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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

ヨメさん、恐るべし・・・

ここしばらくカタツムリや、便秘になった金魚を助けた話や、飼っていたヒツジは勿論、 家畜であるブタを散歩と称して連れまわした話などを書いてきた。 ブタの場合、散歩というより引きずられていたようなものだが、何れにしろ経験のある人はかなり少ないと思う (といっても最近はペット用のミニブタが売られているようではある、実際に見たことは無いが)。 ともかく今回も動物の話になる。

つい先日の話である。
相変らず深夜、店から我が家に帰る。もちろん嫁さん子供達はそれぞれの部屋で寝ている。 僕はいつものように急須(きゅうす)に茶葉を入れポットの湯をたっぷり注ぎ大振りの湯飲み茶碗に全部淹れる。 それを持って二階の自室に上がる。六畳のタタミの生活である。 布団を敷いた枕元に自分で作った背の低い、小さい長方形のちゃぶ台がある。 上には目覚まし時計と照明スタンドが置いてあり、隣に湯呑み茶碗を置き、布団に入る。

お茶を飲みながら、テレビを見たり本に目を通したりするが、大概すぐ眠りにつく。 どのくらい経ったのだろうか、ふと目が覚めた。 スタンドを点け、何気なく横に目をやると、 枕もとのちゃぶ台の方に向かって一匹の虫がいる。最初メスのカブトムシか?と思ったのであるが、それにしてはチョッと細い。 カミキリムシにしてはあの長い触角が無い。ようするにゴキブリである。

そのゴキブリの様子がどうもおかしい。ココまで何とか辿り付いたがもう動けない、 といった感じである。ぼくはそおっと背中を押してみると逃げるどころか、かすかに前足が動いている。まだ生きている。 察するに、ゴキブリの寿命がどのぐらいなのか知らないが、それなりに生きてきたのだろう、往生の前に水を一口欲しくなった。 たぶん僕の枕元にお茶がある事を知っていたのではなかろうか。たまに僕が寝ている間に飲んでいたのかもしれない。 よしそれならと思い、ゴキブリをそおっとちゃぶ台に置き、すぐ前にお茶を数的垂らした。 しばらく見ていたら、むかし同じような事があったのを思い出した。

独身のころ、四畳半と六畳のアパートに住んでいた時のこと。
今と同じやっぱり深夜に帰り、入り口の四畳半の電気を点けると、コタツの上に大きなゴキブリがいる。でも逃げない。 かすかに動いてはいるが、しかし進めるような状態ではなさそうである。 僕はいたずら心がわき、冷蔵庫から牛乳を取り、ゴキブリの前五センチくらいのところに少し垂らした。 さあ呑めるならココまで来てみろ、といったところである。そのままにして僕は布団に入った。 目が覚めると真っ先に見てみた。少し進んでいる。仕事に行き帰って見ると間違いなく近寄っている。 そしてまた次の日も牛乳にやっぱり近づいている。僕はなんだか楽しくなった。 もちろんすでに牛乳は渇きっているのだがそんなことは問題ではない。四日目くらいになると僕は心で応援していた。 あと一センチだ、ガンバレ。
そして次の日、五日目である。あと数ミリというところで動かなくなっていた。それもなんだか「無念」という風である。 というのも前右足だけが、かすかに牛乳に架かっていた。いわば右手を出した状態、クロールを想像して頂ければ良い。 次の日、近くを流れる犀川へ流してやった。

話は元へ戻そう。
「ゴキブリをそおっとちゃぶ台に置き、すぐ前にお茶を数的垂らした」と前記したが、正確には過去のゴキブリの事もあり、 ほぼお茶を口に含むように置いたのである。そして僕は寝た。
起きて見てみる。まったくその位置から動いた気配が無い。触れてみるがピクリともしない。 今回は意地悪したわけではないので、往生したのだろうと思いながら階下へ降り、嫁さんにこの一件のことを話した。

嫁さん曰く、
 「アラッ、きのうゴキブリジェットをアナタの部屋に置いておいたの、すぐ効いたのねえ〜」
人間の男もそうであるが、ゴキブリも嫁さんには勝てない。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。