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(C)2003
Somekawa & vafirs

『飯が美味い話』

吉村英之

金沢に帰って来て、1年が過ぎた。やっぱり金沢は飯が美味い。

個人情報保護の観点より詳細は控えるが、自分はある全国規模の職場で働いている。
言わば地方の営業所である金沢から、東海北陸地方を統括する、愛知県の支社へ転勤を打診されたのが5年前の春だった。
普通に考えれば『栄転』なのだが、実情を言うと、みんなのんびりした地方の職場から忙しい支社に行くのを嫌がって、仕方なくお鉢が回って来たと言うのが正解だった。
10人足らずの部署で、「アイツもコイツも嫌だって言ってなぁ、もうお前しかいないんだわ」と声をかけられたのが8番目。
どれだけの期待度か、よく判ると言うものである。
ただ、そこで「いや、アイツとかコイツが抜けたらウチの仕事が大打撃だわ……じゃ、誰が抜けるのが一番、今の職場で都合がいいやろか?」と考えた結果、 どう見ても自分が抜けるのが一番よかったので、泣く泣く転勤を引き受けた。

さて、愛知県。
仕事については、予想通りそれなりに忙しかったが、まぁ何とかした。
「交通事情がひどい」とは聞いていたが、それも間違っていなかった。
”ウィンカーを出さない”くらいは金沢でもよくあったが、自転車で左端走行していて、アウトインアウトで右折してくる車に正面から撥ねられかけたのは驚いた。
『直進優先』とか『歩行者優先』なんてのは机上の空論かと思ったが、どうもみんな『自分優先』の大前提で動いているらしいと判ってからは対応できるようになった。
『引いたら負け、轢いても負け』とは、向こうでの同僚の弁だった。

弱ったのが、食事。
決してマズイとか口にあわない訳ではないが、どうも住んでいた所の近所はハズレだったようで、サービス業でありそうな 『1000円の定食に手間をかけて1200円分の満足を』なんて事は考えず、『1000円の定食に800円以上手間かけたら儲けが無い』と言う理念の下、 商売をしているらしかった。
結果、どこで何を食べても『55点』。
20点なら「もう行かねぇ」と思えるし、80点なら「また行こう」と思えるのだが、55点だと「何か……こう……満足は出来ねぇんだけど、不味くはないし……」と、 釈然としない気分で帰路につき、また「他に店無ぇから仕方ないんだけど……」と言いながら食べに行き、やっぱり不完全燃焼で帰る4年間だった。

元々、貧乏舌にも関わらず割と食い意地がはっている方である。
本を読むにしても、開高健なら「オーパ!」、池波正太郎なら食べ物のエッセイ集、大藪晴彦だって銃器や女性描写よりもポンドステーキに目が行く性分だし、 最近よく見ているネット小説とかでも、気がつくと食事のシーンが上手いものばかり読んでいる (先日出版もされたが、『辺境の老騎士』というネット小説が素晴らしく美味そうでおススメする)。

そして、「もういい加減金沢帰してくださいよー」と言う願いが叶ったか、『やっぱこいつ使い物にならんわ』と諦められたのか、金沢に帰って来たのが1年前。
たまたま入った観光客目当てと思しき店で、また55点の食事にあたって愕然とした事もあったが、やはり地元の口に慣れた食事は美味い。
何時でも何処でも55点より、0点から100点の幅がある方が断然いい。
勿論、点数の低い店にはもう行かないだろうけど。

金沢に帰って来て、1年が過ぎた。
体重が10Kg増えた。
うん、やっぱり金沢は飯が美味い。

……晴れたらまた、自転車に乗る事にしよう。

TEAM ROBROY (前)東海支部長 記す

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