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(C)2003
Somekawa & vafirs

『単気筒ブルーズの巻』

ヤミヨのカラス

【ホンダXL250R】
我が愛馬“カラススペシャル”も既に10年が経ち、1年車検となってしまった。
当時は、まだ独身で福井県に住んでいたが、野々市の8号線沿いにあるバイクショップ“赤い男爵“で中古のバイクに買い換えることにした。
1990年初頭の話である。福島県郡山市で工学部の学生をやっていた頃に、モトクロスをやっていたダチがおり、下宿横を流れている阿武隈川の河原のモトクロスコースで遊んでいたことを思い出した。
“いっちょ!軽快に飛んでみっかぁ!”と目に留まったソイツに決めた。
ホンダモトクロスXL250R。色は黒とシルバーで渋く、カラス好み。
中古とは言え、クオータの単気筒はトルクフルなサウンドを出す。
モトクロス仕様に合わせてフルフェースのメットと、ひざ下までをガードするモトクロス用ブーツも合わせて購入。 服は何にしようかと考えた挙句、単なる思いつきで、ツナギを着ることとした。
大聖寺町にある、これまた国道8号線沿いの“職人の店“へ行きツナギを購入。心機一転。全身真っ赤の一品だ。
古さを出したくて漂白剤を使い風呂場で足ふみし“色落とし”に掛かったものの、さすが職人が着るツナギである。 何回漂白しても、さほど色は落ちず、新品のままのマッカッカであった。

【 いざ!博多へ!】
G.W3日前にバイクを受け取る。慣らしも兼ねて博多ドンタクを見に片道3日の単独ツーリングに出ることにした。 博多までの行程は片道約1,000km。なんの脈絡も計画性も無い思いつきだけのツーリングだ。
着古したイメージとは程遠い赤のツナギを着て金津インターから高速に入る。エンジンは快調だ。 手前を走っているローリー車の鏡面仕上げされたタンクに自分の姿を映し出してみるがやはり、どうもしっくり来ない。 滋賀県に入り彦根インターで休憩と決め込む。さすがG.W。ワンサカと人がいる。
“こんな時期はバイクに限るなぁ。でも、このツナギ、やっぱコッパズカシイぜ。”と、店に向かって歩いていると、どこからか、“だぁーっせぇー!!!”と言う大きな声が飛んできた。
当たりを見回しても大勢過ぎて誰が叫んだのか検討もつかない。しかもこの赤いツナギに対してでは無いかもしれない。。。。が。。。。その瞬間“これ、もう着るの、ヤァーめた!”と即決した。
店の手前でUターンしバイクに戻り縛り付けた荷物をほどき、トイレに直行。いつも着慣れた革ジャンとブルージーンズに着替える。
思いつきだけで決めた服は意地で着るモンでもないし、しかも精神衛生状態にも良くない。着慣れた服が一番だ。 したがって、漂白剤で必死に色落としに精を出した、そのツナギは1日と経たずして、荷物もカサバルことから、サービスエリアのゴミ箱に放り込んだ。

【トンネルだぁぁぁー!】
初日は兵庫県の相生市まで走り、飛び込みの宿で、二日目は山口県の入り口まで中国自動車道を横断し宿をとる計画を立てる。
翌朝6時に出発。バイクを見ると、エンジン下の路面にはエンジンオイルのシミが出来ていた。エンジンからのオイル漏れだ。 “このツーリングを終えたら一度見てもらおう“と、キック一発、単気筒の頼もしい振動。バッテリーはビンビンだ。
”全然、大丈夫!“と嬉しくなり、フルスロットルで浮き上がる前輪を押さえ込みながら発進する。
下道から中国自動車道に合流。西に向かうにつれ蛇行し険しくなっていく高速道を攻める。 このあたりの道は路側帯が極端に狭く照明の暗いトンネルが多い。今日はG.Wの間の平日で昨日に比べ乗用車よりトラックが多い。

