ANTIQUE花小筐 花がたみ
上 陽子

連載その14 と、いうわけで

と、いうわけで高岡。

昨年、九月はじめの風の盆を見に来ていて、たまたまうちの八尾の店に立ち寄ってくださったさん。筒描きで松竹梅が白抜きされた藍染め風呂敷を買って頂いた。
知り合いにバッグや洋服をリフォームされる人がいるから、その人にその風呂敷でバッグを作ってもらうという。よくみればAさんの着ている服も、着物をセンス良くリフォームされたものであった。
「私の嫁いだ家は昔染め物屋だったから、こういうものはつい目についてしまうの。今ね、実はうちの持ち家で使わなくなった店があるの。そこは、私の友達と雛祭りなどの飾り付けをしたり、リフォームした洋服の展示会を年に数回しているんだけど。あなたのところなかなか素敵にしてあるから、よかったら、町の地域おこしに何かやってみて」
そう話して、さんはおわらで賑わう人ごみに消えていった。

私はその話の前半はふむふむと聞いていたが、後半の何かやってみてというのは社交辞令ととった。ところが一緒に店をやっている相方のほうが、へえ、そうですか、ぜひ、ぜひと調子の良いことを言っている。
また、そんなこと言ってと釘をさしていたのだが祭りも終わった十日ほどのちのことであった。相方から電話がはいった。
さんとこ行ってきたよ。ぜひというから何かやってみよう」
「はあ? 行ってきたぁ?真にうけたの」
「そうだよ、さんも、ぜひ上さんにも、そこを見てほしいって言っているから今度行って来よう」

そうして半ば強制的に九月の終わりごろさんのもとを訪ねることになった。通された部屋から二つの峰をもつ泰然とした山が見えた。
「へえ、いい山やねえ! あの山なんていうの?」
「何いってんの、二上山に決まってるだろう」
あーそうか、あれが二上山。そうか、そうだった、私は高岡に来ているのだった。金沢から車で一時間半くらいというのに、この町についてほとんど何も知らなかった。
古くから単独峰、姿の美しい山、峰を二つもつ山は神が宿ると崇められている。まったく知識のない白紙の心で見た二上山の姿に私はすっかり魅せられ、この山を仰ぐことのできる高岡の町をすっかり気に入ってしまっていた。
かつて遠く万葉の頃、伏木に国司として赴任した大伴家持も、この山に魅せられたのではと思いを巡らしつつ…。

と、いうわけで、年明けて一月、ANTIQUE GALLERY 堅香子と名をつけ店びらきとなった。しばらくは毎月第三の土曜・日曜の午前十時から午後六時の営業となる。
加賀藩二代藩主前田利長により開かれた高岡の町には古城公園など藩政時代の名残も多い。土蔵作りの町なみが続く山町筋や千本格子の家並みが残る高岡鋳物発祥の金屋町など赴きある古い町並みも残る。中心街も、すこし人の少ない?京都の三条通り…に見えなくもなく。また国宝の瑞龍寺、与謝野晶子が鎌倉の大仏より美男とたたえた大仏さまもいらっしゃる。
海に山に歴史と文化のある高岡の町を楽しみながら、お訪ね頂けるとありがたい。


追記 連載の第12回に書いた櫛かんざし美術館に所蔵されている岡崎智予さんのコレクションが、「髪飾りにみる遊びと心と粋―江戸から昭和展」として高岡市美術館で二月十二日から三月二十二日まで展示されます。素晴らしい品々ばかりですので、近隣の方々は、ぜひ足を運ばれることをお薦めします。

        
   高岡・ANTIQUE GALLERY 堅香子の店内                       山町筋通り

上 陽子(かみ ようこ)さんは、アンティークのお店「花小筐」(はなこばこ)のあるじ。古いものたちの持つおもむきの微妙をさとる確かな目を持った女性です。 連載その13へ