こうなってくると、それぞれの部品に高い耐久性が求められるわけですが、その中でも難しい点としてそれぞれを連結するはんだ付けの部分があります。
はんだ付けの部分は、それぞれの箇所が違った状態にあると言え、また一箇所でも部品とはんだ、基板とはんだの2つの接点を有し、それぞれが高度の信頼性を満たさねばなりません。
本論文中では、これらのはんだ接点の車載条件下での信頼性と、その耐久寿命の推定を行っています。

高温環境下ではんだ接合部は劣化を起こします。これは接合面で金属間化合物を形成することによるものとされています。
この性質においては、従来のSn-Pb系共晶はんだよりも、Sn-Ag-Cu系の無鉛はんだの方が成長が遅く、寿命が長いといわれています。
そこで最初として、150℃、165℃、180℃の3水準で3000時間の加熱試験を行い、その接合面の様子を観察しています。

ニッケルめっき(2〜3μm)、更に上層にはんだ(Sn-10Pb)めっきしたものは、その上にはんだ(Sn-Ag-Cu)付けすると、両はんだ層は溶融し、はんだ中のCuがニッケルめっき層の近くに集まってきます。このCuはすでに微細なクラックを伴っています。
150℃1500時間を行うと、ニッケル層はほとんどなくなり、Sn-Ni-Cuの金属間化合物を形成します。この層には垂直にクラック(論文中では界面垂直クラックと呼んでいます)が入っています。また、金属間化合物層とはんだ層の間では界面にクラック(接合界面クラック)が発生しています。また、界面の一部で脆化が見られました。
他方、Ag-Pt導体との接合面では、導体のAgが初期からSnに拡散し、広範にAg/Sn化合物を形成しています。加熱したものも含め、多少の空隙はあるもののクラックなどもない良好な接合状態でした。

別の試料(ニッケル3〜4μm、スズが表層、下の電極層が厚い)では、各温度3000時間まで問題なく良好な結果でした。
この原因ですが、めっきの下の電極層が厚いため、Cuが凝集した部分への応力の集中を緩和する効果が働いたと考えられます。
構造を詳しく見ると、前の試料と同様にクラックは両方向に発生しているものの、金属間化合物とはんだ層の間の脆化は起こっていませんでした。その代わり、界面付近では「カーケンダルボイド」という空隙が発生していました。
カーケンダルボイドは、金属層内を金属原子が移動する時、拡散速度が金属によって違うため、微細な空隙が生じ、それが合体して巨視的な空隙を生じる現象です。
前の試料ではクラックが著しい上に脆化が発生しており、金属の拡散をこれらが阻んでカーケンダルボイドの発生を抑止したと考えられます。
つまりこの試料の劣化は、前の試料の要因だけでなく、カーケンダルボイドという要素が重なった劣化であると言えます。

更にスズめっき、ニッケルめっき仕様で、両者の厚みが前出の試料より大きいものでも、基本的な現象は同様に発生していました。
この試料はめっき層の下に樹脂電導層があり、これが影響してかクラックの発生が見られませんでした。加熱時のストレスが小さかったと考えられ、これは樹脂層による緩和であると考えられます。はんだとニッケルの界面の金属間化合物層ではカーケンダルボイドが発生し、連結して剥離状態になっている部分も見られました。ニッケルの層はカーケンダルボイドが伸張している部分では消滅しており、ニッケルの拡散が劣化を引き起こしていると推定されます。
つまりこの試料は、カーケンダルボイドによる劣化が主でした。
また、対になる側はニッケルめっき+金めっきであり、こちらも経過は良好でした。劣化の様子は、Cuの凝集がニッケルと電極層の界面側だけでなく、はんだとニッケルの界面でも見られました。
(注:金ははんだ付けすると層としては消滅します。この辺りははんだ付けの基本なので、他の情報源を参照してください)
この試料は基板側(部品側ではない方)はニッケルめっきが無電解であるためリン(P)を含んでいます。リンとニッケルの分布状況を見ると、基板側ではリンが金属間化合物−ニッケルの界面付近に凝集してニッケルの拡散を抑制している様子が見えます。
ニッケルの拡散は主要な劣化の原因であり、その抑制は長寿命化に繋がるので、ニッケルーリンの無電解メッキの応用に期待が持てると論文中で言及しています。