30分も走ったろうか、高速で右に大きく曲がるトンネルに、さしかかる数十メートルほど手前で、短気筒の力強い振動とサウンドが。。。突然。。。消えた。
とっさにセンターラインから左の狭い路側帯で避難しようとした矢先、エンジンが一瞬、息を吹き返す。 “このまま、行こう”とトンネルに突っ込もうとしたとたん、数秒間回転したエンジンは“スカッ“という感触のあと、完全に動きを止めた。
メータが指し示していた時速120Kmからフロントブレーキで減速に入るものの、”アッ!“と言う間にバイクはトンネルに吸い込まれる。
次の瞬間、逆にこのスピードを利用してトンネルを抜ける必要があると判断し、クラッチを切りスピードを維持しようとするものの、メーターの針は見る見る落ちていく。。。。 追突を免れるため何とか壁側に避難した。
先ほどまで快調に飛ばしていたのが、今は、路側帯の無い急カーブのトンネルの中で、最悪の状況に陥ってしまった。

急な右カーブに続々侵入してくるトラックは、停車しているバイクが、いきなり目に飛び込んでくるためか、ドライバー達の驚きとともに、けたたましいクラクションを鳴らしながらスレスレに回避していく。
こちらは、クラクションを鳴らされ、トラックに跳ね飛ばされるドンゾコの恐怖の中、必死にキックを繰り返す。
何の反応も無いエンジンに対する焦りと車道に引き込まれそうな風圧の恐怖で、自ずとカラダとバイクは壁側に傾いていく。
挙句のハテに、バイクの左ミラーが壁に圧迫され音を立てて割れた。
”押して出よう!”   もう、それしかなかった。。。。

【生還】
トンネルは最後までカーブが続き、引っ切り無しに後ろから来るトラックの警笛と風圧で生きた心地はしない。
数キロほどあると思われたトンネルの出口が見えたときは、涙が出そうになった。
しかし、脱出は、できたものの、出口の回りは一面、山の斜面が続き、非常電話も見当たらず、あらためて愕然とする。 反対車線のトンネルは長さ560mと表示されている。今まで生きてきた中で一番長い560mだ。
息を吹き返さないバイクに途方に暮れていると、幸運にもハイウェイ警察が通りかかりJAFを呼び料金所まで運ぶよう連絡を取ってくれる。 インター出口で、バイクショップの店長から貰った名刺に電話をかけ、“死にかけた!“とサンザン文句を言ったところ、岡山市にあるチェーン店が無償で回収しに来てくれることとなった。
2時間後にトラックで来たメカニックは、エンジンオイルが漏れていることを確認し、キック一発かましただけで、オイル漏れによりシリンダーが焼付き、穴が開いた。
現場では修理不能。と判断。トラックにバイクを積み込み、更に2時間かけて移動した岡山市で幸運にもビジネスホテルが、とれた。
朝から水気を取っておらず、シャワー後のビールは、生きて生還できた安堵もあり、最高に美味かった。。。。 が、生き返った心地で今日を振り返ると、中古のバイクの調子も見ず、いきなり往復2,000kmのロングツーリングに出かけた小生の馬鹿さ加減に腹がたつ。
その後、ビールでは飽き足らず、買ってきたジムビームを1本空にし、酔い潰れてしまった。

【単気筒ブルーズ】
4気筒エンジンであれば、1気筒死んでも2気筒分のパワーで走行は可能だ。(生きている1気筒は死んだ1気筒と相殺される。2気筒エンジンでは、動くがスピードは出ない。)しかし単気筒では、全く救いようが無い。修理は部品手配から始めなければならず数週間掛かる
翌日、岡山支店から再度、電話交渉の末、バイクは金澤まで無料で陸送、修理してくれる事になり新幹線で帰ることとする。(電車代は、出なかった。)
その後、何回も治ったと言われて乗り回すものの、オイル漏れは完治せず、挙句の果てに2リットル入りエンジンオイル2缶を携帯しながら走る羽目となった。
そんなポンコツでも紀伊半島一周や福島ー山形をツーリングした。大阪のホテルでは敷地から追い出されて駐車したことも、あったなぁ。 なんとも若気の至りである。(30過ぎてたけど。。。)

『つけた、あだ名は”下血バイク”
悪魔がこいつにとりついた。
休むたびに血を注ぎ込む。
終わりを知らない単気筒ブルーズ』
いつか歌にしよう。

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