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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

退院して思う事(小さな花と雲)

さて、久しぶりの<主のひとり事>である。
というのは5月・6月と入院しており、それよりズルズル・ダラダラと今まで書く気になれず、今まで休んでしまった。
という事で今回はやっぱりその話になる。

4月は中頃になり、なにやら身体がだるくなり、同時に息がしづらくなりゼーゼーとなった。
近くの内科へ行くと「肺炎ですねえー」と言われ抗生物質を頂いた。
3〜4日経ったがなんら変わる気配がない。
おかしい?
そこで過去に入院経験がある中規模の病院で診察してもらうと「肺に水が溜まっています・すぐ入院してください」となった。
写真を見ると、なるほど左肺が真っ白である。
水が満タン状態らしい。
ガソリンタンクの満タンなら喜ばしい事だが、肺に満タンは実に宜しくないそうである。
そんな事は分かる。
なんせ息が出来ないのだから。

さあ入院となり治療が始まった。
まずは水を抜かなければならない。
左肺ゆえ、左わき腹から直径5ミリくらいの管をブスッと差し込んだと思うと、そのまま肺までブスブスブスーッと刺し込んで行く。
麻酔しているので痛くはないとはいえ、気持ちのいい治療ではない。
この時代もっと科学的、たとえば薬で、スーーと水を引かせるような物・・・はないらしい。
ともかく差し込んだ途端、管を通して水が勢いよく出てくる。
もし「肺にソーメンでも入れようものなら、流しソーメンが出来そう」とは、退院時の案内のハガキに書いた。
それにしても、水が溜まっているのなら竹の筒でも差し込んでしまえ、と同じで、実に乱暴な治療である。
で、水が抜けたら、それも出来たらほんの数日で、と思ったのであるがそんなに甘くはなく、それは綺麗な水状態ではなく「膿」らしく、 ようするに肺が膿で埋まっている状態なんだそうで、そう簡単にはその汚れた水は引いてくれないのである。

それからというもの、膿を受け止める容器を常に持ち歩き、抗生物質を点滴しながら、かつ管のせいで寝返りも打てないまま一か月チョイ、そこそこの厳しい入院期間である。
ついでに抗生物質の副作用らしく、口びるや舌がヒドイ口内炎になり、思うように食事が取れない。
もともとやせ細っている僕である。
胃などとうになく、食の細いところへ口内炎とくると、もはや悲惨というか、たとえば一日病院食の献立の中の一品、味噌汁・ソーメン・ウドン・何だかのスープ、くらいしか食べれない。
とにかくどれも献立の中の一品であるから、量はすこぶる少ない。
これが何日も続いた。
いくら寝たキリとはいえ、こんなもので生きられるはずはなく、とうぜん元々少ない体重がいよいよ減って来る。
退院する頃には・・・もはや可哀そうな僕、となっていた。
都合二か月の入院であったが、もう一か月も入院していると間違いなく僕は栄養失調で死んでいたはずである。
(ダイエットしたい方は、肺に水を溜めましょう、確実に痩せられます)

ところで日々の点滴であるが、他に一週間に一度くらい採血もある。
僕は身体も細いが、血管も細いらしく、よく失敗されたがこれには参った。
一回で済む事はほとんどなく、二回三回が普通であった。

ある朝「染川さん、採血です」と新人の看護師。
さて、チクッとします。
で始まるがまず一回目不成功。
二回目「すみません」と言いながらまたもや失敗。
「ごめんなさーい」と言いながら三回目・・も失敗してしまった。
「ほんとにすみません、他の人に変わってもらいます」となり先輩看護師に。
さすが先輩一回で成功となった。
やれやれである。
ところがその日これでは終わらず、次は点滴用の針となった。

まず一人目当たり前のように二回失敗し、選手交代となった。
二人目もやっぱり二回で断念。
三人目はというと、これまた二回目とも不成功であった。
で、次呼ばれたのが先の採血の応援の看護師が「染川さん、また呼ばれました」と言いながら始まった。
が一回目失敗。
アレーッと言いながらも何とか二回目で成功したのである。
なぜか一斉にフーッ。
周りの看護師は、さも自分が成功したようにホッとしたようであった。
ともかくヤレヤレであるが、当の僕はこれをどう捉えたらいいのだろう。
これといった言葉がみつからない。

すべて右手であったが、さて何回注射針を僕は刺されたのでしょうか?
難しい計算ではない。
採血に四回。
点滴に八回。
都合十二回となる。
本来二回で済むところを十二回打たれた事になる。
という事でそれ以来、僕は大概の事は辛抱できるようになり、ひとつ成長させてもらった。
これは良かった、と、そういう事にしておこう。

いずれにしろ看護師さん達の名誉のために、これは僕の血管が細いためであり、ホントに色々と、またやさしく丁寧に世話をしてくださった看護師さん達には感謝している。
書けばキリが無いのでこの辺でやめるが、退院してそろそろ三か月は経とうとしている。
しかしまだまだ元の状態には程遠く、フウフウいいながらカウンターに立っている。
ウイスキー片手に・・・。

退院して思う。
道を歩いていてふと地面に目をやると、名も知らない小さな花が咲いていたり。
また空を見上げると、真っ白い雲が元気に泳いでいる。
意味もなく、ちょっと幸せな気分になる。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。