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ジュニア向け乱歩風探偵小説「嘲笑うサンタ」第1話から第10話まで


第1話 町はクリスマスの喧噪に包まれていました。誰もがうきうきとして家路に急ぐ夕方のことです。
 健太君は、友達とのクリスマスパーティの帰り道で、興奮も醒めやらぬ様子で、頬を紅潮させていました。ポケットにはパーティでもらった月光仮面の鉛筆が入っています。
 と、その時、健太君にぶつかるように、横道からサンタクロースが大きな荷物を担いで突然現れました。
 あやまりもせずに先を歩いていくサンタに、健太君はちょっとむっとしましたが、次の瞬間、ぞっとしました。
 サンタの肩に担がれた袋が、まるで生きているかのように動いていたのです。

第2話 健太君はサンタクロースの後を追うことにしました。なぜならもくもくと動いているサンタクロースの抱えた袋からちらりと花柄の布地がのぞいていたから、彼のもちまえの好奇心はもっとあおられたのです。
 彼は江戸川乱歩の熱烈なファンで学校でも乱歩クラブというクラブを作り、事件箱という箱を作って教室に置きみんなからの事件を募集していたほどです。 といっても実際入っていた事件といえば家のネコがいなくなっただの、誰々に気に入っていたマンガをとられたが気が弱くて返してくれといえないのでので取り返してきてくれだのつまらないものばかりで、もっとひどいのは江戸川乱歩って誰なんていう、事件とはほど遠いものばかりでしたが。
 まあよく考えれば、そんな事件しか起きないってことは平和な証拠なんだけれど何度も乱歩の本を読み返す度に、彼は乱歩の小説の中にでてくる奇ッ怪な事件に巻き込まれる少年たちをうらやましくさえ思っていたのです。
 そんな彼が怪しげなサンタクロースのあとをつけたのは当然と言えば当然のことで、もしかしたら彼にとっては義務にも感じたのではではないでしょうか。
 さてサンタクロースは健太君に後を付けられていることには気づかず、だんだんひとけのすくない暗い寂しい通りへと進んでいきます。そして一軒の古ぼけた家の前までくると肩越しにあたりに誰もいないのをを確かめその家の玄関に向かってなにかささやきました。ですが、健太君はそこからは10メートル以上離れた電柱の陰にいるので全くなにも聞こえないのです。
 やがて玄関の扉をを誰かが開けたとみえ、サンタクロースはその家の中に入っていきました。健太君はそっとその家に近づき、サンタクロースと同じように肩越しにまわりをうかがい玄関の脇の狭いその家と隣家の隙間に入っていきました。
 なんだか泥棒になったようないやな気分でしたが同時にわくわくするような変な気分で窓からそっと中を覗きみると...次の瞬間、健太君の顔はみるみる青ざめていったのです。そこには...(Jan.9 グリンゴ)

第3話 そこには、何もなかったのです。
そう、何一つ。
今、ちょうど人が入ってきたばかりなのに、そこは、何十年も人が入っていないかのような様子でした。
 もちろん、それだけでは、顔が青くなるような怖さに襲われるはずはありません。
 「壁に、・・・」健太君はささやくような声でいいました。
壁に文字が書いてあったのです。健太君には読めません。
 しかし、健太君の恐怖を誘ったのは、「その文字が、血で書いてあった」からなのです。
  ”今宵、恐怖のベルがなる。 Merry Christmas!”...   (Feb.2 すぎ)

第4話 「うわぁぁぁぁぁ。」
 健太君は突然訳の分からない恐怖感に襲われ、叫びながら狭 く暗い路地を飛び出しました。暗い中で鮮明に浮き上がるあの赤い文字。それが脳裏にこびりついて離れません。
 健太君は人混みを目指して走りました。必死に走りました。普段通っている近所の道なのに自分が今どこを走っているのか分かりません。町のイルミネイションがちかちかと見えてやっと健太君は落ち着きを取り戻しケーキ屋さんの前で足を止めました。
 ケーキ屋さんの店頭には立派な白いデコレイションケーキが並べられています。白い、きれいなケーキです。・・・しかしそこにはあの言葉がありました。
   ”Merry Christmas”
 再び甦るあの光景と訳の分からない恐怖が健太君を襲いました。しかし恐怖の中に彼の持ち前の好奇心も生まれました。
 「みんなを呼ぼう。」       (Mar. 13 Jna With Penny)

