唯我独走の品ゾロエと陳列ぶり、芸達者な書評っぷりで、知る人ぞ知るネット古本屋Honey Bee Brand。この“みつばち印”の店主、「本」にもまさって、ひたすら「食」に執着する「食魂」持ち。昼はアレ食ってニンマリ、夜はコレ食ってプチギレ。もう、「愛」と「憎」が入り乱れる「食魂」炸裂エッセイですから。
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許せないカスタード。

 
『最後の晩餐の作り方 新潮文庫』(ジョン・ランチェスター 小梨直訳)の中に、主人公の父がお抱え料理人の作ったサラダを食べ、「この野菜は」「許せない」ともらす場面がある。
 わかる。
 ちゃぶ台返して、「ぅらー!」って暴れるんじゃなくて、静かにナイフを置いて、「許せない…」ってポツリと言いたくなるんでしょ? わかるよ!

 対象がサラダっていうのもわかる。
 ブリア・サヴァランの名言「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言いあててみせよう」的に言うなら、「どんなサラダを出し ているか言ってみたまえ。君の店がどんな店なのか言いあててみせよう」だ。サラダはバカにできない。(※和食の場合は「味噌汁」。「どんな味噌汁を出して いるか言ってみたまえ。君の店がどんな店なのか言いあててみせよう」)

 先日、許せないカスタードに出会った。
 カスタードクリームが、ケーキ屋やパン屋の評価の指針(「どんなカスタードを出しているか言ってみたまえ。君の店がどんな店なのか言いあててみせよ う」)になるのかどうかは意見の分かれるところであろう。生クリームだと言う人もあれば、パイ生地だと言う人もあるだろう。パン屋の場合はそもそもクリー ムパンが邪道だと感じる人も少なくないだろう。だがあえて言いたい。カスタードクリームは私の偏愛の対象なのだから。幼少時から。ずっと変わらず愛して る。

 まずいカスタードクリームには何種類かある。

 1、変な香料を使用している。
 2、ねっちょりしている。
 3、粉っぽい。
 4、多分、材料が安物。

 だいたい世の中にはびこっているまずいカスタードは、これの複合形である。
 それはごく簡単に見つけられる。○マザキ等のクリームパンを食べればいい。すぐ出会える。でも別に、あれはあれでいい。みんなそうと分かっているんだか ら。ヤ○ザキに期待なんかしていない。屋台で買うカスタード入りの鯛焼きもそう。あれはあれでいいの。そうとわかっているんだから。

 先日のヤツはひどかった。
 裏通りの新しいパン屋、旧町家を利用した店舗、こじんまりしていて、いかにもおいしいものがありそう。(実際、一緒に買ったバナナクロワッサンは悪くなかった。)
 なのに、もうあり得ないほど、クリームパンのカスタードクリームがまずい(しかも高い)。
 食べれば食べるほど怒りがつのる。
 あんなにまずく作れるはずはない! そこそこのパンを作っている人が自分で出せるような味ではない! あの味は……あり得ない。個人の作品ではない。個人ではあの味は出せない。国家レベルとは言わないが、企業レベルの陰謀を感じた。
 恐らくあれが、あれこそが業務用カスタードなのだろう。信じられない。なぜ、パンを手作りしてカスタードで手を抜くのか。カレーライスのカレーがまずいのと同じレベルで致命的なのに、もしやそれに気付いていないのか。
 時々、「シェフはご自分でも召し上がったのかしら!?」と言いたくなるようなまずい料理に出会うことがあるが、今回も思った。「お前はこのカスタードの 味見をしたのか?!」。業務用なら業務用で、なぜまともな味のものを使わないのか。はっきり言って、ヤマ○キよりまずい。上記の1、3、4があてはまる味 だった。てゆーかアレは食べ物の味なのか?
 むぅ〜。「ぅらー!」。あ、結局、ちゃぶ台返してしまったが、もしも、もう一度あの店に行くことがあったら、渋く静かに言いたいものだ。「このカスタードは…許せない」って。
 むしろそう言うためだけに再訪したい気もするが(明白ないやがらせ)、それは自制している。

(2010年4月)

*『最後の晩餐の作り方 新潮文庫』(ジョン・ランチェスター)についてはこちらで紹介しています。→HoneyBeeBrand、本に出てくるおいしい食べ物
http://www22.ocn.ne.jp/~honey/foods09.html#foods89


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