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(C)2003
Somekawa & vafirs

今宵たっぷりと

近藤 嗣紀

相当古いが手入れは行き届いている格子窓のガラス越しに、たっぷり人を詰め込んだ京浜東北線の209系が見える。
(・・・あの車内に比べてここの快適なこと。)そんなことを思うと酒がさらに旨く感じてしまう。
 「杉本さん、おかわりください。」
杉本さんはウィスキーのコルクを抜き、グラスに氷を1個追加し、ドボドボ注いでくれた。
(・・・なんてたっぷりなんだ。)
 杉本さんはメジャーカップを使わない。
 『量が少ないと怒る酒呑みはいるが、量が多くて怒る酒呑みはいない』という強い信念があるからなのだ。  以前カウンター内で共に仕事をしていた樫本氏はメジャーカップを使用したところ、
 『お前、ケチだなあ。自分の酒でもないのに。』 と云われたそうである。  ちなみにシングルはグラスの先端に届かない程度であり、ダブルは表面張力となる。

東京ステーションホテルメインバー「カメリア」。 杉本さんと半世紀近く歴史をともにしてきたであろうこのバーは、東京駅赤レンガ駅舎改築プロジェクトの為、平成18年3月末日をもって閉店した。 赤レンガは5年後リニューアルオープンするのだが、「カメリア」がどうなるかは決まっていないようだ。
自分にとって乗換駅である東京駅において「カメリア」は隠れ家であり、ON/OFF切り替えの時間を過ごす唯一の場所だった。 ふと振り返れば、10年通っていた。

杉本さんは現在、銀座千疋屋地下のバー「銀座ミリュー」でフルーツカクテルを中心に仕事をされている。 先日寄ってウィスキーを注文したところ、「カメリア」より大ぶりのグラスであるにもかかわらず、ドボドボと注いでくれた。

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