【薔薇ノ木ニ初恋ノ花咲ク】     ・・・ 2006.8.5


「あんた・・・作家だったのか」

子供のように塀を跳び越えてついた先には一軒家。
通された土蔵には、たくさんの本が本棚には入りきらず、床にも山積みにされていた。
は躓かないように、そっと繁の後に続いて部屋の奥に入った。
小さな文机の上に、書きかけと思われし原稿用紙と万年筆が置かれている。

「まぁね。今、お茶を持って来させる」

「ん、ああ・・・その、お構いなく」

素っ気無く言うと、は改めて部屋の中を見渡した。
作家という職業が存在することはもちろん知っていたが、あまり身近ではないと思っていた。
文机の上に蝋燭。そういえば水川抱月の本の中にも、そんな文章があったような。
作家は皆、そういうものなのか、とは勝手に納得した。
すると繁は隣に腰をおろし、の顔を覗き込む。

「な、なんだ?」

「ん〜・・・そんなに、その瞳を見られるのが嫌かい?」

「・・・なんだいきなり」

「いや、綺麗だなと思ったからね。まぁ、幼い頃はよく虐められただろうねぇ。
 ぼくだってこの通りの外見だから、いろいろあったし。君も似たような経験したんじゃないかなぁって。ははは」

は思う。
繁が昔からこの人懐こい性格だとするならば、それは虐められはしたかも知れないが、すぐに打ち解けそうである。
その点、は昔から何でも根に持つ性格のため、一度吐かれた暴言を忘れることなど絶対に出来ないタチなのである。
例え言った本人が忘れていて、時が経ち、気さくに話しかけてこようともは完全無視なのだ。
そして余計にタチが悪いことに、は売られた喧嘩は基本的に買ってしまうのだ。
揉め事は面倒だと言いつつ、我慢が出来ない短気な性分と、無駄に高い自尊心のお陰でがいつも苦労したのは言うまでもない。

「俺は、綺麗だとか美人だとか、女のように言われるのが大嫌いなんだ」

吐き捨てるように言ったを、繁は珍しい虫を捕まえた少年のような目で、楽しげに見た。

「へぇ・・・そうなの」

少し声の調子が下がり、その蒼の瞳は剣呑な光を帯びた。

「当然だろう。俺はれっきとした男なんだ・・・」

自分で言って、あの晩、要と月村から受けた屈辱的な光景を思い出す。
全身が、かっと熱くなる。

「だったら、その長い髪を切ったらいいじゃない。少しは男らしく見えるかもよ?」

悪戯に微笑みながら繁が言う。

「少しは、だと・・・?」

ぎろりと睨むが、繁は少しも怯む様子なく話し始める。

「うん、少しはね。だってぼく、君を最初に見た時は男装の麗人かと思ったもの」

「・・・・な、ん・・・だとっ!?」

自分が女扱いされるのが嫌だと言ったばかりなのに、一体何のつもりだろうか。
あの時、少しでも自分の痛みがわかる男だと思ったのが間違いだった。
はそう思うと、すっくと立ち上がった。

「不愉快だ。失礼する」

「ふーん、逃げるんだ?」

「何!?」

「もっと骨のある子かと思ったのに。案外性根も女々しいんだね〜」

目を細め、口元ににひるな笑みをたたえ、あからさまに挑発する態度である。

「き・・・さま!!」

わなわなと身体全体が怒りに震えだす。一体何のつもりなのか。
気が付けば、繁の胸ぐらを掴んで押し倒していた。

「おやおや、短気だねぇ」

「俺を挑発してどういうつもりだ」

「へぇ、挑発ってわかっているのに、簡単に乗るんだ? そういう子を、単純って言うんだよ」

「・・・く」

そう言われてしまえば、二の句が次げない。

「君を、男にしてあげようか?」

にいっと笑って、内緒話をするような口調で繁が言った。

「・・・は? あんた、何言って・・・んっ!?」

その次は言葉にならなかった。
いつの間にか、細い腰に回っていた繁の手がをぐっと引き寄せ、
もう片方の手は顎を掴み上に向かされたかと思うと、次の瞬間には形の良い上品な唇に、自分のそれを吸われていた。

「ん〜っ!!」

目を見開き、抵抗しようと試みるが、繁はびくともしない。
その間も繁の舌は休むことなくの口腔内を優しく激しく犯していく。
下唇を強く吸われ、甘噛みされると、の身体が自然に跳ねた。

「ふーん、ここが弱点みたいだね」

随分と長い間唇を合わせていたような気がする。
ようやく解放された後の、繁の第一声がそれだった。
熱に浮かされてぼうっとしているの綺麗な唇にそっと触れながら言う。
そこは、繁にきつく吸われ甘噛みされていたせいで、普段より赤味が増している。
まるで熟れた果実のように、甘美な誘惑をしているようだ。