以上の実験と考察から、はんだ付け部分の劣化には4つの種類があると言えます。

1:金属間化合物層とはんだの接合界面に生じるクラック
2:金属間化合物層とはんだの接合界面での脆化
3:金属間化合物層/はんだ層接合界面で垂直に生じるクラックが引き起こす金属間化合物層の脆化
4:金属間化合物層とはんだの接合界面に生じるカーケンダルボイドの成長と連結

これらの発生には一定の方向性があると考えられ、1〜3は応力緩和機構が弱い場合に延性が低い金属間化合物層にストレスがかかって劣化を引き起こしていると思われます。この現象は下部の電極層(焼き付けたもの)が厚いほど発生が抑制される方向にあるようです。
また、下部が電導性の樹脂電極層である場合は、ストレスを大きく吸収するので、1〜3の現象は支配的でなくなります。
1〜3が起こらない場合には、SnやNiの拡散がクラックなどで妨げられないため、4の現象を促すことになります。
これらの劣化のうち、4は金属の拡散が進まないと発生しないため成長が遅いと考えられます。そうなると界面や金属間化合物層にストレスをかけない方策が長寿命化に効果があると言え、実験試料にあった電導性樹脂層を有する部品が有利だと推測できます。

いずれの挙動にしても、金属間化合物層とはんだの間で起こる現象であり、金属間化合物層が成長してニッケル層が消滅すると進行が早まる傾向がありました。すなわちニッケルの拡散が起こらなくなると接合面の劣化が進むと考えると、ニッケルめっきは厚い方がよいと推定できます。

寿命の予測は、これまでの結果から金属間化合物層の成長が終わる時間が目安となると考えられます。
そうすると固体内での拡散として一般的な式が成立するとして考えると、高温を保持した時間(t)と金属間化合物の厚み(x)より

x=k√(Dt)
  D=D0exp(−Q/RT)
(D0:振動項、Q:活性化エネルギー、T:温度、R:8.314Jmol-1K-1

となります。実験の結果と照合すると、150℃と165℃では式を満たす結果でしたが、180℃は合致しませんでした。これは180℃において一般的な固体拡散とは違う現象が起こっているためと考えられます。
150℃と165℃では式を用いることができると考えられますが、金属間化合物層が消滅していても品質的にはまだ問題ないレベルにあったので、この評価方式は十分に安全側に考えたものであると言えます。
製品によってニッケルの拡散速度が違う場合もありますが、概してニッケルの厚みが寿命に影響すると結論付けることができます。


高信頼性を要する部品での半田付けの寿命の問題を緩和するには、応力を緩和する電導層を用いること、ニッケルめっきを厚く付けることが有力であり、ニッケルめっきとして無電解ニッケルめっきを使用し、リンが含まれるようになっているとニッケルの拡散を防止して更に効果が上がるというのが本論文の結論です。
ある意味当然であるわけでして、層構造が安定であるためには各層が安定している方がよいというのはたやすく想像できます。
しかし世の中にはそうでもないこともあるわけでして(めっき応力のせいで厚いほどよくない場合などがそれ)、実証ができて寿命予測の手法を提案している点が評価されるべきなのだと思います。
ただ、うちの会社ではわからないし、それを念頭に作業することもできないので、要求どおりに付けましょう以上のことは設計する皆様にお任せです。時々設計的な無理でもめっき会社(或いは材料そのもの)のせいにしたがるところも見受けられますが、こういった実証を参考に自社での試験や論文などの利用で設計をリファインすることも必要じゃないかと思いますけどね。




2004/3/20:工程能力指数について(現場作業者向け)


会社で機会があり、工程能力指数について簡単な資料を作成することになりました。
折角のサイトでもあるので、内容を公開向けに書き直して掲載しておこうかと思います。
品質管理者(特に中堅以上の企業での担当者)には当然の内容ですが、現場作業者にとって知っていると都合がよい程度のものになっていると思います。


