◆ANTIQUE花小筐◆ 花がたみ |
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上 陽子 |
連載その13 星の効用 |
空気が澄み、星空の美しい季節となった。 オライオン、フォーマルハウト、アルデバラーン……。星にはなんと美しい響きの名がついているのであろうか。 あいにく私の住む北陸では、なかなかすっきりとした星空は期待できない。が時おり、月光が力強く雲をはらい星空をつかの間見せてくれる時もある。 本物の星がなかなか楽しめないなら、伊万里の文様に星を探しにでもいこうか。 三賢人の乗った船の真上にかかる星。山水文の空にうかぶ月。皿の裏に散りばめられた星座。今より暗く、また空気のきれいだった昔は、さぞかし多くの星を目にすることができたであろう。きらきら瞬くまさに星降るような夜空…。 それでもまだ星を求めるなら野尻抱影の本のなかへ遊びにいこう。 星の文人と呼ばれた抱影は1885年生まれ。冥王星の命名者で弟は大佛次郎。多くの著書のなかでも日々の徒然とともに星の話が散りばめられた「星 三百六十五夜」あたりが良いだろう。民芸運動の柳宗悦や李朝白磁の美を世に知らしめた浅川兄弟とも親交が深かっただけに、抱影も古美術の造詣ふかく、星の美しさを時に焼きもの美と重ねあわせて表現したり、身辺に古美術をはべらしていたことが本の中から伺える。 例えば、9月22日「隠れてはすぐと現れる空は、月もないのに明るい藍で、均窯青磁の美しい色を思い出させた。」、10月12日「一輪咲き誇っていた桔梗を折ってきて、李朝の小さな花瓶にさしてみた。」など。焼きものの持つ静かな美しさと星の美しさは、深淵なるところで同じということを抱影は感じ惹かれていたのであろう。 はからずもこの私なぞも李朝白磁の白には、月のもつ静かで温かな白があると感じていた。眺めて心が静まるところも同じである。 抱影を読んでいて幸せなのは、何十年も前に抱影が見上げた星空を、時空を超えてまた今、この目で見られることである。遠くきらめく星ぼしを眺めていると、この世の中のウゾウムゾウ大概のことが小さく小さく思え、心が洗われていくのであった。 さて、明日もまたがんばろうか、そう思わせてくれるのである。 |
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上 陽子(かみ ようこ)さんは、アンティークのお店「花小筐」(はなこばこ)のあるじ。古いものたちの持つおもむきの微妙をさとる確かな目を持った女性です。 | 連載その12へ |
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