第5話 みんなが集まって、いよいよ作戦会議です。
「・・・で、その文字っていうのは?」佑介君がききました。
「えっとね・・・こうで・・・こうだったかな?」
健太君は、ちらしの裏に、その文字を書きました。
「なんて読むの?」今度は、香ちゃんが聞きました。
「わかんないよ」と健太君。「僕は、文字の形で覚えているんだから」
”今宵、恐怖のベルがなる・・・”
健太君は、「宵」と「恐怖」の読み方を知りませんでした。
「今っていう漢字は簡単だけど、他のはわかんないね。『今・・・、のベルがなる』」
と佑介君が言いました。
それだ!と健太君は思いました。
「そうだよ佑介!簡単なのは読んで、難しいのは読まなきゃいいんだ!
 つまり、『今、ノベルがなる』だよ!」
みんな、一斉に手をポンっと鳴らしました。
そうです。今テレビで宣伝されていて、誰もが知っているといわれるほど有名な小説
「ノベルがなる」という本です。その本の作者は、「今武」という人でした。
「でも・・・、それがどうしたの?」またまた、香ちゃんが聞きました。
「ダイニングメッセージだよ。」健太君と佑介君が、声を合わせて言いました。
「僕が窓から部屋を覗いたときは、誰もいなかったけど、
もしかしたら、誰かいたのかもしれない。死角になっていたんだ」
健! 太君は、自慢げにいいました。「死角」なんて、かっこいい言葉を使って。
「つまり、その本に関係がある・・・例えば、犯人の名前が、そのほんの主人公と同
じ名前、とかね」         (Mar.21 すぎ)

第6話 「1800円かぁ、高いな。」祐介君は本の値段を見て言いました。
小学3年の彼らにとって1000円以上というのは、大金でした。
「おまえ、いくら出せる?」と健太君。
「私は500円持ってるけど・・・」と香ちゃんは言って顔をしかめます。彼女は
この500円でおいしいモンブランを買うつもりだったのです。
「じゃぁ、香りちゃん、500円だせよ。僕は300円しか持ってないけどサー。」
と健太君は言います。
「何よそれー。もっと持っているんでしょ?」と香りちゃんは健太君のズボンのポ
ケットに手を強引に入れました。「なんだよ!やめろよ!わかった、わかったよ!
」健太君は観念しきった様子で、ポケットから100円玉を5枚出しました。そこ
へ祐介君の顔が二人の前に現れました。「何だ、二人とも。それだけしかないのか。
仕方がない。」そういうと、内ポケットから1000円を出しました。その瞬間、
「おおっ」と言う歓声が上がりました。
「おばちゃん、これください!」(Mar. 26 Jna With Penny)

