ANTIQUE花小筐 花がたみ
上 陽子

連載その20 かぼちゃ

 過日、久しぶりに亀鳴屋亭主と麗しい妻女のすまうお宅を訪った。この日は花火大会が犀星ゆかりの犀川河畔であり、亀鳴屋亭主の家は花火見物の穴場近く。日ごろのご無沙汰もなんのそので、ライターとカメラマンの友人も同伴し押しかけた。 押しかけるからには手ぶらで伺うわけにはいかず、久しぶりに料理なるものを作ってみようと思いたった。人様に食べて頂けるものをと思うと、あれこれと思いが巡り、おまけに何度もいうが久しぶりの料理であるから、いざ作り出すと「豆腐ハンバーグ」のはずが「豆腐入りつくね」、「糸寒天のサラダ」のはずが「インゲンと牛肉入りの糸寒天炒め」といった具合に、微妙なずれを見せ始め、当初の思惑とはちょっと違ったものに仕上がっていったのである。
 これも編集の妙技、情報は変わるのだ・・・と嘘ぶきお重に詰めてしまえば、始めからそうだったような料理にもみえてくる。そうして何も知らずに亀鳴屋に集った客人たちの胃の腑へと、順々に収まっていったのであった。
 もともと料理を作るのは好きだが、それ以上に料理本を眺めたり読んだりすることが好きである。写真とレシピを眺め、想像するだけでストレス発散になる。なかでも一番発作的にあれこれと作りたくなったのは、古い本だが檀一雄の「檀流クッキング」だ。
  新聞に連載されていたもので写真は一切無し、きちんとしたレシピも分量も書いてない。あくまで"檀流"である。思うに想像力の無い人、味覚を組み立て、イメージできない人には不向きの料理本であろう。私の好きな川上弘美も、これを読むと発作的に作りたくなるといったことをエッセイのなかで認めていた。
 亀鳴屋亭主のお宅へ遊びに行く楽しみのひとつに、うちから嫁にいった器たちにまた出会えることがある。今回も取り皿として懐かしい器たちに出会えとても満足。食器棚にきちんと収められた器の姿をみるにつけ、良い家に嫁いだねと心のなかで話しかけているのであった。
 さんざん飲んで、食べて花火を見ての帰りがけ、妻女のお里で採れたカボチャを頂いた。その夜の楽しかったことが全部詰まったような大きなカボチャ。ごろんとそこにあるだけでほのぼのとした幸せがある。
 煮付けも良いけどカボチャプリン、カボチャアイス・・・・・・、目下、何に変身させようかと楽しい思案中である。

 
上 陽子(かみ ようこ)さんは、アンティークのお店「花小筐」(はなこばこ)のあるじ。古いものたちの持つおもむきの微妙をさとる確かな目を持った女性です。 連載その19へ