骨盤臓器脱に対するTVM手術について (後期研修医募集中!

  骨盤臓器脱とは
  骨盤臓器脱の症状
  骨盤臓器脱に対する従来の手術
  メッシュを用いた手術方法
  TVM手術とは
  『TVM手術』の歴史
  『TVM手術』の実際
  手術時間/入院期間など
  安全性の確保と3科合同手術の意義
  女性骨盤底再建センター

骨盤臓器脱とは
骨盤臓器脱は、膣から骨盤臓器が脱出してくる病気であり、出産を経験した比較的高齢の女性に多い疾患です。他の名称として、性器脱とか膣脱とも呼ばれています。骨盤の底の部分(骨盤底)の筋肉や靭帯の緩みがその原因です。女性の骨盤臓器には
膀胱子宮直腸がありますが、それぞれの脱出を膀胱瘤(ぼうこうりゅう)/子宮脱(しきゅうだつ)/直腸瘤(ちょくちょうりゅう)と呼んでいます。それぞれが単独で脱出することもありますが、多くの場合、2つまたは3つすべての臓器が脱出してきます。


骨盤臓器脱の症状
骨盤臓器脱の症状としては、脱出による不快感(何かが下がってくる感じ)がまず挙げられます。起床直後の症状は軽度ですが、日中から夜にむけ時間経過とともに症状が悪化することが特徴です。膀胱瘤では排尿困難や残尿感を、直腸瘤では排便困難や便秘を伴うこともよくあります。患者さん自身には何が下がってくるかは分からないので、膣から何かが下がってきて気持ち悪いという症状がある場合は、まず婦人科を受診されることが多いようです。しかし実際に診察すると、膀胱や直腸も脱出しており、それぞれに特有の症状をあわせ持っている方も大変多いのが実情です。


 骨盤臓器脱に対する従来の手術
この病気は薬では治せません。したがって治療の基本は手術療法です。ただし命にかかわる病気ではありませんので、治療によってより快適な生活を望む方のみに手術をすすめています。従来行われてきた手術では、膣壁を切開して脱出した部分を縫い縮めて補強していました(膣壁縫縮術)。しかしこの方法では、
20-30%以上の方で再発することが分かっています。自分の体の緩んだ組織(骨盤底の筋肉や靭帯)を縫い縮め補強しても、再びほころびが生じたり、また他の弱い部分が緩んでくることが再発の原因です。


 
メッシュを用いた手術方法

術後の再発をなくすために、最近メッシュと呼ばれる編み目状の膜を膣と膀胱の間、または膣と直腸の間に埋め込む手術が開発されました。メッシュを用いた手術の典型例として、鼡径ヘルニア(いわゆる脱腸)の手術が挙げられます。以前は自分の体の組織を縫い縮めて補強する方法(後壁補強手術)が行われていましたが、やはり術後の再発が問題となったため、最近ではメッシュを用いた手術がほぼ標準手術となっています。鼡径ヘルニア(いわゆる脱腸)ですでに高い治療効果が実証済みのメッシュを骨盤底に用いるわけですが、鼡径部に使用するメッシュとは異なるより柔らかく感染にも強い骨盤底専用のメッシュが開発されてから、まず欧米で急速に普及してきました。


 
TVM手術とは

TVM』はTension-free Vaginal Meshの略ですが、日本語に訳すと緊張のない状態でメッシュを膣内に入れると言う意味になります。骨盤底全体をこのメッシュでハンモック状に支え、臓器が膣から脱出してこないようにします。緊張のない状態というのは、言い換えると骨盤臓器を無理に引き上げない状態ということです。『TVM手術』は、骨盤臓器を無理に引き上げるのではなく、より自然な位置に矯正し、力がかかってもそれ以上下がらないようにする手術です。メッシュ本体は骨盤底の筋肉や筋膜の役割を、メッシュについたアームの部分が骨盤臓器を吊り上げる靭帯の役割をはたします(以下の写真と解説を参考にしてください)。


