◆ANTIQUE花小筐◆ 花がたみ |
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上 陽子 |
連載その11 夢のあと |
おわら風の盆が終わり、私の夏も終わった。 祭のあとの寂しさ。切なさ。また一年経たないとおわらに逢えない。遠く離れた恋人と久しぶりに逢えたのに、また離れ離れになったような気持ちといえばわかってもらえるだろうか。骨董病に続いて、とうとうおわら病にも罹ってしまったようだ。 前回、踊りに参加することなくただ見ているだけ…と書いたが、今年は意を決して踊りの輪に参加した。浴衣に着替えたもののドキドキしたので、度胸をつけようと金沢から相方に土産として持っていった池月の純米酒をぐいと一口。のつもりだったのだが、紙コップについつい一杯ほど……。 店のある上新町は午後10時から12時まで一般参加ができる輪踊りが三日三晩繰り広げられる。500メートルほどある上新町の通りを二つに区切ってできる大きな輪は、一周するには30分くらいかかる。輪の中には唄い手、三味線、胡弓、太鼓の地方衆と町の踊り子が何人か見本に踊っている。その手つき、仕種の可憐なことといったら、本当にお人形さんのようで見てるとじんわり涙が滲んでくる。相方はとっくに踊りの輪に消え入って姿がない。ちょうどうちでお皿を買って頂いたお客さんが、店先に腰掛け休んでおられるのを良いことに店番を頼み踊りの輪に飛び込んだ。 おわらの踊りは素踊りのほか、宙返り、稲刈りと途中踊りが変わる。素踊りさえまだまだの私は、あら、また足を間違えた、あら、また前の人と踊りが違うと、酔いも手伝っての見苦しさ。ハヤシの上句「ウタワレヨー ワシャ ハヤスー」ときて唄がはいったら、踊りは燕の舞うさまを現わす宙返り。ハヤシの下句「キタサノサー ドッコイサノサー」ときて唄がはいったら踊りは稲を刈る仕種の入った稲刈り。わかっているけど手と足を動かしていたら耳が働かない。踊りこなすまでは遥か遠い道のりだ。 いっぱい間違えたけど楽しかった。祭り最終日の三日、午後12時近く。唄い手の方が八尾風の盆に来ていただいてありがとう、また来年お会いしましょうと挨拶をされたのち、踊りを終わる時に唄う「ぶらり瓢箪 かるそーに流れる……」を唄い始めると踊り手も見物人もまじっての大合唱となった。うねるように響くその唄声はさまざまな思いをのせて高く秋天に昇る。山の端にはぼんぼりのような月が淡く浮かんでいた。 さて、夢のあとの現実に戻ろう。今年の祭の曜日は日、月、火と平日にかかったため、人出は夜に集中。深夜を過ぎても人出は減る様子もなく、しっとりとした町流しに出会うことは残念ながらなかった。風の盆は本来は自分達の「お盆」でひっそりと行われるものであった。なのにこんなに観光客が押し寄せ 祭は自分の楽しみの欲望を満たすだけでなく、おわらを愛するなら、おわらを後世に大切に残していくためにも、マナーを持っていかなくてはならない。 また来年、おわらを無事向かえられますように。 |
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上 陽子(かみ ようこ)さんは、アンティークのお店「花小筐」(はなこばこ)のあるじ。古いものたちの持つおもむきの微妙をさとる確かな目を持った女性です。 | 連載その10へ |
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