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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

覚悟の酒

前回新年に向けてのつもりがいきなり「俺は酒で死ぬ」という男の話であった。
で、今回書くにあたって、さて何を書こう、と思っていると、また一つ思いだしたので書いてみよう。

その男は金沢にある薬科大学の学生であった。橋本という男であった。
とにかく酒が飲めた。
薬科大学だけに、実家は薬局を営っているとの事。
その酒好きの息子のために、毎月ビール券が送られてくるという、なんとも恵まれた男であった。
なんせ一人息子である。
大事にされる。
その頃はその彼に限らず、仲間と共に良く飲みに来てくれた。

ある日彼はひとりでやってきた。
仲間は後から来るという。
いつものようにビールを飲み、バーボンを飲っていると、やがて仲間もやってきた。
もうすでにかなり酔っているのだが、相変わらずグイグイと飲っている。
と、突然イスから転げ落ち、床へドターと倒れてしまった。
が誰も助けようとしない。
そのまま知らん顔である。
僕は思わず、 「ちょっと誰か起こしてあげたら?」というと「ほっといて下さい、いつもの事だから」という事であった。
実際その後何回かあった。
・・・何やら不自然な気もするが、そのままスースーと寝入っているので僕もほっとく事にした。
次にやってきたお客は、当然びっくりする。
あたりまえだ。
やがて一時間も経っただろうか、彼はむっくりと起き上がると、何事もなかったように「マスターもう一杯」となるのであった。
なるほど、すごい男である。
バスケット部の主将をしていた。

その大学の学園祭があり僕は嫁さんと出かけた。
とうぜんバスケット部として出店しており、テントの前でどかっと座り、ビールを飲っている。
僕が行くと「オーマスター」と言いながら後輩に向かって「ロブロイのマスターが来てくれたぞ、早よう持ってこんかい」
すると後輩は「何をですか?」「バカたれ、ビールに決まっとるやないか!ボケ」と怒鳴っている。
後輩はあわてて缶ビールを嫁さんの分と二本持ってくると、「オレのは!」といちいち怒っている男である。
とはいっても主将という立場、それなりでなければいけないのであろうが、そない怒らんでもよい。
だが、普段はというと結構関西出身ゆえのユーモアのある気のやさしい男であった。
それと立派な体の割には、何処か可愛いところがあるのである。
その彼の口癖が「一人息子はワガママやで〜」「一人息子はメロン一個、まるごと食えるんやで〜」であった。

その彼も卒業すると大阪の実家の薬局を継いだ。
その後何回か来てくれた。
十数年経っただろうか、人づてに相変わらず飲んでいるとの事。
それどころか医者に酒はきつく止められていたにも関わらず、飲み続けているとの事。
さすがに、親もなんとか飲むのを止めさせる努力をしたらしいが、そこは薬局。
最後は商品のエタノールまで手を付けていたらしい。
やがて訃報が届いた。

「俺は酒で死ぬ」と言っていたかは定かではないが、医者ではないにしろ薬剤師、りっぱな医療従事者である。
自分で分かっていたはずである。
覚悟しながら飲んでいたのでは、と思われるのは自然な事だ。
もう十数年前の事になる。
今回これを書くにあたり、その当時の仲間で、今も来てくれるK氏に聞いたところ、34〜5歳だったとの事であった。
早すぎる死である。

僕なども、主治医に言わせると、酒は「今の量の十分の一にしなさい」と言われるくらい毎日飲んでいるが、それとて血液検査したり、うんぬんでの事で、覚悟とは程遠いものである。
ただ、生きるためだけのために・生きたくない。
という、訳の分からない理屈がちょっとあるが・・・。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。