・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

引きつった笑い

先日店に電話が来た。
と書くと「電話が来るのがそんなに珍しいのか!」と言われそうだが、実際珍しいことでなければ少ないほうだろう。 一日に一本あるかないか?である。
もともと暇つぶしに知人に電話する趣味もなく、仕事で必要かというと、たまに業者に何らかの注文をする時ぐらいである。
独身時代は部屋に電話はなく、結婚して嫁さんに「やっぱり電話は必要かな?」と聞くと「今の時代(と言っても20年前の事だが)電話がない家というのはよほど貧乏か、何らかの事情で逃亡生活を送っている夫婦ぐらいじゃない・・・」と言われ、なるほど、と妙に納得しめでたく電話は引かれた。

さて今はケータイの時代。 嫁さん、子供達も当然のように持っているが、僕はというと特に必要性も感じることなく、また仕事で“持たされる”という状況でもないので、未だに持っていない。 持っていないことを人に言うと、緊急の場合うんぬん、と言われることもあるが、一生の間に緊急と思われる非常事態はそうあると思われず、仮に道を歩いていて車が我が方へ突っ込んで来たとしたらそれは緊急の非常事態であろうが、ケータイを使う暇もないように思われる。 と、ちょっと屁理屈が過ぎたような気がするのでこの辺でやめておこう。 もともと電話についてだらだらと書くつもりではなかったのであるが、流れで書いてしまった。 ご了承のほどを。

さて冒頭の「先日店に電話が来た」にもどろう。
金沢のタウン誌金沢倶楽部の編集部T女史からであった。 我が社発行の月刊誌「金澤」の企画で取材したい、ということであった。
読者対象をある程度落ち着いた年齢層、五十代以上向けという事である。 数年前にもほかの企画で取材されたことはあり、なかなかの重厚な雑誌である。
今回は「バーの楽しみ方」というタイトルで二回目だそうである。 五十代の常連さんに店に来てもらい、その人なりのバーの楽しみ方を話してもらい、何カットか写真を載せたい、という事だった。
さて誰にお願いしようか、と思っているところへタイミングよく五十を過ぎたS氏がやって来た。 あのギターの好きなS氏である。 早速その旨話してみると「僕でよければよろこんで」ということだった。 数日してT女子から連絡がありいついつの日に取材ということになった。

当日営業一時間前の六時ということだったがS氏は五時半にはギターを抱えてやってきた。 少し早めに来てテンションをあげておこう、という事らしい。 2〜3杯飲っているとカメラマンと一緒にT女史がやってきた。 三十過ぎ独身の美人編集者である。
S氏はギターを抱え、オンザロックを飲りながらであるが、いろいろな質問、話に及ぶ。 今は仕事の関係で東京は八王子のため月に一回しか来れないが、この店とは20年来の付き合いになる。 主とは以前バンド仲間でもあった。 ここではこのバーボンが気に入っている。 などなど話しながら、酒も進んでいく。 T女史はところどころ相槌を打ちながらニコニコと聞いている。 S氏はますます気をよくし、逆に彼女にクイズを出し始めた。
 「冷蔵庫にキリンを入れる三つの条件は何か?」通常そんな大きな冷蔵庫は身近にないので彼女はわからない。 答えは、@ドアを開ける。 Aキリンを入れる。 Bドアを閉める。 である・・・・・。 次は像を入れる四つの条件である。 もちろんやっぱり彼女は分からない。 また分からなくてもいいようなクイズである。
参考のために、@ドアを開ける。 Aキリンを出す。 B像を入れる。 Cドアを閉める。 ・・・・・やっぱり分からないほうが賢いような気がする。
とは言えS氏なりの雰囲気作りである。 事実カメラマンまで大笑いしながらたまにパチパチとシャッターを切っている。
さて和やかなうちに取材は順調に進み、最後にマスターと目を見ながら微笑んでください、となった。 突然言われS氏も僕も一瞬戸惑ってしまい、流れで目を合わせながら笑うことはあっても改めて言われるとどうも照れくさい。 ちょっと表情が硬いですねえ、と言われながらも何枚か撮っているうちにOKとなった。

結局S氏のトークで和やかなうちに取材は終わり営業時間となり、そしてそのままT女史もカメラマンも世間話となったのでありました。
さて来月の11月20日発売とのこと。 S氏と僕の引きつった笑い、見たくもあり、見たくもなし、といったところである。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。