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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

ある営業マン

相変わらず一人で酒場をやっている。 といってもお客さん商売、一人であるような、ないような。

そのお客さんであるが、酒場のいいところは特にお客様に対して、何らかの方向とか、また何か垣根のようなものがあるわけではない。 実に年齢も含め、色々な職業の人が来る。
一般に先生といっても幼稚園の先生から大学まで。 またお医者さんもそうである。 乗り物といえば戦闘機乗り、いつかなど潜水艦乗りも来てくれた。 先日など自衛官のY氏の横に偶然座ったのが、海上保安庁のK氏であった。
珍しい仕事といえば、放って置くと波の浸食で島が無くなるという、あの日本の最南端“南鳥島”で回りを囲う防波工事をやった、という人も来ていた。 彼曰く「あんなもの島ではない」と言っていた。 家一軒どころか、テント一張り張れないらしい。

もちろん変わった職業、変わった人達は少数派になる。 今回もある普通の営業マンの話である。
学生時代もたまに来てくれていた。 身長は180近く横幅もバランスよくあり、空手部の主将をやっていた。 全体にゴツイ。 しかし顔は至って平和 。俗に言う“気は優しくて力持ち”と言った感じである。 どこぞのバーの主の様に、痩せて、チビで、ギスギスしていない。

さて元空手(少林寺)部の主将、今は営業二年目の元気な青年である。 その彼が久しぶりに「マスター、僕のセンパイをお連れしました」と言いながら会社の先輩とやって来てくれた。 あえて上司と言わないのが体育系らしい。 それと先輩といってもまだ二十代のようだ。
 「センパイ、今日は僕のオゴリです。どんどんいきましょう」「ホイホイ」と言いながらその先輩が話してくれた。
その会社は二人で組み、営業活動する事になっているらしい。 そこで彼が入社前、空手の主将をやっていたという、何やら体のゴツイ、ヤンチャな男が来るらしい。 と噂になり、誰がそいつと組むか、と問題になったらしい。 結局自分になり、アリャー。 しかし会ってみると実に穏やかで頼もしそうな男、正直ホッとした、という事であった。
 「イヤー、センパイのおかげで仕事やりやすいですワー」とまあ、営業言葉になっているのか、いないのか? まあまあ上手くやっていそうである。 先輩もそのオベンチャラに意味も無く「フムッフムッ」である。

そういう流れのところへ偶然空手部の後輩がやってきた。 「これは、ど、どうもセンパイ」彼はゆっくり立ち上がると、後輩の肩をバーンと叩くと「オウーッ、元気にやっとるかーッ、ちゃんと練習せーよーっ」「ハイッス、センパイ」
さすがは元主将である。 威厳がある。 先輩との言葉遣いがちがう。 「まあ、飲めーっ」とやっているところへ、これまた偶然教室の教授がやってきた。 「オーッ、T君かーっ」すると今度はパッと立ち上がり、シャキッと気を付けの姿勢である。 そのままペコリと頭を下げながら、
 「イヤー、これは先生どうもどうもご無沙汰しております。イヤーお元気でいらっしゃいますか・・・・・こちらは会社のセンパイです」先輩はつられて「センパイです。ど、どうも」とまあ、つられて先輩まで真面目な生徒の顔になってしまった。

それからは後輩としての顔あり、威厳のある顔あり、恐縮した顔ありと、彼の変わり身が何とも滑稽であるが微笑ましい。 そして元々人のいい気は優しくて力持ち、その日は和やかな笑いの響く楽しい酒場となった。

話としては何でもない事だが、カウンターの中から色々な人と人を観れる、なんとも楽しい仕事である。 彼の大きいのは体だけではない、心も広くて大きい、もちろん人へも。 チビで痩せた僕も心だけは大きくありたいものである。

社会人二年生、もはやりっぱな営業マンである。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。