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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

勿体ない話

かなり昔の話になるが、当時五十代くらいのあるお客様がいた。

ある日その人はしみじみと言う。
「最近物忘れがひどくてなあ〜」・・・
続けて言う。
いつものようにシコタマ飲み、我が家に帰ったとの事。
次の日の朝の事である。
彼の嫁さんが、「あなた腹巻きはどうしたの?」という。
気づくと付けているはずの腹巻きがない。
こんなはずは???
ところで昔は毛糸の腹巻きを付けて(着る?)人が結構いた。
事実僕も付けている時があった。(サラシの人もいたが)
また小さい子どもには「腹が冷えるといけない」という事でパジャマの上から腹巻きを付けていたものである。
この頃あまり聞かないが。

話をもどそう。
嫁さんに言われ「ドキッ」とする・・・心当たりがない。
思い出せない。
家の中をそれぞれに探してみるが、見当たらない。
これは実に弱った・・・。
腹巻きという事は下着の部類になる。
飲んで帰る間のどこかで忘れてきた、という事になる。
たとえば上着だと何処かの店で脱ぎ、そのまま忘れてきたのかもしれないし、またタクシーの中かもしれない。
が、上着ではない、下着である。
それに財布をみてみると、あったはずの数万円が無くなっている。
とするとある程度の想像はつく。
若い彼女のアパートに行った訳ではないし、またそういう環境はないとの事。

想像するに、我が店からの帰り、どこかで、何かに、誰かに呼び込まれ、そして上着も脱ぎ、腹巻きもとり、そのまた下着も脱いだ。という事になる。
そして何か分からないが、その「事」に至ったのであろう。
やがてスッキリしたところで下着を付け、ズボン、シャツ上着も着た。
そして財布より気前よく万札を全部差し出し、機嫌良く帰って眠りに就いた、のである。

と、彼の意見。
また僕も同意見であった。
ともあれ「いい事」をしたのでメデタシ・メデタシ、といきたいところである。
が、ただ腹巻きだけが無かったのである。
こ、これは嫁さんには言える事ではない。
取りあえずサウナに忘れてきた。
という事でまずは治まったようである。
がしかし、どうもすっきりしないという。
一切覚えていないという事にもすっきりしないし、消えた万札は諦めるとしても、何よりその「いい事」をしたはずの値が(意識)が全くない。
こんな悔しく、情けなく、かつ勿体ない事はない、という事だった。
なるほど、結論は「勿体ない」に尽きるようだが、ま、素直な気持ちだろう。
なんせ(いい事)をしたはずが、全く記憶にないのだから。

むかしある男とスキー帽を買いに行った時、なかなか僕の頭に合う帽子が無い。
みんな大きい。
そこでその男曰く「お前の頭、脳みそ入ってないのじゃないか」と言った。
ちょっとくらいあるわいと、と僕は反発してみたが、あまり自信がない。
頭の小さい、人より脳みその少ない僕も50代も過ぎ、ますます物忘れが激しくなった。
どなたかがボトルキープされたとする。
たまに名前を控えるのを忘れたりすると、次の日そのボトルを見て、確かにボトルキープしていただいた記憶があるが、名前が浮かんでこない。
四苦八苦して流れのきっかけを探し、なんとか思い出す、といった風である。
対して忙しくない店のくせして、情けない話である。

ところで先の「勿体ない」話の人であるが、もう何年もお会いしておらず、おそらく今80代だと思われるが、ロブロイというバーでしたたか飲んでいた時代の事、 勿体ない話の事、覚えておられるだろうか?。
お会いしたいものである。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。