起源の地の旅人


第二章 ワンダーウッズの遺跡


 こうして仲間となった一行は、早速ワンダーウッズの遺跡群へ向かうようになった。遺跡には、何かいる場合もある。いない場合もある。基本的に遺跡を冒険する者は、そこに好ましからざる「何か」があると思って赴くことになる。もしそんなものがないのであれば、素人でも探検はできるのだから。
 「大体は、アンデッドがいるものさ、遺跡には」
 ヒューバートは経験豊かなので、あっさり言ってのける。
 「あとは、そうだな、コンストラクテッド(創造生物)ぐらいだな。他の生き物はいたとしても、はるか昔の話、もう朽ち果ててしまってるさ」
 「でもね、森の生き物が入り込んでいる時もあるでしょ?」
 「まぁね、お嬢の言う通り、そういうことはある。大型昆虫みたいな奴らは、地下の遺構に入り込んでることはあるな」
 道すがら、そんな会話をしているのは、ヒューなりの配慮だ。同行者には知識を与える余地があってもよい。知識までケチるのはやり過ぎというものだろう。


 今回の目的地は、ワンダーウッズから一日行程の場所にあり、地下遺跡ということだった。途中、熊に出会いそうになったが、そっとやり過ごした。ヒュー曰く、
 「無駄な危険は犯さぬに限る」
 ということらしい。
 現地にたどり着くと、ヒューとベルは辺りの確認を行った。何か潜んでいないか、仕掛けはないか、と彼らの技術を駆使して安全を確認した。野外の乱戦ではないのだから、彼らのような働きは地味でも貴重なのだ。
 遺跡は、地上に石造りの門のような構えだけが残っていたが、そこからすぐ地下に降りてしまう形になっていた。
 「俺とあんたで前を行こう。シリルとベルは後ろにいて、辺りを警戒してくれ」
 (お、こいつはこういうところの心構えがなっているな)
 ヒューはセインの指示めいた言葉でそのように感じた。それでも口にしたのは別のことだ。
 「おいおい、ここは俺の方が専門だぜ。素人はとりあえず、玄人のやることを見ておくもんだろ」
 「何か異存でもあるのか」
 「いや、別に」
 気に入らないんだよ、と最大限に見せ付けて引き下がる。ヒューは少し楽しんでいる、とベルには思えた。
 「私が出ましょうか?」
 とシリルは提案してみたが、
 「それはよくないな。俺は前でなければ警戒が疎かになるだろうし、セインは経験豊富と見える。俺たち二人がベストだろう」
 ヒューは、彼としては丁寧に拒絶してみせた。これはセインの考えを肯定しているに他ならない。
 「まぁ、これでいいさ。おふたり、後ろはよろしく。あと、ルーリエちゃんは魔法の使用、タイミングよくよろしく。場合によってはそれが命運を左右するからな」
 ストライカーは軽口を叩くような感じでそう言った。
 セインは一連の発言からおよそヒューの真意を悟ったので、それ以上はいつもの寡黙さを発揮して何も言わなかった。


