―――――慟哭の獣――――



その攻撃は唐突だった。

「!!!?」

ナルトはふと首筋に粟立つような感覚を覚え、咄嗟にその場を飛びのいた。
その判断は正しかった。
たった今まで彼がいた場所を何かが超絶的なスピードで切り裂いたのだ。
猛烈な土煙が上がる。
もし飛び退いていなかったら今頃ナルトは真っ二つに切り裂かれていただろう。

「・・・・・誰だ!?」

暗殺者かと思い身構えた。
九尾の自分が火影候補に推されているのが気に入らない輩が多いことは知っている。
現に今までにも何度か襲われたことがあった。
一人で任務に当たっている今なら絶好の機会だろう。
しかし、この任務は綱手から急に押し付けられたものだ。
もし暗殺者ならどうやってこの任務のことを知ったのか?
その思考はやがて煙が晴れてくると中断された。

「・・・・・・!?」

すらりと伸びた4本の足。
3つに裂けた尾。
尖った鼻面と耳。
艶やかに光る白色の毛皮。
炎のような紅玉の瞳。

「き・・・・・つ、ね?」

そう、それは紛れもなく狐。
ナルトと同じ背丈ほどもある3つ尾の狐がじっと自分を見つめている。


「そう、狐よ」

その狐は静かに言葉を発した。
それは少し低めだが明らかに女性の声。

ツキン

(『も〜父上はあの仔達に甘すぎます!!』)

「あなたに封印されているのと同じくね」

「!?」

なぜこの狐は九尾のことを知っている?
それに今、頭の中で同じ声が全く違う調子で響いたような・・・

「自己紹介が遅れたわね。私は三尾の狐の葛葉。・・・・あなたの中にいる九尾は・・・私の父よ」

ツキン

(『ちちうえ〜v遊んで遊んで〜v』)

「きゅう、びの・・・」

声が掠れるのが自分でも分かる。

「ええ」

三尾の狐・・・葛葉とやらは静かに頷く。

「私は・・・・あなたに会いたくなかったんだけれどね。だけど、出会ってしまった以上、黙って帰すわけには行かないのよ」

「どうして!!」

「アンタを殺したら・・・父は帰ってくるかしら?」

「・・・・!」

ツキン

(『あ〜!!もう!!それは食べちゃダメって言ったデショ!?』)

その言葉を合図に葛葉は残像を残してナルトに飛び掛かってきた。
鋭い爪が襲い掛かってくる。
咄嗟に横っ飛びにかわしたが、葛葉の爪は見事に太い木をスッパリと切り倒していた。

(あんなの一発でもくらったら・・・・・)

終わりだ。
間違いなく。

ぞっとしながらナルトはクナイを取り出し、それに起爆札を巻きつけて放った。

「手裏剣影分身の術!!」

それは放った手裏剣を、無数に実体化させて影分裂させる術。
三代目が対大蛇丸戦の時にも使用した術である。
しかし。

鬼火球おにびだま!!」

葛葉の尻尾から生み出された青白い光球によって全てが叩き落された。

「・・・っく」

少々焦りながら次の手を考える。

手裏剣・・・・さっき効かない事が証明された。
体術・・・・獣のどこを攻撃するわけ?

(そうだ・・幻術で・・・)

少しは時間稼ぎになるだろう。
そう思い印を組んだのだが。

()っ!!」

体中に衝撃が走る。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、すぐに幻術返しが行われたのだという事に気づく。
だがにわかには信じ難い。
それというのも、他の妖怪のようにチャクラのうずを起こしてなぎ払ったのでもなく。
力任せに幻術を破ったのでもなく。

(尻尾にチャクラを溜めて・・・幻術返しの印を組んだ!?)

葛葉が使ったのは相当高等な部類に属する幻術返しである。
木の葉でも使えるのはその手の専門家であるサクラを筆頭とする極少数の忍だけだろう。
葛葉は手の代わりに尻尾で印を組んだので、所謂獣版の幻術返しといえるだろう。
しかし、動物の中でも結構術が使えるほうであるガマオヤビンですら、ここまで複雑な印は組めない。
驚愕に眼を見開いているナルトを眺めながら、葛葉は3本の尾を左右に波打たせ、どこか愉快そうに言った。
その眼は殺意に燃えたものだったが。

「・・悪いわね。私、妖狐族の中じゃ力ない方なんだけれど、細かい事と知識にだけは自信があんのよ」

でも。

(こいつ・・・すごく・・・悲しそうな瞳をしている・・・・)

