河崎 徹
河崎さんは、金沢近郊の医王山(いおうぜん)で、イワナやヤマメなどの養殖と、川魚料理の店「かわべ」をやっている、そろそろ落日間際の六十代。仕事より、魚釣りやら草野球やらにうつつを抜かし、店の方は、気が乗らないと勝手に閉めてしまうのが玉にキズ。(でも料理はウマイんだな)。いつもマイペース、ままよ気ままの行きあたりばったりエッセイからは、その人柄が伝わってきます。

第五十四回 「震災で思う事」

   「何んで」とくり返す
   幼さな児(ご)に
   涙する。


   友の死に
   泣きくずれる娘(こ)は
   厚化粧のままで。


   「しっかりしろ」
   どなるオヤジの
   目に涙。


   立ちつくす
   肩に手を置く
   見知らぬ人が。




   物言わず
   海に向かいし
   老いた漁師は
   裏切り者と
   言いたげに。


   「うそでしょう」
   「これが現実だ」
   どなり合う夫婦の側(そば)で
   誰れも黙して語らず。


   「夢ならば」と
   思う心の悲しさを
   知ってか、知らずか、
   海の青さよ。


   亡き我が子に
   立ちつくすその側で
   「生きろ」と呼ぶは
   茶髪の若者。


   (原発事故で立ち入り禁止地区)
   殺される
   牛を見送る
   飼い主は怒りをこめて
   「二度と牛に生れてくるな」と。


   他人(ヒト)の死に
   もらい泣きする我姿、
   「俺も齢(トシ)か」と、
   笑ってみせる。

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第五十回特別編 詩「今」