侵入者!? 6 〜夜〜 ルシファードが受け取った(というか押し付けられた)大量の品物の内容をチェックし、必要、不必要に分けた。 不必要な物は誰かに譲るか、質に入れるか、捨てるかになる。 ルシファードに対して誰が何を考えて渡したのか不明だが、バニー服だとか、猫耳だとかも混じっていた。 ルシファードに着ろということなのか、それとも彼女にでも着せて楽しめということなのか……。 それを見たルシファードとナルトは2人そろってドッと疲れを感じたのだった。 とりあえず、品物の整理も終わり就寝。 ルシファードの眠っている気配を確認し、ナルトはムクリとベッドから起き上がった。 暗部服に着替え、狐の面をつける。 その上で変化し、20歳前後に成長した姿が基本で多少の微調整を加えた姿になる。 施した微調整とは、ナルトの特徴である頬の痣を消し、瞳の色を青から緑に変えるというものだった。 瞳の色から、暗部のときのナルトは『ヒスイ』と呼ばれていた。 この姿が、ナルトが暗部として任務をこなすときの姿であった。 普通の忍者なら、命を懸ける状況でわざわざチャクラを消費してまで姿を偽るということはしない。 例え変化をしていても、戦いに集中して行けばいくほど変化した姿を維持するのは難しくなってくる。 チャクラを戦い以外のことに、回す余裕がなくなるのだ。 たとえできても、コントロールが面倒なため普通はやらない。 しかし“九尾憑きのうずまきナルト”が強いと公になるわけにはいかない。 そのため、ナルトは変化し、チャクラを少量とはいえ無駄に消費するという不利益を受け入れた上で、仮の姿で任務をこなしていた。 ナルトは任務中に変化の術を解除するような状況に陥ったことはない。 このことはどの任務においても、ナルトは余力をもって臨めているということの証明であり、ナルトの実力が桁違いであることを物語っている。 「さて、今日も任務に行くとするか」 ナルトは音もなく窓を開け、夜の暗闇の中に飛び出した。 今日の任務は、某大名の密書を奪取し、密書を持つ者を暗殺することで、ランクはS。 複数の上忍、暗部クラスの忍との衝突が予測されるため、ペア任務となった。 ナルトの実力なら1人でこなせないこともないが、ナルトを実の孫のように大切に思っている3代目火影が、ナルトを心配しサポートをつけたのだった。 はっきりいって、えこ贔屓。 (そういえば、今日のペアってだれだろう?ペア任務でも、どうせいつもほとんどオレ1人で任務を終わらせてて、ペアの意味がねえからじっちゃんに聞くの忘れてた) 任務スタート地点に向かいながらナルトはそう考えていた。 どうやら、3代目火影の気遣いはほとんど意味を成していないようだ。 ただナルトは、火影の行動は自分のことを心配してのものであることを理解しているので、ペアの人間を邪魔だとか、足手まといであると感じることが多くても、このことに関して3代目に文句を言うことはしていない。 集合地点に到着すると、ペアと思われる相手がすでに到着していた。 非常に慣れ親しんだチャクラの気配。 「よ、ヒスイ」 親しみを込めた声で名を呼ばれた。 「え、イルカ先生なの!?今日のペア!うわー、なんつー豪華な…。この任務相当金かかってるな」 イルカは昼間はアカデミーの教師や、任務依頼所の受付や事務業をこなし、万年中年と呼ばれていたりするが、実は暗部トップクラスの実力を持つ忍者だった。 ナルトと違って実力を隠そうと思って隠しているわけではないが、ゆったりのんびりな雰囲気のアカデミーの中でたえず気を張っているわけもなく、また何よりイルカは子供が好きで、子供に合わせて子供に好かれる―時にはドジをやったりする教師を自然体でやっているため、そんな実力を持つとは皆考えないのだ。 