その眼は・・・本当は殺したくないと訴えていた・・・

ツキン

「父の仇・・・・討たせてもらうわよ?」

瞬時に妖狐は距離を詰めてきた。
その攻撃は直撃したわけでもないが、完全にかわせたわけでもない。

「・・・っぐ」

肩口からわき腹にかけてが、ザックリと裂けていた。
思わずその痛みに顔を顰める。

ツキン

しかし、それよりも先程からずっと頭に響いている、痛みの方が気になって仕方が無かった。
しかし、その痛みを振り払うように、首を振り、

「俺を殺したところで九尾は生き返ったりしないぞ・・・・いや、俺が死んだら九尾も死ぬんだ・・・・」

別に命乞いをするつもりはなかったが・・・その悲しそうな・・・縋るような瞳が気になってしまい、思わず言ってしまった。


「知ってるわよ・・・・そんな事」

体に衝撃が走る。

「だけど、こうしないと父を解放できないから。」

鳩尾に体当たりを決められたのだ。
その打撃力は半端なものではない。

「父の望みが知りたかった」

そう言った葛葉の声は何処か・・・悲しそうな調子を含んでいた。
しかし、それよりも。

ツキン
ツキン
ツキン

「イ、タ イ・・・・」

鳩尾の痛みよりも。
肩口の痛みよりも。
ナルトは。

「ア、タマが・・・・」

先程からしていた頭痛がますます酷くなってきている。
もう、立っていることすらおぼつかない。
ナルトの体から紅いチャクラが吹き出す。
猛烈な砂埃が舞い上がる。

「!?」

『葛葉・・・・・』

(・・・・・!!この声・・・)

一度だけ聞いたことがあった。
初めての中忍試験中、自来也との修行の中で。
その声と共に、彼の脳に流れ込んできたのは。

九尾自身の。

悲しみと。

悔恨と憎悪と。

絶望と。

そして何よりも。

優しい記憶。

その後。

二人の間で。

どんな言葉が交わされ、

どんなやり取りがなされたのかは分からない。

唯一つ確かなこと。

数時間後にそこにあったのは。

呆然と立ちすくむ葛葉と。

涙と血を流しながら倒れているナルトだけだった---





* * * *

おまけSS

ボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンッ!!!

サスケ「うぉぉぉおぉぉ!?」←必死に爆発から逃げている

鈴鹿「火鞠:火薬とヨモギ、樟脳、松ヤニを固め、薄い紙を張って串に刺して干した物。
主に海賊が敵の船に火を付けるときに使った。
こういう風に連続して投げるとより一層効果的」

シカマル「お前・・・・マジでサスケの事嫌いなんだな〜」

鈴鹿「私が、というよりは筆者がですがね」

シカマル「と、いうと?」

鈴鹿「師匠のタケさんと同じで20巻あたりからうちは上忍の株は大暴落!加えて最近のジャンプを見ててプッツンしちゃったらしいです。」

シカマル「だよな〜。俺もあんなトコで死にたかねーもんな〜。」

鈴鹿「(しみじみと頷きながら)てゆーか死んだらこの話自体成立しませんもんね〜」

シカマル「俺はふつーに生きて、死ぬならカミさんが傍らにいるベッドで老衰死って決めてるからな〜」

鈴鹿「(顎をなでながら)随分年寄りくさい夢ですねぇ〜」

シカマル「ぐはぁ!!(胸を押さえながら)」

鈴鹿「(不思議そうに)?どうしたんですか?」

シカマル「お前・・・(グサッときたらしい)ホントーに毒舌家だな」

鈴鹿「ありがとうございます」

シカマル「褒めてねーし(ビシッ)」

鈴鹿「ところで今回は前回とは打って変わってシリアスですね」

シカマル「(ナチュラルに無視しやがった・・・)そうだな〜ところでこの葛葉って狐だよな?何で黄色じゃなくて白いんだ?」

鈴鹿「あ、それは筆者からの説明にもありますが、彼女はアルビノ種の狐らしいです。」

シカマル「アルビノ?」

鈴鹿「アルビノ:色素を持たず生まれてくる突然変異種、通例、通常種と比べると生命力に置いて劣る。でも妖狐ですから強いでしょ〜ね」

シカマル「妙に簡単な説明サンキュー」

鈴鹿「どういたしまして」

シカマル「(くるっ)ま、おバカな筆者だからいつまで掛かるかわかんね〜けど、どーか見捨てずにいてやってくれや。タケさん」

鈴鹿「次回!『その頃木の葉は?』をお楽しみに!!」





* * * * *

あとがき

あああああ、すいませんすいませんすいません(泣きながら平伏)
どうも押さえが利かなくなっちゃって・・・・
ネタバレもすいません。
ちなみに葛葉の名前は好きな昔話に出てくるキツネの名前です(あんまり関係ない)
こっからどんどんシリアスになっていくのでよろしくお願いします。



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KUROKUさんからいただきました!2話。
前回ナルトを見ていた人物は九尾の娘さんでしたか!
何だか事情がありそうな感じですね。
九尾との間で交わされた言葉が気になります。
そして、ナルトの頭痛。
子供の声。
気になる伏線がいっぱいですね。
続き、楽しみにしてますvv

そして、今回もありました。おまけ。
私、かなり楽しみにしてたりします。
サスケはいつものことですが、今回はシカマルが毒舌の被害者(笑)でしたね。

KUROKUさん、謝る理由がどこに?
面白いお話、ありがとうございました!
2004/3/6