<すなわち、工程能力指数とは>

電気めっきの膜厚のような現象は、必ずばらつきが発生して特徴的な山形の分布(正規分布)になります。
品質を守ることを考えた場合、この山がすべて規格範囲内に入ることが必要になります。
この分布の山の裾野は、厳密に言えば切れ目が無く続いてしまうので規格範囲内に入らないのですが、グラフ上で見えないほど低くなっていればよいということで、区切りを設けます。一般的に3σ(後述)という基準が使われます。
規格範囲内に製品すべてが入るためには、「分布が狭いこと」と「分布の中心が規格の中心に近い位置にあること」が満たされていると有利です。
例えば10−20の規格で、分布の幅が12であるとき、中心がどこにあっても規格を外れてしまいます(中心が15でも9−21になる)。
分布の幅が6でも、中心が12であると9−15となってやはり外れます。
工程能力指数は、この二つの要素を数字で表して、規格範囲内に製品の(ほぼ)すべてが入るかどうか判断するものです。


<工程能力指数の考え方>

工程能力指数が表そうとしている二つの要素は、「精度」と「確度」です。二つ兼ね備えれば「精確(正確)」なわけです。
「精度」は分布の集まり具合(グラフの幅)を示し、精度が高いということは、グラフの山が高い(=狭い)ということと同じになります。
「確度」は狙いとのズレです。グラフでの山の位置が狙い値と合っている場合は確度が高いとなります。
両者を数字で表す方法として、標準的な確率・統計の手法を用います。
「平均値」はごくありふれた統計値ですが、ここでも重要な位置を占めます。単純に理解するなら、この平均値が「確度」を反映します。
もうひとつ大事な統計値が「標準偏差」です。標準偏差は集団全体の偏差(平均値からの外れ方)の状況を示します。受験の偏差値というものは、50を中心値に設定して表現した個別の偏差です。
標準偏差はばらつきの度合いを示す指標的なもので、平均値から外れたものが多いほど高い数値をとります。
工程能力指数は、平均値と規格の限界値との差が、標準偏差(の3倍・・・3σ)と比べてどのくらいの大きさかを数値で表したものです。
実際には割り算なので、1未満だと標準偏差の3倍の方が大きいことになり、範囲(一般に公差と言います)を外れていることになります。
この工程能力指数を基にして、顧客側が必要な品質(工程能力指数1.67以上などと)を指定することができます。


<工程能力指数の出し方>

それぞれの数値を出すことで、計算自体はそれほど複雑にはなりません。
標準の表現とは(書式等の都合で)異なる部分がありますが、書籍などを読む場合は置き換えてください。
(以下の記号と数値の対応)
Xave:平均値
s:標準偏差
V:分散 (標準偏差の自乗)
n:サンプル数
Xn:サンプルの値 (n番目のもの)
Xtotal:サンプルの値の合計
a:|(規格中心値)−Xave| (絶対値をとる)
b:公差(規格幅)の半分

上で決めたことから
Xave=Xtotal÷n
V=s~2(sの2乗)
になります。

標準偏差の出し方は、まず分散を求めます。
式をできるだけ複雑にしないため、n=5(サンプル5個)を例にとります。
V=煤iXn~2)/(n−1)−(嚢n)~2/n
 ={(X1~2+X2~2+X3~2+X4~2+X5~2)÷(5−1)}−{(X1+X2+X3+X4+X5)~2÷5}
これの平方根がsになります。

複雑な式を書きましたが、測定器を使っていると測定データに「平均値」「標準偏差」と書かれていることが多いです。
ここから「工程能力指数(Cp、Cpk)」を求めます。

下限値または上限値だけが取り決められている場合、考え方は少し容易です。
下限値を例にとって、下限値をLとすると、
Cp=(Xave−L)÷3s
上限値(U)の場合も同様に
Cp=(U−Xave)÷3s
で求めます。
通常は上限・下限とも決められているので、その場合は規格中心値からのカタヨリ(K)を評価します。
K=a÷b
Kが大きいほど中心からズレていて、より狭い分布である必要があります。
これらから、工程能力指数(Cpk)は、

