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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

通い猫

わが家にやってきた、といっても捨て猫であるが、そろそろ5年になる。
りっぱな雄のキジトラである。

ところで猫の歳というと、最初の一年で二十歳となり、その後は毎年4歳ずつ歳をとるのだそうである。
その計算でいくと二十歳プラス四歳×4年となるので36歳という事になる。
人間ならもう立派な責任ある社会人となるのであるが、そこは猫の事、仕事がある訳でもなく、責任など無い。
よく拾ってくれましたと、恩を感じる事もなく、また冗談でも人に媚を売る事もなく、飯くれニャ〜、おやつくれニャ〜、猫グサないぞうニャ〜、ウンチしたぞニャ〜、外へ連れて行けニャ〜とまあ、相変わらず一方的に何かを要求するだけである。
なんで分かるかというと、それぞれの配置があり、その前でニャ〜と鳴くのですぐ分かる。

ところで捨て猫でありながら、正式な誕生日がある。
なぜかというと、一年ぐらいして去勢手術をした。
僕が拾った日が6月18日、とよく覚えている。
その時の大きさから獣医さんに、「たぶん生後一カ月くらいだったのでは」と言ったところ「じゃあ5月18日生まれという事にしましょう」という事でメデタク5月18日が正式に誕生日となり、登録となったのである。
もっとも当の猫にとってはどうでもいいことではあるが。

ともあれ猫という動物は、基本的に自分の要求することが通ればそれでいいのである。
よくよく考えると人も同じであるが。
ただ違うのは、人は何かを得るには、それ相当に値する代価を考えねばならないが、猫にはそれはない。
たまに猫なりに代価のつもりか、甘えてサービスする猫もいるようだが、我が家の猫は、いやがりはしないが、さほど人を好きではないようである。
よく犬は人につき、猫は家につく、といったりするがこれもどうやらあやしい。
ある飼い猫が居なくなったとしよう。
ある日近所を散歩すると、ほんの数件離れた家で、平和に飼われていた。
といった事はそんなに珍しい話ではない。

その昔、アパートに住んでいた頃の事である。
夏はよく玄関を開けっ放しにしていた。
ある日ボーッとテレビを観ていると、何やらチリンチリンと音がしたかと思うと、一匹の猫が入ってきた。
そして僕の隣へペタンと座ると、なんとそのままくつろいでしまい、横で一緒にテレビを観ている。
明らかに飼い猫であり、猫の種類は分からないが綺麗な洋猫である。
それからちょこちょことやって来るようになった。
ふらっ〜と来ては、ふらっ〜と出ていくのである。
悪さする訳でもないし、特に餌を欲しがる訳でもない。
嫁さんは喜んでいる。
ともかく近所で見かけた事もないし、どこの猫か分からない。

それから何ヶ月か過ぎた。
相変わらず通ってくる。
ある日ピンポーンとチャイムが鳴り出てみると、若い女性が立っている。
その彼女曰く、「突然ぶしつけですが、お宅の猫を譲ってくれませんか」という。
話を聞いてみると近所の別なアパートの住民らしく、通い猫がいるとのことである。
ようするに我がアパートだけではなく彼女のアパートにも通っていたらしい。
で、彼女はその猫がわが家に入っていくところを見かけたとの事。
それで自分にも懐いているし、あまりに可愛いものだから、もしできる事なら譲ってもらえないものかと、おそるおそるやってきた、という事らしい。
僕たちもどこの猫か知らないし、事の事情を話した。
「そうでしたか」と彼女は半分笑いながらも落胆した様子で帰っていった。

可愛いがゆえに、だれにでも可愛がられるのだろう。
それだけに警戒心など一切ないのだろうが、しかし罪作りな猫である。
ひょっとしたら被害者?がまだ他にも居るのではないだろうか、と心配もしたくなる。
やがて冬になりその猫のために玄関を開けているわけにもいかず、いつしか来なくなった。
ひょっとしたらあの彼女は寒いのを我慢しながら入口のドアを開けているのではないかと、ちょっと思ってはみたが、寒くなったら当の猫の方が、出歩かなくなるだろうと思うので、余計な心配だろう。

それにしても猫は本当に、猫である。
とまあ何の説明になっていないが、猫は猫としか言いようがないのである。またそれでいいのである。
ちなみに猫が一番好きなものというと、自分自身が一番好きなのだそうである。

寝ている猫を見ながら、二十歳の息子が呟いた。
「なんでこの猫、飼わないかんのかなぁ〜」
それに嫁さんが猫を見ながら、
「猫はここにいるだけで、いいのよねぇ〜」 ・・・猫なで声で・・・
当の猫はというと、退屈そうに、ニャ〜と一声鳴いた。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。