「あん・・・た、何するんだっ」

「言っただろう? 男にしてあげるって。君、男になりたくはないのかい?」

「俺は男だ!!」

「本当に?」

なんてやつだ!!一体全体、どういうつもりだ!! は憤慨する。
頬は紅潮し、上気した息はとても荒い。

「少しでも・・・」

「うん? 何か言ったかな?」

「ほんの少しでも、あんたが俺の痛みをわかる人間かも知れないって思った俺が馬鹿だった!
 離せ、俺は帰る。金輪際、俺の前に姿を見せるな!!」

「・・・そう」

明るい蒼の瞳が、目の前で軽蔑するような視線を投げかけてくる。

「な、なんだ、その目は・・・」

「いや、別に。ただ、自分が男だって言い張る割には、随分と腰抜けだなって思っただけさ。
 せっかくぼくが手伝ってあげるって言ってるのに。怖いんでしょ? いいよ。ほら、帰ったら?」

腰に回っていた手がするりと床に落ちた。
そしてようやく気付く。繁の手がすごく熱かったことに。

「もう一度言ってみろ。 ・・・腰抜けだと?」

「うん、何度でも言ってあげるけど? 君は、腰抜けだ。それに、女々しくて臆病者だね」

「!!!!!」

「もっと言ってあげようか?   え・・・?」

繁の言葉は、の唇に吸われた。先ほど繁にやられたように、舌を捻じ込んだ。
しかし如何せん不慣れなため、それはほんの数秒しか続かなかったが。
肩で息をする。

「ふふん、やっとその気になったな?」

してやったりという繁の顔。

「あんたを、黙らせるには・・・・はぁ、はぁ・・・これ、しか、ないと・・・はぁ、思った・・・だけだっ。 帰・・るっ」

「帰さないよ?」

低く言うと、繁は両手足での身体をがっちり固定し、密着させる。

「何をする!!」

「何って、決まってるじゃない。何度も言わせないで欲しいね。本当はぼくだって逆の方がいいんだから」

繁は器用に自分の右足をの足の間に割り込ませると、大事な場所をその太腿で様子を見るように優しく押し上げた。

「あぅっ・・・ひゃぁっ・・・!?」

「随分と可愛らしい声を出すじゃない。それに・・・」

「やめろっ!言うな!!」

上気した頬で、繁の言葉を遮る。言われなくてもわかっている。

「ふーん、ちゃんとわかってるんだ? さっきのキッスで、感じちゃったんだね?」

「違うっ」

「いいよ。させてあげる。逆がいいのなら、そっちでもいいけれど?
 どっちにしろ、君だってこのままじゃ帰るどころの話じゃないだろ?」

「何故そんな話になるんだ!あんた、一体俺に何をさせたい!?」

「嫌だなぁ、変に勘ぐって。ぼくはただ、君を立派な男の子にしてあげようとしているだけなのに」

楽しそうに目を細めて笑う。
の中で、何かが音を立てて弾けた気がした。

「・・・・・・・・・・・・・後悔、するなよ?」

その手を、繁の下腹部に伸ばす。
先ほど密着した時に気付いてはいたが、それは既に熱を持ち、硬くなっている。

「ふふ、お手並み拝見、お手並み拝見」

「くっ」

余裕の表情の繁を、何とか泣かせてやりたい。そして後悔させてやらねば、気が済まない。
繁の着物を完全に脱がせ、羞恥を煽る。
実際の経験はなかったが相手は自分と同じく男なのだ。どこをどうすればいいのかくらいは知っている。
それに有難いことにの敬愛する作家、水川抱月の著書にはエロティックな場面が多かった。
それで得た知識を、まさかこんな場面で使うことになるとは思いも寄らなかったが。
は、ゆっくりと繁のものを上下に扱く。

「優しくしてくれてるんだ?」

「酷くして泣かすのは簡単だからな」

「へぇ・・・そう。随分と余裕の発言だねぇ。見たところ、そんなに経験なさそうだけど・・・あ・・・っ」

繁が小さく呻いた。

「黙っていろ」

「非道いなぁ。そこは、男なら誰だって・・・あっ・・・・こらっ・・・ちょっ」

繁が言っている最中にも、は無表情に先端を指の腹で優しく擦ってやる。

「黙れというのが、わからないみたいだな」

「驚いた・・・君、結構、様になってるじゃない。上手上手」

「なっ!?」

は、むっとして繁を擦り上げる手を速めた。

「あ・・・・・・・・はぁ・・・・・」

「さっさと出せ」

「冷たい・・・言い方だねぇ・・・あ・・・く・・・・ぅっ!!!!」

ぴくんと跳ねて、繁はの手の中に、精を放った。
は、しばらく手にかかったその白い液体を眺めていたが、おもむろに繁の片足を自分の肩にかけた。

「え・・・? 君、本当にする気?」

「あそこまで馬鹿にされて、ここまでして、途中でやめる気などない」

つっと繁の秘部に押し当てた指を挿入していく。

「・・・あ・・・」

「俺が男だということを、証明してやる・・・っ」

繁のそこは、の細く長い指の根元まで飲み込んだ。
とりあえずは手当たり次第に動かしてみる。

「く・・・・あ、くん・・・・」

「なんだ」

「そこ・・・そこが・・・いい・・・」

途切れながらに、繁が言う。
は、言われたとおりの場所を優しく突いてやる。

「はぁ・・・はぁ・・・あっ」

徐々に強く。

「あっあっあっあっあっ 待っ・・・て・・・」

「断る」

更に強く突いた。面白いほど、繁の身体が跳ねる。
は心の中に、凶悪な悪魔が棲みついてしまったのではないかと思う。
この状況が、何故かとても楽しい。
一気に指を引き抜いた。また、繁の身体が跳ねる。
が下半身に身に付けていた服を全て脱ぐと、既に熟れたものが現れた。

