親子って、面白いほどに、そして悲しいほどに、似てしまう。
よく、「こんな点ばっかり取って来て! ちゃんと勉強しなさい!」とか「なにやってんの? そんな食べ方をして?!」と怒る親がいるけれど、あれは何を隠そう、自分の不勉強、自分の行儀の悪さがそっくりそのまま遺伝しているにほかならない。だから、自分で自分を叱っているようなもの、なのである。
それもこれも遺伝子の成せる業。しかし、DNAの威力もさることながら、同じ屋根の下でいっしょに暮らすということは、無意識のうちに、いろいろなことが投影してしまうらしい。「遺伝子」プラスこの「環境」のせいで、「種」は確実に受け継がれていくのだ。
ノーテンキな母親そっくりの愚息は、勉強嫌いのノーテンパーの高校生だ。
そして、この夏、ああ、またしても似てしまった…というある事実が明らかになった。それは、わたしに似て、ゴキブリが大の苦手、ということだ。
わたしは、虫も、鳥も、動物も、花も、木も、大好きだ。しかしゴキブリだけはダメ。あの油で黒く濡れたようなツヤツヤとした羽根を見るたび、ブルッときて、一瞬息が止まってしまう。別にキャーッとか悲鳴を挙げるわけではないけれど、いっとき硬直する母を見るともなく育った息子は、180センチにも達しようかとするデカイ図体にもかかわらず、ゴキブリを見るや、赤ん坊のように縮こまる。
ゴキブリは、「蒸し暑さ」と「夜」が大好きだ。寝苦しさに目が覚めて、深夜、水を飲みに台所に行くと、必ずゴキブリくんたちはシンクの周りで運動会よろしく楽しげに遊んでいらっしゃる。まるまると肥え、ヌメヌメとしたテカリのいいヤツは、恐くて、蛇口のそばへも寄れないことがある。
そんなにイヤなら殺せばいいのに…、と思うかもしれないが、スリッパでぶったたくとか、はたまた、ゴキブリ殺虫剤や“留守の間に煙で一掃!”といった科学の力を借りることは、うちではない。だって、たたいて潰れたあとの、ゴキブリの体液が飛び散った周辺を掃除することを考えただけでも鳥肌が立つし、薬品散布は、家族の健康への影響を考えたらどうしても使うことができない。
したがって、我が家の夏は、ひたすら、忍の一字でゴキブリと共存することになる。
夜型人間で、わたしよりもゴキブリにうんとご対面することが多い息子は、やけに最近、ゴキブリの生態に詳しくなった。朝、前夜くりひろげられたゴキブリとの顛末を話してくれることがあるのだが、それがけっこうに面白いのだ。
【愚息譚】
「おかん。昨日な、うす茶色の小さいゴキブリ、殺してん。まだ子どもやったと思う。そしたら、そいつの親みたいなでっかいゴキブリがスポンジ置き場の下から慌てて出て来てん。オレ、焦った。ゴキブリにも愛情って、あるんやな…」
「昨日、油もんなかったから、かわいそに。三角ゴミ箱にあった、サツマイモのシッポ、ボリボリって音立てて喰っとったぞ。ほんとに噛む音って、聞こえるげんぞ」
「ガス台の下に、ボスみたいなでっかいヤツが棲んどる。オレ、そいつにいつもにらまれる」
「ゴキブリのいい退治法、見つけた。おかんに教えてやるな。お湯をかけるんや。熱湯をかけたら、ゴキブリって卒倒すること、発見した。食器洗いの洗剤かけるより効くぞ。ピクリとも動かなくなるんや。でもそれはちょっとの間。すぐに息を吹き返すから、サッとビニールに入れて、外のどぶすに放して来るんや」
うーん。なかなか優しげであるぞよ、我が息子。息子と話ができただけでも、ゴキブリくんに感謝かな…。
朝に夕に、ひんやりとした透明な空気が張りつめる季節となった。ゴキブリくんたちとの夏も、もう終わりだ。

ゴキブリだけでなく、イモリにカメムシにハサミムシ、アリ…、そしてカマキリまで。
我が家にはたくさんの生き物が棲んでいる。
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