第7話 「さあ、さっそく読もう!」
 健太君たちは公園のベンチに並んで座ると、ドキドキしながら今買ったばかりの
『ノベルがなる』を開きました。
「香ちゃん読んでくれよ」健太君。
「いやあよ。二人ともそのあいだにお菓子を食べちゃう気なんでしょ」
 三人は本を買うのに余った200円でポテトチップスとチョコレートを買っていたの
です。
「そんなこと言って、読めないんだろう」祐介君がちょっと意地悪な言い方で言いま
した。
「なによ。みんなは読めるって言うの?」香ちゃんはちょっとだけ頬を赤くして言い
ました。
 健太君も祐介君も何も言い返せません。
 それもそのはずです。『ノベルがなる』は大人向けの本なので、難しい漢字がたく
さん使われていたのです。
「どうしようか……」祐介君が困った顔でそう言った時、健太君が叫びました。
「僕に任せろ! 字が読めなければ絵を見ればいいんだ!」
 健太君はわざと自信満々の口調で言いました。香ちゃんにいいところを見せたかっ
たのです。
 健太君は『ノベルがなる』の一頁目を開きました。そこには大きな木の絵が描かれ
ています。『ノベルがなる』は「ノベル」という空想上の果物にまつわる人間関係を
描いた小説です。その木はノベルの木なのです。
「この木……、どこかで見たことがあるよ」祐介君が言いました。
「ほんと? どこにあったの」健太君と香ちゃんが驚いて聞き返しました。
 ノベルという木は空想上の木なので、世界中のどこを探してもあるわけはありませ
ん。祐介君は健太君に負ずに香ちゃんにいいところを見せようとして、思わずそう言
ってしまったのです。
「ねえねえ! どこにあったの?」健太君と香ちゃんはしつこく祐介君に聞いてきま
す。
祐介君は「ゴメン嘘だよ」と言おうと思ったのですが、つい別のことを言ってしまい
ました。
「松ノ湯……! お風呂やさんで見たよ」(Mar. 26 玉生洋一)

第8話 「松ノ湯」と大きく書かれた看板を前にして少年達は何故か
お風呂に入りたい衝動に駆られました。
 しかし、風呂にはいるためにここにいるのではありません、ノベルの木を探すため
にいるのです。
 「どこにあるんだよ!」健太君が祐介君を睨み付けます。
 「・・・ごめん・・・嘘ぴょーん!」祐介君はおどけて言いました。
 「・・ねえちょっと推理ドラマだったらさここで現場にも戻るんじゃない?」
 「・・・いいねぇ。ららら・・・」祐介君はすかさずつっこみを入れます。
 「だーほ!!!」(May 5 Jna With Penny)

第9話 「でも、ぼく覚えてないんだ」
 健太郎君が言います。
 「覚えてない?」
 二人の声に健太郎君はうつむいて,
 「現場ってさ、あのサンタが入っていった家だろう? ぼく、あの場所がどこだったか
覚えていないんだ」
 「なんだよ、それ」
 祐介君はやれやれというようにため息を付きます。
 「しかたないわよね,びっくりして逃げ出しちゃったんだもの」
 香ちゃんがなぐさめると,健太郎君はハッとしたように顔を上げました。
 「お兄さんだ!」
 びっくりして目をまん丸にしている二人をよそに,健太郎の喜びようといったらありま
せん。
 「そうだよ、どうして気付かなかったんだろう」
 香ちゃんが聞きます。
 「ねえ、健太郎君,そのお兄さんって誰なの?」
 健太郎君は胸を張ると,にっこりとしました。まるで、ぼくにまかせておけとでもいう
ように。
 「名探偵だよ」
 その言葉には香ちゃんもびっくりしました。
 健太郎君が言うには、そのお兄さんというのは健太郎君の近所のアパートすんでいて、
近所では有名なひとなのです。
 まだ若い人なのですが,奇妙なことが大好きで「ヤア,素敵、素敵」と口癖のように言
うのを,健太郎君も二度ならず耳にしているのでした。
 「名探偵って,明智小五郎みたいな?」
 「うん、あんなに立派じゃあないけれどね」
 「そうだな、せっかく1800円も出して本を買ったんだから,大人に見てもらうのも
いいかもしれない」
 祐介君も乗り気です。
 そうときめると、3人はソレッとばかりに,お兄さんのアパートに向かって走り出しま
した。    (May 15 三ツ木)

第10話 通称心臓破りの坂といわれる約120メートルの坂を上れば名探偵こと
お兄さんのアパートです。周りは木々で囲まれており少し勇気のいるところです。
 「なによーここー。」
 「薄気味悪いなぁー。」
 皆が口々に同じ事を言います。
 確かにここでお化けが出ても誰もが納得するでしょうし、熊や切り裂きジャック、そして
あのサンタクロースの顔までもがヌッと出てきても彼らにとっては不思議のない所でした。
    (May 16 JNA with PENNY)

第11話から

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