「俺を女々しいと言ったこと、後悔させてやる。覚悟しろ」

随分と柔らかくなった繁のそこに、押し当て、一気に貫いた。



「・・・・・はぁっ・・・・アッ・・・・ぁっ!!」

話す時よりも、高い声で漏れた喘ぎは、のもの。
まさか、こんな感覚だとは思いもしなかった。

「後悔させ・・・るんじゃなかったの?」

あまりの強い刺激に、目を閉じてしまっていたが、うっすら目を開けると不適に笑った繁の顔があった。

「君が動かないのなら、ぼくが動くけどいいかな?」

と、了承を得る前に腰をゆっくりと動かす繁に、は慌てる。

「ま、待て・・・」

「待てと、言われてもねぇ? ぼくだって、結構焦らされてるわけだし?」

言いながらも、甘く揺れる繁の腰。

「ああ・・・はぁ・・・あっ んっ」

いつの間にか喘ぐのはの役になっていた。
きつく締め上げられる。

「ああああっっ」

その様子をしばらく楽しげに見ていた繁だったが、そのうち表情が少し厳しいものに変わる。
目の前で逃れられない快楽の虜になってしまった
それを待っていたかのように、繁は口を開いた。

「・・・ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」

何故だか妙に落ち着き払った声。

「君はもしかして、もう・・・写真を撮られてしまったの?」

・・・・え? の中で忘れかけていた、例の事件を思い出す。
そういえば、その件に関してこの男は、の中で花喰ヒ鳥を知る容疑者のうちの一人だったのだ。

「何・・・の話だ・・・」

「ふぅん、この状況でとぼけちゃうわけだ?」

ぎゅうっと締め付けられた。
眩暈が起きそうな、快感が全身を駆け巡り、そして痺れさせる。

「あーーーーーーっっあぁ・・・あっ はぁっ・・・んっくぅ・・・」

これは痛みに耐えるよりも、ずっと辛いのではないかとさえ思う。
はついに、自身を引き抜こうとした。
が、それは繁の両足に簡単に阻止されてしまった。
引き抜くぎりぎりのところから、再度突き入れる形になり、は声にならない悲鳴をあげる。

「っくぅ・・あっ・・・、流石に今のは効いた。確かに、してるのは君だけどね、どちらが優位な立場にいるかよく考えてごらん?」

「あっあっあっ」

強弱をつけて搾られ、脳天を貫かれるような快感に飲み込まれる。

「と、撮られた・・・・しゃ・・・しん、撮られ・・・たっ だ・・・から、もう・・・あああっっ」

これ以上締め上げられては・・・、考えられるありとあらゆる情けない自分の醜態を想像し、は白状した。
と、言うよりも、ほぼ無意識に口が動いたと言った方が正しかったかも知れない。
身体は達したくてたまらないのに、締め付ける強弱と速度が微妙にその時期を外している。

「そうか・・・・それじゃあ・・・やっぱりあれは君のことだったのか・・」

「な・・・に・・・?」

熱に浮かされた目で、繁を見れば、辛そうに目を伏せられた。
が、しばらくすると先ほどと変わらぬ、意地悪な瞳に戻り、再び腰を動かし始めた。

「ほら、そろそろ辛いだろう?」

もうだいぶ前から辛い!! はそう叫びたかったが、繁が腰を甘く揺すったので、思考が一気に吹き飛んでしまいそうになる。
だが、その思考の一片だけは離さない。

「さっき・・・の、話は・・・・あ・・っ あ、あ、待て、卑怯・・だっ・・あっ・・・・・っく、あああっっ!!」

最後は言葉にならなかった。何もかも、もうどうでもいい・・・かもしれない。
あの晩よりも、あの明け方よりも、ずっとずっと強い快楽。
目の前に火花が散るとは、まさにこのことだと思った。



「よく頑張ったね」

ぽんぽんと頭を軽く叩く繁は、初対面の時と似た柔和な雰囲気である。

「さっきの・・・」

言いかけると、そっと口付けされた。
やはりどこか辛そうな表情。

くん」

そういえば、いつから繁はのことをそう呼ぶようになっていただろう。
情事の最中からだろうか。 思い出してしまい、は顔から火が出そうだった。
せめてもの救いは例え身体だけであったとしても、自分がする方だったことである。

「ごめんね」

「今更謝られても仕方ない。そんなことよりも・・・」

花喰ヒ鳥・・・について聞こうと思ったが、繁があまりにも辛そうな瞳で曖昧に笑ったので、
は溜息をつきながら立ち上がった。
腰からじわりとくる感覚を精一杯無視して。

「・・・聞かないのかい?」

「気が削げた」

「ごめんね」

繁はもう一度謝った。
は何も言わず、踵を返した。



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