 『TVM手術』の歴史
TVM手術』は、2000年にフランスの婦人科医によって開発された新しい方法です。再発率数%であり、従来の方法に比べ大変良い成績が報告されています。また医療用とは言え、人体にとっては異物とも言えるメッシュの弱点である感染に対しても、『TVM手術』で用いる骨盤底専用の柔らかいメッシュは非常に強いことが実証されています。さらに子宮を摘除する必要はなく、性機能温存の観点からも理想的であるため欧米で急速に普及しました。
国内では、2005年頃から関東や関西の都市部を中心に数施設で開始されましたが、現在にいたるまで北陸を含む地方都市ではほとんど導入されていません。今回市立砺波総合病院では、北陸でいち早くこの方法を導入しました。多数例の手術実績がある大阪中央病院での研修を経て、
2006年10月20日に大阪中央病院泌尿器科の竹山政美先生をお招きして、第1および2例目を行いました。その後週一例のペースで実施しており、2009年9月までに100名の方に実施しました。手術成績は良好で重大な合併症(臓器損傷など)は認めておりません。症状のある臨床的な再発を3名に認めており、うち1名の方(後膣壁のみにTVM手術を行なった後、前膣壁側に膀胱瘤が発生)に2009年12月に再手術(前膣壁へのTVM手術)を予定しています。また1名の方に1000ccの出血を認め輸血を行ないましたが、術後の一般健康状態、入院期間、術後経過は問題ありませんでした。


『TVM手術』の実際

膣前壁用のメッシュ挿入には、閉鎖孔に左右2か所ずつの穿刺が必要です。
膣後壁用のメッシュ挿入には、肛門の外側3センチから仙棘靭帯を貫通する左右1か所ずつの穿刺が必要です。
紅色の布が前壁のメッシュ(を模した布)、青色の布が後壁のメッシュ(を模した布)です。前壁用のメッシュにはアームが左右2本ずつ、後壁用のメッシュにはアームが左右1本ずつでています。それぞれのアームが、前述した閉鎖孔や仙棘靭帯を貫通して皮下に達しています。
ハンモック状のメッシュを骨盤の上方(頭側)より見たところです。
骨盤の上方(頭側)より見ていますが、メッシュがテニスボール(骨盤臓器)をしっかり支えているところです。



手術時間/入院期間など

手術は全身麻酔で行います。手術時間は、膣前壁または後壁のみの場合は1時間程度です。膣前後壁(膣壁全体)の場合は2時間程度です。当科では、手術が安全に行われたことを確認するために、手術終了時にインジゴカルミンという色素を静脈注射して膀胱鏡検査を行ない、膀胱と尿管に損傷がないかを確認しています(これまで損傷を認めた事なし)。また50例目までは手術終了時に大腸ファイバー検査を行なって直腸損傷の有無を確認していましたが、手技が安定していること、および直腸は目と指で損傷の有無を確認できるためファイバーは中止しました(これまで損傷を認めた事なし)。
これら確認検査を含めると、総手術時間は約2.5時間となります。入院期間は約1週間です。退院後の外来通院は、術後2週間目/術後1か月目/術後3か月目/以降半年-1年毎としています。


安全性の確保と3科合同手術の意義
TVM手術』は、膀胱/子宮/直腸を支える手術であるため、当然手術操作(剥離操作/穿刺操作)がそれら臓器近傍に及びます。特に直腸は、万一手術操作で傷付くようなことがあると重大な合併症を伴います。そのようなことが決して起こらないよう、特に注意を払っています。膀胱/子宮/直腸を担当する専門科は、それぞれ泌尿器科/婦人科/大腸肛門科ですが、市立砺波総合病院では、それぞれの専門医が術前診断、手術そして術直後の安全確認検査までを行っています。3科が日頃から勉強会や症例検討会を定期的に行っているからこそ、『TVM手術』を安全に実施できるものと自負しています。


女性骨盤底再建センター

2007年8月6日から同センターは、診察室だけでなく中待ち合い室も含めて女性専用となりました。プライバシーを尊重した診療を行いますので、安心して受診頂けます。
診察は火曜日午後と金曜日午前に予約制で行います。
電話での受診相談/診察予約は、
平日午後3時から5時まで、電話0763−32ー3320(泌尿器科外来受付まで)で、泌尿器科外来看護師が対応します




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