上忍試験を受ければ一回で間違いなく合格するだけの実力は持っているが、上忍になればAランク以上の任務に追われ、それまでのようにアカデミーの教師の仕事を続けるのが困難になるのは目に見えている。 子供たちと関わる時間が減少するのが嫌なため、あえて中忍のままでいるのだ。 しかし、イルカほどの実力を持った忍をアカデミーの教師だけにしておくのはもったいないということで、イルカは頼み込む3代目火影の願いを渋々受け入れ、アカデミーの仕事に支障がない範囲でなら暗部として依頼を受けることになったのだった。 イルカは暗部の中でも一般にはないことになっている第零班にナルトとともに籍を置いている。 この存在を知るものは暗部を束ねる火影のみ。 そうは言っても、任務をしていけばいつの間にかその存在は噂として一部の暗部や大名などの有力者に知られるようになった。 イルカは正体不明の忍、『闇』と呼ばれるようになり、車輪眼のカカシの実力も超えるのではないかと噂された。 闇という名の由来は、イルカが夜の闇の中でしか活動しないこと(昼間はアカデミーがあるため)、黒髪・黒目であったことによる。 「何でも俺とヒスイを名指しで指名したんだそうだ。」 「金ありあまってんのかねー。普通の暗部でも数人でこなせるだろうし、その方が経済的じゃん」 イルカの言葉に対して、ナルトは呆れた様子で返す。 「まあ、依頼主の財布の事情なんて、俺たちには関係ないか。イルカ先生、さっさと任務終わらせて帰ろうぜ」 「そうだな」 そう言ってナルトとイルカは目的地に移動を開始した。 (お、1km先に敵さん発見。…4人。こいつらが目的の物を持っていてくれたら楽なんだけどなー。お、後方から1人追加。) ナルトはイルカに向かって目で合図を送る。 イルカは頷くと後方援護に回る準備をする。 (やっぱりイルカ先生と一緒の任務ってやりやすい。アイコンタクトで理解し合えるし、後ろを安心して任せられるっていうのがいいよな。) まずナルトはわざと狙いをはずして手裏剣を投げた。 そうすれば、相手が警戒して臨戦態勢に入られるのはわかっているが、それが狙いでもあった。 敵を暗殺するだけなら、こちらの存在に気が付かない内に殺してしまったほうが都合はよいが、今回は密書の奪取が目的。 ご丁寧に防水加工なり、ケースに入っていればいいが、下手に密書を持っているやつを殺して、血で密書を汚すわけにはいかない。 狙いは、敵が警戒した瞬間、無意識に密書を持った奴を庇おうとする動きを見ること。 さらに密書を持つ奴が体の一部を庇おうとする仕草が見られればラッキー。 ―そこが目的の物がある場所だ。 最初の手裏剣による牽制で、ナルトの狙い通り密書を持っている奴を確認できた。 残念ながらどこに密書を隠し持っているのかまではわからなかったが。 その瞬間密書を持つ物を残して3人の忍が血の海に沈んだ。 ナルトが操る忍糸によって一瞬の内に切り刻まれたのだ。 敵が警戒をしようがしまいが、圧倒的な力の差の前には無力だった。 恐らく、死んだ忍達は何が起こったのか理解できぬままに人生を終えただろう。 そして、密書を持った目的の忍を地面に押さえつけ、気絶させる。 そしてゆっくりと密書を探す。 密書はまもなく発見できた。 「サヨナラ」 そう言って気絶している敵の忍の心臓にクナイを突き刺した。 殺すなら一瞬で。 痛みなんか感じないように圧倒的な力で。 それが、死んでいく者へのせめてもの情け。 そしてその場での最大級の優しさ。 イルカが倒した、後方に潜んでいた忍者ともに死体を始末する。 後は奪った密書を届け、報告書を提出すれば任務完了。 里への帰りはイルカとしゃべりながらゆっくり帰ることになった。 