河崎 徹
河崎さんは、金沢近郊の医王山(いおうぜん)で、イワナやヤマメなどの養殖と、川魚料理の店「かわべ」をやっている、そろそろ落日間際の六十代。仕事より、魚釣りやら草野球やらにうつつを抜かし、店の方は、気が乗らないと勝手に閉めてしまうのが玉にキズ。(でも料理はウマイんだな)。いつもマイペース、ままよ気ままの行きあたりばったりエッセイからは、その人柄が伝わってきます。

第四十四回 「お国のため、ほしがりません、勝つまでは」

北朝鮮に拘束されていた米国人(民間人)二人を、クリントン元大統領が当地(北朝鮮)へ乗り込んで二人を連れ帰った(どんな取り引きをしたかわからないが)。アメリカとは、個人を大切にする国である(あくまでも建前だが)。その事に対して日本の政府は「アメリカ政府のやり方は従来の姿勢に矛盾している」と、もともと外交なんてものは、どこの国でもそういうものであろう(アメリカが核を持っていながら、北朝鮮が核を持つ事を禁止しようとする。要はきれい事だけでは物事は解決しない)。
だが、日本政府は「スジ」を通し続ける。北朝鮮が非を認めるまでは。

では、もし私の子供達が北朝鮮に拉致されたとしたらどうするだろうか。「将軍様の前で頭を下げろ」と言われれば頭を下げ、「金を出せ」と言われれば金を渡すだろう。とにかく自分の子供をまず助ける。それがまず先決だろう。それから北朝鮮への対応を考えればいい。あんな国(北朝鮮)に拘束されているという事だけで、私だったらおそらく耐えられないだろう。ここ石川県出身で最も人気のなかった森元総理(現在も自民党の長老)、彼がやろうとした事で私が評価するものはほとんどなかったが、唯一あったのは、彼が被害者をひそかに第三国へ出国させ、そこで日本政府が引き取る、という事を考えていたらしい(さすが寝技師といわれた男)。しかし「もっと北朝鮮バッシングに利用しろ」という周囲の声に頓挫してしまったらしい。戦後六十数年、この国はまだあの当時の「お国のため、ほしがりません、勝つまでは」の精神が生きれている様だ。
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