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「……ル……ん……」
何かの声が聞こえる。
でも、その声は遠く曖昧で。
ああ、水を通しているような感じだな、とぼんやりと思う。
漂うような感覚。
流されている?
どこへ?
どこから?
「ナ……ト……あ……だよ……」
先程よりも声が近くなってきた。
声が聞こえる方を確認しようとする。
身体が鉛のように重い。
目を開いて、声が聞こえる方に顔を向けるだけ。
それだけのことにこんなに苦労したことがあっただろうか。
やっとの思いでうっすらと瞼を開いた。
暗い世界。
自分の周りはすべてがぼんやりとしていて、曖昧。
何も見えない。
「ナルト……あ……だよ。……て」
だんだんと近くなる声。
ナルト……自分の名前。
誰かが呼んでいる。
声が聞こえる方に視線を向ける。
光が見えた。
漂っていた身体が急上昇する。
覚醒。
「ナールトv朝だよ〜起・き・てvナルくーんvナルちゃーんv聞こえてる〜?」
聞こえていた声はこの声だったのか。
自分のことをこんなふざけた調子で呼ぶのはカカシしか覚えがないが、それとは違う。
聞き覚えがあるような、ないような、懐かしいような、そんな声。
「起きて」ということは眠っていたのか?
今までのは夢?
あれ?オレ丘で巻物読んでなかったか?
そんなことを一瞬考えて。
「うわ!?」
光の先に見えたものを見て驚いた。
自分の目と鼻の先ににっこり笑った人の顔があった。
そりゃあ、驚く。
「おはよ〜vナルトv
「オレ!?」
ナルトは自分に朝の挨拶してくる男の声を、驚きのあまり咄嗟に遮ってしまった。
にっこり笑った男の顔が自分の顔だったから。
いや、同じではないか。
でも、良く知っている。
執務室に飾られている自分と酷似している人物の写真。
その顔だ。
「よ、四代目火影…?」
ナルトが半ば無意識に呟いた。
「ん?ナルト?どうしたの?変な夢でも見たの?」
いや、もし夢を見ているのなら今だ、とナルトは思う。
軽く自分の頬をつねってみる。
……痛い。
夢じゃない!?
「ま、いいや。改めておはようv」
そう言って、四代目火影?がナルトの顔に顔を寄せた。
「うわっ!」
ナルトの額に四代目火影?の唇が触れそうになった瞬間、ナルトは咄嗟に目の前の人物を突き飛ばした。
突き飛ばした瞬間、ナルト自身もいやに寝心地がいいベッドを文字通り飛び出し、突き飛ばした男とはベッドを挟んだ反対側の床に着地した。
よもや突き飛ばされるとは予測していなかった男は、床に尻餅をついた。
その瞬間涙ぐみ、床に「の」の字を書き始めた。
威厳の欠片も見出せない姿である。
「ひどいよ!ナルくん!おはようのキスを嫌がるばかりか、パパを突き飛ばすなんて!」
男の言葉にナルトの思考はさらに混乱を極めた。
『パパ』だって!?
確かに生まれて生きている以上、自分にも父親はいる。
その父親は四代目火影だった男だ。
だがその父親は生まれたばかりの自分に九尾の狐を封印して、とうの昔に絶命している。
父親という存在が、ナルトの記憶上自分の近くにあったことは一度もなかった。
ごくり。
唾を飲み込む。
意を結して言葉を紡ぐ。
「あんた、四代目火影なのか?」
見た目は確かに四代目だ。
多少執務室で見た写真よりは年を経ているようだが。
だが、このしくしくと泣いている男が英雄と呼ばれ、他国からは黄色い閃光と呼ばれ恐れられた、あの四代目火影か?
……少し疑わしい気もする。
「ナルくん?今日は本当にどうしたんだい?当たり前でショ?僕はナルトのパパで四代目火影だよ。」
えぐえぐと涙を流しながら四代目火影だという男が、恨みがましそうな目をこちらに向けて言った。
「……ま、マジで……?」
って、ことは何ですか?
四代目はもうずっと昔に亡くなっているわけで。
つまり、目の前にいるこの人は幽霊というやつデスカ?