周りに人の気配がないのを確認した上に、簡単な結界を張って、お互いの声はお互いにしか届かないようにしながら。 「今日、お前の同居人と会ったぞ。面白い人だな」 「ルシファードさんから聞いたよ。手配犯捕まえて懸賞金もらったって。しかも、1日で2回も(笑)。イルカ先生受付やってたんだろ?」 「ああ、彼が帰った後、残党を全滅させたって聞いて驚いたよ。ナルト、気づいてるか?彼、忍者じゃないのは確かみたいだけど、何か、チャクラとは違う性質の力持ってるな。」 「もちろん気づいてるさ。だから、同居することにしたんだし。面白そうだろ?でも、ちょっと話しただけで気づいたイルカ先生もさすがだね。」 そう言ってナルトはいたずらっぽく笑う。 「お前ってやつは。いたずら好きなところはドベでも素でも一緒だな。やりすぎるなよ」 呆れた様子でイルカが返せば、 「大丈夫。今日の様子だと、俺が何か仕掛けなくても、勝手に色々しでかしてくれそうだし。トラブルメーカーだって本人が言ってたぜ?イルカ先生の方こそトラブルメーカーをスカウトしちゃって、明日から大変かもよ?」 「おいおい、怖いこと言うなよ。言霊ってあるだろ。悪いことは口に出さないほうがいいんだぞ」 「この場合、困るのはイルカ先生で、俺には被害ないし〜」 「言ったな、このやろ!」 イルカがナルトの頭をガシガシ撫ぜる。 「あはははは!」 素のままでもナルトが子供らしく笑うことができる相手。 イルカはそれができる、数少ない限られた人間の一人であった。 ナルトとイルカはふざけ合いながら里に帰還した。 「イルカ先生、あとは俺がやっとく。お疲れ!」 「お、サンキュー。お礼と言っちゃなんだが、明日一楽おごってやるよ。ルシファードさんと一緒に。ルシファードさんは俺から誘っとくから、下忍の任務終わったら依頼所に来いよ」 「了解!」 翌日、イルカは「仕事1日目から残業お疲れ様です」と言って、一楽のラーメンをおごるとルシファードを誘った。 イルカとルシファードは、昨夜の約束通りイルカに任務報告をしに来たナルトとともに、一楽に向かった。 ルシファードは、なんとラーメンは見るのも食べるのも初めてだということだった。 「ヌードルとかパスタなら知ってるんだけど。なんか種類いっぱいあるな、醤油、トンコツ、味噌に塩。あとはトッピングか?うわースゲー旨そうな匂い!」 とりあえず、ナルトオススメの味噌チャーシューをルシファードは注文した。 旨いと言って感動するルシファードを観察するのが、ナルトは面白かった。 「おやじ、コレはどうやって作るんだ?」「男前の兄ちゃん、そりゃー企業秘密ってもんよ」「そりゃそうか」と一楽のオヤジと会話を始めたり、麺やスープの素材を考え始めたり。 その考えを話して、オヤジにラーメン屋の素質があるな、兄ちゃん!と気に入られ意気投合したり。 さらにはその様子を見ていた他の客とも意気投合して、酒を奢ってもらったり……。 とりあえず、トッピングは別として、ルシファードは一楽に通い、スープの味を制覇することにした。 「味覚えて、あっちに帰ってからも自分で作って食べられるようにならねーとな」、と決意したためであった。 ルシファードが依頼所と一楽に顔を出すようになってから、双方ともに客が増えた。 一楽のほうは飲み友達なため男性が多めだが、依頼所は女性が多くなった。 依頼はペットやらアクセサリーを探すDランク任務が急増した。 リピーターも増加。 依頼所はもちろん急がしくなり、下忍の任務も増えた。 それもこれも、依頼主が『新入りの色男』に会うため、任務を無理やり持ち込むようになったためであった。 「しまった、トラブルにオレもしっかり巻き込まれた!」 いつかのイルカとの会話を思いだし、ナルトは嘆息したのだった。 |