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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

飲兵衛でよかった

ここ二カ月続いた千楽ご夫妻の<ロブロイストの日々>における、酒まみれの名文に誘発され、久しぶりに飲兵衛、酒の話を書いてみよう。

「ガンガ〜〜ン」ときたあの手術からやがて10年になろうとしているが、有難い事に転移、再発もなく今に至っている。
ただ相変わらず貧血気味であり、これは(胆のう摘出による)鉄分不足という事で「じゃあ鉄剤を服用してみましょう」という事になり、数か月服用したところ、どうも効果が感じられない。
そこで先日血液検査によると、かえって数値が落ちていた。
「ありゃー」となり、主治医いわく、胃も関係するらしく、僕の場合三分の一ほど胃を残してあるので治療も微妙に異なる、ということだった。
今のところ次の治療のため、また「血」を取られたが、まあ乞うご期待、といったところである。

貧血に続いて少々難があるのが食事である。
胃があると書いたが、残った胃を筒状にして、切り取った食道の変わりにしている。
結果「胃袋」としては機能していないので、相変わらず食事には不都合する。
もともと小食ではあるが、もはや粗食となり、好きだった乳製品もダメになり、飲兵衛の割にはオハギやサクラ餅など大好きだったのであるが、これも食べれなくなった。
実に残念ではあるが、まあ世間でいうところの一端(いっぱし)の病気をしたわけであるから、これぐらいは我慢することにしよう。

それより何といっても有難いのは酒を飲めることである。
食道を半分切り、胃を三分の二切り、膵臓も半分切り取り、脾臓(ひぞう)・胆のう全摘したが、そんな事は酒には関係ないようである。
最も如実に表れる肝臓の数値であるが、手術前と何ら変わらず、例の「γ」値であるが相変わらず「20前後」とまあ、飲酒を全くしない人より低い数値だそうである。
まるで「どいだけ飲んでも良いぞよ・・」と言ってくれてるようなものである。
実に有難く、酔い良いである。

「じゃあ飲まにゃ〜」という事で適当に飲んでいるが、そんなに無茶飲みしているわけではない。
だいたいウイスキーはバーボンの方が多いが、自前で飲むのが週に2本ほど、月にすると8本という事になる。
それにお客さまに少し頂いたりするわけであるが、これはウイスキーに限らないのでどのくらいの量になるかは想像するしかない。
が、結果一日に換算すると平均ボトルで半分弱ではないかと思う。
これが多いか、少ないかは別として次の日に残らない程度の、僕にとっての適量なのだろう。
世間の酒豪となるとキリがないが、もう亡くなった偉大な漫画家、赤塚不二夫が生前中日新聞にコラムを連載していた。
毎日ウイスキー一本と焼酎一本、都合二本飲んでいたそうである。
連載中は(僕と同じ)食道がんを患っており、さすがにウイスキーは控え、焼酎一本にしている、という事だったが、それでも凄い。

これまた亡くなったが、元喜劇王であり読書家でもあった内藤陳という人がいた。
彼の随筆を読んでいると、毎日自分の店「深夜プラス1」でウイスキーを一本飲み、二本目をベッドに持ち込み、本を読みながら飲んでいたそうである。
その間何も固形物を食べていない。
朝になり「死んじゃあいけねえ」という事で生卵を一個飲みこんでいた、という事だった。
さすがに周りが心配し、陳さまに「物を食べさせる会」というのがあったくらいである。
当然長生きはできない。

僕はというとそこまで飲んでいない。
そして適当に物も食べている。
彼ら二人に比べると、実に健康的な「飲兵衛」ではないかと思っている。

つい先日飲兵衛にはたまらない珍品が入ってきた。
ラム酒であるが、良質で有名なグアテマラはデメララ産のサトウキビを原料にし、ガイアナで蒸留するとイギリスはスコットランドへ運び、 あの特徴のあるアイラモルトはラフロイグの空き樽で、なんと18年寝かしたという代物である。
それまで他のカスク(モルトの空き樽)で試したようだが「これに行き着いた」という事のようである。
もはやラム酒ではない。
かといってモルトウイスキーになるはずもない。
飲んでみると、どこにも属さない酒、ということになろうか。
ただ一言「わしはワシじゃあ〜」と叫んでいるような酒である。

ほんとうにいい酒に出会うと、そんなに言葉はいらない。
「酒を好きでよかった」そして「飲兵衛」でよかった。
と、ただただ素直に思うだけである。
ゴクリ・・・

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。