でもなんか、足もしっかり付いてるし、突き飛ばせたということはしっかり触れてるし……。
「えっと、四代目火影は20年以上前に九尾事件で亡くなってるはずなんだけど…?」
ナルトが恐る恐る尋ねる。
すると、四代目火影はスクッと立ち上がり、驚くべき速さで自分の元に来るとガシッと肩をつかんだ。
「勝手に殺さないでよ〜ナルく〜ん><」
とガシガシ肩を揺すられた。
揺すられながら、ああ!もう!何がどうなってんだってばよ〜!とナルトは泣きそうだった。
「あ。」
四代目の動きが止まり、今までとは打って変わって真面目な表情になる。
「君は、ナルト?」
問いかけに対し、ナルトはガシガシと揺すられた影響で少々クラクラしつつ頷いて答えた。
「ああ、やっとわかった。君は『ナルト』だけど、僕のナルくんとは違う『ナルト』なんだね。ナルト、君、僕の忍術書読んだでしょ?時空間忍術の書。」
どおりで、おかしいと思ったんだよね〜とすっかり腑に落ちたという様子の四代目が問いかける。
問いかけというよりも、確信に満ちた確認といった感じだが。
「ああ。読んだけど。……違う『ナルト』ってどういう意味?」
「やっぱりね。あの術はね、正しく組めばポイントと定めた場所に瞬間的に移動できるものなんだけど、一定の条件で違う効果が生まれる。パラレル・ワールドと言ったらいいのかな。似ているけど違う世界に飛ぶことができるんだ。」
「ぱ、パラレル・ワールドだって!?」
信じられないといった様子のナルト。
「ま、びっくりすると思うけど、そういうことだね。僕も昔はその術で色んな世界に遊びに行ったもんだよ。」
はははと笑う四代目。
話は長くなるだろうからと、ナルトを座布団を置いた床に座らせる。
「そんなフィクションじゃなきゃありえねえ話が現実にあるなんて…。ていうか、そんな気軽にあちこち行き来できていいのか…?」
「ま、現実にできちゃってるんだからいいんじゃない?にしても、あの術は僕にしか出来ないもんだと思ってたけど、ナルくんてば、さすが僕の息子!って、僕の息子じゃないかもしれないんだっけ」
「いや、オレの世界でも四代目火影はオレの父親だ。オレが生まれてすぐに死んでるから会ったことはないが……って、今さらな気がするけど、オレってば身長縮んでる!?」
ある意味、パラレル・ワールドに来たと知った時よりもショックなナルト。
同世代の仲間たちよりも少々成長が遅めで、身長が小さいのが実はコンプレックスだった。
思春期になって、ようやく身長が伸び、男としては長身とは言えないまでも175cmにまで成長したのに!
「そりゃあ、僕のナルくんはまだ7歳だからねvそりゃあちっちゃくて愛くるしいでショv」
「7歳!?」
そりゃあ、ちっちゃいはずだ。
って、問題はそこじゃなくて!
自分は現在21歳で、成長期も終わっちゃってる年なんですけど!?
「うん。ナルトが元の世界で何歳だろうが、違う世界に来た時はそこに在る自分の肉体に魂が宿るんだ。この世界だったら7歳の肉体だったわけだね。世界によってはもっと小さいときも、よぼよぼの老人のときもあるね。」
いやあ、老人になった時は大変だったなあ。と四代目は笑った。
「へえ……って!7歳のナルトの魂はどうなってるんだ!?大丈夫なのか!?」
自分が来てしまったせいで、元々の肉体の持ち主であるナルトに何かあっていいはずがない。
「今は肉体の奥底で眠っている状態かな。元に戻った後、『時間』の干渉が発生する。この世界にとって、違う世界からきた『自分』は異端なわけだからね。眠っているこの世界の自分を含め、自分が関わった人間に記憶の置換が行われたり、場合によってはリセットされる。そして何事もなかったように正しく再び時間が流れ始める。」
淡々と四代目が説明する。
何でもないことのように言っているが、その内容は想像を超えるものだ。
「……。なんかさ、都合良過ぎない?」
呆れた表情のナルト。
「ま、おかげであちこちを移動する僕らは助かるわけだよ。いくら自分と同じ魂にとはいえ、肉体の主導権を奪われて、気が付いたら知らない間に時間が経ってた、した覚えがないことをしたことになってる、なんていう目に遭わせるのは嫌だからね。」
どこか自嘲気味に四代目が言った。
人の人生を狂わせてしまうかもしれない恐怖。
狂わせてしまった恐怖。
消せない罪。
償いきれない罪。
これでも、この術の効果を知ってしまった当時は必死に研究したのだと話した。
「ところで、気になってるだろうけど、術の効力期間はね、わからない。」
にっこり笑って言う四代目火影。
「……へ?」
この世界に自分が及ぼす影響のことですっかり頭がいっぱいになり、自分のことは二の次になっていたナルトだったが、四代目の言葉を聞いて目が点になった。
「わからないって、どういうことだってばよっ!?自分が作った術だろ!?」
今、必死に研究したって言ったばかりだろう!?
四代目に詰め寄る。
「と言われてもねえ。このパラレル・ワールドに魂が移動する効果自体、元々の時空間忍術の効力から外れたものだし、はっきり言ってイレギュラーなんだよね。1日で戻ることもあれば、その世界での人生を終えてから戻ることもあったし。そこばかりはどうにも予測が付かなかったんだ。ま、安心していいよ。元の世界に帰ったとき、経過している時間は長くて数時間。ちょっと眠って変わった夢を見たような感覚だから」
「うーん。安心していいんだかなんだか…」
現実離れした話に、ナルトは眩暈を覚えずにはいられなかった。
「ま、あんまり深く考えずに違う世界を楽しんで行ったらいいさ。ナルトは運がいいよ。初めて来た世界がここだったんだから。ナルトには僕がいるからね。僕は君の父親であり、術の開発者だ。さ、すっかり長話しをしてしまったね。続きは朝食を摂ってからにしよう。」
1 絵と文
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更新が本当に遅くてごめんなさい!(土下座)
もはや誰も待っていないような気がしますが(爆)、
とりあえず逆行しました。
逆行と言うかパラレル・ワールド…。
全然違う?ダメ?
2005/8/12