Cpk=(1−K)×(U−L)÷6s

となります。もしマイナスになっても、Cpk(Cpも)は0です。
この数値の意味ですが、Cpkが1より大きい場合は、不良品がほぼ出ないことを示します。
具体的には、以下のようになります(p:不良)。

Cpk=1 p=0.27% (2700ppm)
Cpk=1.33 p=0.0063% (63ppm)
Cpk=1.67 p=0.00006% (0.6ppm)

「ppmオーダー未満で管理」ということなら、通常Cpkが1.67以上になります。
いわゆるシックスシグマは3.4ppmですから、Cpk=1.50が目安の数値になります。


<工程能力指数の使い方>

品質管理上、この指数が1以上ない製品は不良品です。
当然顧客が要求するかどうかですが、指数1未満のめっきしかできないなら、それは能力不足だということになります。
ただし、以上の話は「母集団全体」のものです。
10000個めっきしたとして、すべてを測定して上記計算をした結果の工程能力指数が、本当のその工程の能力を反映します。
当然ながら、そんなことはできません。
そこで顧客が指定する場合も、「サンプルn個での工程能力指数が・・・」などと条件を付けます。
測定するサンプルの数が少ないほど、偶然に外れた製品が高い割合でサンプルに入る(=Cpkが悪くなる)可能性が高くなります。
工程能力指数が悪い工程では、サンプル数を増やした測定で能力を確かめるのがよいと考えられます。
標準偏差は本来サンプル数に影響されずに、母集団の状況を推測するために用います。
サンプル数を増加させると、平均値の信頼性が上がります。
標準誤差(SE、Standard Error)と表現され、SE=σ×1/√nで求められます。
平均値の信頼性が上がることで、標準偏差の信頼性も向上するためです。

計算せずとも、およそCpkが1以上かどうか判断することはできます。
単純に平均値から3σを引く&足して、公差内であるか確認するだけです。
生産現場で即座に最低限度の品質を確認するなら、この程度でも用を成すと思われます。

適正なCpkは1.33〜1.67です。この範囲にある製品は検査の簡略化などが要求できる水準にあります。
ただし、この場合は単一ロットではなく、ロット比較でのCpkも追いかける必要があります。
1.67以上については、一般に「過剰品質」とされ、工程の簡略化・コストを下げる方向への転換が必要だといわれます。


<工程能力指数をの利用例>

(計算例1)
規格値:3〜6
データ:4.39 4.87 5.07 4.38 4.41 5.01 4.53 5.21 4.01
Xave=4.65
σ=0.402
(3σ=1.206)
n=9

このサンプルでの工程能力指数は
K=(4.65−4.5)÷{(6−3)/2}=0.15÷1.5=0.1
Cpk=(1−0.1)×(6−3)÷(6×0.402)
  =1.119
  ≒1.12
ということになり、やや注意が必要だがまずますである、となります。
ここでn=9より、
SE=0.402×1/√9
  ≒0.134
真の平均値は4.52〜4.78の中にあると考えられます。

(計算例2)
規格値:8〜13
データ:11.17 9.75 12.89 11.62 11.62
Xave=11.41
σ=1.13
(3σ=3.39)
n=5

工程能力指数は
K=(11.41−10.5)÷{(13−8)/2}=0.91÷2.5=0.364
Cpk=(1−0.364)×(13−8)÷(6×1.13)
  =0.469
  ≒0.47
つまり規格値に対して能力不足だとなります。


以上が簡単に触れましたが、工程能力というものの概要です。
現場作業者が直接この数値を意識する管理を求められることは少ないですが、この数値を考えつつ仕事を行うことができるならば、高い品質への近道になるのは明確であろうと思います。






「表面技術」を知らない方たちへ・・・(ほとんどの方ですね)


「表面技術」は、社団法人「表面技術協会」が発行している雑誌で、学術誌であるため、一般の方の目にはまず触れません。
大学時代を経験されているなら、どういったものかお解りかと思います。
この雑誌は「研究論文」の部分と「小特集」の部分があります。
ここではいずれでも、私の実際の仕事に関係があるものについて、取り上げるつもりです。

間違いはきっちり指摘していただけるとありがたいです。


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