 中に入ると、何やらの施設の跡だったらしく、造りのしっかりした場所になっていた。幾部屋かでスケルトンに出くわし、退治した。
 「寺院風のつくりですね」
 シリルが言うのを聞いて、セインもヒューも納得する。宗教施設らしく、装飾のある壁面や像が何ヶ所かで確認できた。
 「では、祭壇なり、神殿なりがありそうなのかねぇ」
 ヒューにしてみれば、それだけでは面白くない。無論ベルもそうだ。
 先へ進んでゆくと、大きな両開きの扉に出くわした。
 「ここのようだな・・・」
 セインが言っている間に、ヒューは扉をチェックしている。ベルも周囲を調べている。二人の手際は見事なものだと感心したが、シリルはその様なそぶりはあまりない。
 (冒険者というより、お嬢様騎士に映るな)
 正直な感想だが、ヒューとは違って無用の乱は好まぬセインは何も言わない。もちろん、たった一度のことで決め付けるのは公正ではないとも思った結果だ。
ルーリエの方は位置取りを気にしている様子で、これは魔術師である以上は必須のことだ。
 「ん、何もないと思うが・・・」
 調べ終えたヒューはそう言うと、切り込める体勢を作る。
 「俺が開けよう」
 セインが扉の前に立ち、そっと押し開けた。
 中は予想通りの祭壇。石造りの台座などが見えたが、まずは目先の出来事に対応しなくてはならなかった。
 「厄介そうなのがいるじゃないか」
 「ワイトです!」
 彼らの視線の先には、腐りかかったような死体が立っていた。おぼろげな淡い光をまとっていて、いわゆるゾンビとは異なっていた。
 アンデッドモンスターといわれる不死の敵たちの中には、精気を吸い取り、体に与える傷とは関わりなく相手を死に至らしめるものがいる。そこまではいかなくても、精気を吸い取られると、魔法の使い手はその行使が難しくなってしまうのだ。
 「セインさん、剣に魔法をかけます。そうでなければ倒せないでしょう」
 ルーリエは詠唱を開始する。ワイトは魔法の産物であり、強力に魔法で保護されている。魔法の助けなくしては戦うことはできない。
 「しゃないなぁ・・・、俺は取り巻きでも狙うか・・・」
 ヒューは周りにいるスケルトンに手持ちのグレートシャムシールを抜いて切りかかる。
 シリルもそれに倣う。ベルはスローイング・ナイフを中距離から投げて二人を援護する。
 ワイトの先制攻撃を回避して、「魔力付加(エンチャント)」を受けたセインは、ワイトに一撃を加える。ルーリエは「力線(エナジー・ボルト)」を放つべく、次なる詠唱に入っている。「力線」は、4大属性とは無関係で、魔法を受け付ける多くの敵に有効な攻撃魔法である。
 ワイトの二撃目はセインをかすめ、セインの精気をわずかに奪う。
 (くぅっ・・・)
 魔法を使い慣れないセインには特異なダメージを受け、反応に戸惑う。このような相手はセインも初めてだ。しかしながら、体の動きには衰えはない。そのまま、交戦を続ける。
 「エナジー・ボルト!」
 詠唱を完成したルーリエが、「力線」をワイトに叩きつける。威力のほどは凄まじく、ワイトはその一撃で打ち倒された。
 まもなく、スケルトンも掃討された。


 「さすが魔法使い。頼りになるねぇ」
 ヒューはルーリエを褒め上げた。褒めるのはタダだ。
 早速彼とベルは祭壇を物色し、箱と祭壇の下に隠された階段を発見した。箱には起爆の罠があったが、ベルが解除して見せた。ヒュー曰く、「こんな古いのがちゃんと爆発するのかねぇ」だったが。
 「ほう、武装が一式入っているのか」
 そこにはトゥハンドソードとスモールシールドが入っていた。古いものであるのに朽ち果てていない様子からして、魔法の品だろう。
 「まずは収穫ね。セイン、持ってちょうだい」
 ベルは戦利品をセインに持たせると、自分は下への階段を下りる。
 下には小さな部屋があり、宝箱と思しき箱があった。
 「鍵、ねぇ」
 ヒューは盗賊道具を使って、手際よく開けてしまう。さりげなく見せるこうした技こそがスタア一家の証だと思っているのだ。
 「おおっ、なかなか」
 「結構ありそうね」
 中には旧時代の金貨があった。この金貨には文字などは刻印されておらず、由来なども明らかではない。純金であるので、その価値はラスター金貨の半分に相当する。
 「あと・・・、これはなんだ?」
 ヒューが掴み上げたのは、両手で持つほどの薄い石板だった。
 「これは・・・文字ではないかしら」
 ルーリエは表面の模様のようなものを見てそう指摘した。
 「文字?文字なのか?だとすると、大した発見になるぞ」
 ヒューがそう言ったのは、これまで正式な形で文字を発見した記録はないからだ。
 「文字がわかったら、何か見つかるかしら」
 トレジャーハンターとして、誰もが知らない何かを見つけたいベルは関心を示したが、ヒューとしてはあまり意味がないことだと思っている。しかしながら、ベルにはよい経験になるだろう、とは考えていた。
 「どこかの賢人が学者にでも見ていただくとよいのではないかしら」
 ルーリエも関心はあるようだ。
 「まぁ、持って帰るとしようか。使い道はそれから考えてもいい」
 この石板が彼らの行く道を決めてしまうことを、今は誰も知らない。


(第三章に続く)



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