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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

酒場のお話

飲み屋を初めて30数年、まあお客の少ない店がよう今まで営ってこれたなぁ〜、と思いつつ、やっぱり飲み屋(酒)が好きだからなあー、 と意味もなく自分で納得している「平和なバカ」がここに居るのである。
そのバカも含め、そこへ集ってくる有難いお客様、総じて僕は「酒場人」(さかばびと)と呼んでいる。
さかばびと・・いい響きだ。
その酒場人であるが、それなりに年数経つと、酒場には色々な人がやってくる。
昔話になるが、思いつくまま幾つか書いてみよう。

我が店はビルの二階にあるが、ビルと言っても二階は我が店のみである。
それもカウンター12席しかない小さなBAR、そのビルの大きさ(小ささ)が想像できるかと思う。
当然階段を上がる音がよく聞こえる。

ある日ドタドタドターッと元気に階段を上がる音がする。
ドアが開いたと同時に「もう〜いらん、もう飲めんぞ」と言いつつカウンターへ倒れ込むようにドタッーと座る。
酒場へ来て「もう〜いらん」と言いながらやって来る人も珍しい。
もちろん酔っているのであるが、しかしこれは「いつもの台詞」なのである。
もう飲めんぞと言いながら「バーボンくれー」となり「オメーも飲めい」となる。
もう飲めん、といいながら結局一杯が二杯になり、三杯が・・となるのである。
ともかく言葉も飲み方もえらく威勢がいいのであるが、実はまだ二十代の後半、嫁入り前の女性なのである。
「飲むとこうなるんじゃ〜」とは本人の弁だが、素面の状態を僕は知らない。 がどちらかというと美人の部類に入る彼女、信じる事にしよう。

その後何年か経ち、県外へ嫁いでいったが、この土地を離れる前に来てくれた。
いつものように「もう飲めん」で始まったが、何杯か飲むと帰りのドアに向かいながら言った「マスター、ご馳走さまでした」と、 何ともしとやかな言葉遣い、僕はビックリすると、彼女は笑いながら「もう来んぞ」と言って階段を下りて行った。
が何年か経ち結婚相手と一緒に来てくれた。
その旦那へ向かって「オメーも飲め」、そして僕の方を向き「オメーも飲め」となったが旦那はというと、ニコニコしながら「ハイご馳走さまです」と言いながら、 どうやら威勢のいい彼女より、もっと酒は飲めそうである。
僕は何故かほっとした。そしていい夫婦の姿があった。

またまたある日、階段を静かに上がる音がするとドアが開いた。
歳の頃なら30になっているのだろうか、痩せた男が立っている。
ドアはあけたが中へは入っては来ない。
しかし、何やら切羽詰まった顔。
体も何やら震えているようである。
そして半分泣きながら言った言葉が「お酒をください」であった。
ここは酒場、酒を出すのが仕事であるが何か様子がおかしい。
そして次の言葉が「お金は無いんです〜」とまた泣きながら言った。
その時常連のお客様が一人いたのであるが、びっくりした目で僕を見る。
めったにある事ではない、当然だ。
もう説明する必要はないだろう。
酒による中毒。
金はないが体が要求する。
もう何軒か店を回ってきたのだろう。
でもどの店も相手にしなかった。
僕はジンをオンザロック・グラスに八分目ほど入れ差し出すと、両手でグラスを包むようにして持ち、一気にゴクゴク・ゴクーッと飲み干した。
そしてグラスをカウンターに置き、涙を浮かべた目で僕の方へ「ありがとう〜」と言いながら、逃げるように階段を下りて行った。
その間ドアは空けっぱなしであった。
先に居た常連と目を合わしながら出てきた言葉は「う〜ん」であった。
しばらくしてその彼は「う〜ん、今日は帰るわー」と言ってドアの方へ向かった。

今度は今も飲みに来てくれているお客、仮に「K氏」としておこう。
何年か前の事、その年はいつになく厳しい冬であった。
その日も店の前の道路はテカテカに凍りついており、油断するとツルリンとひっくり返る。
その日もK氏はいつものようにバーボンを飲っている。
結構飲める方である。
深夜は午前零時を回っただろうか、ほどよく酔ったと見え「また来るわ〜」と言って帰っていった。
それからほんの五分も経っただろうかドアが開くとそこになんと、顔中血だらけの男が立っていたのである。
K氏である。
他にいた二人のお客も「オオーッ」と引いてしまった。
当然だ、シャレではない。
当の本人はというと意外とケロッと「こけてしもた」と言った。
自分で顔の血みどろの状態をよく気が付いていないらしい。
とにかくまず血を拭こう、タオルを水で濡らし顔をそーっと拭くと傷口が見えてきた。
額を二か所切っている。
ただ思ったほどひどくはない。
酔っているから血が噴き出しやすいのだろう。
本人もタオルに付いた血の量をみて初めて気づいたようである。
何回かタオルを洗いなんとか元の顔?にもどり、広めの傷バンを二か所に貼った。
ふとそこで携帯が無い事に気づき、一緒に転んだ場所に言ってみたが、当然のようにそこにはなかった。
店に戻りそれなりに手続きをとったのはいうまでもない。

という事でまだまだあるのだが、またいつか書くとして、しかし次は「アル中」の話とか「顔中血みどろ」の話ではなく、綺麗でハッピーな話を書こうと思う。

皆さま、酒はほどほどにして、雨の日、雪の日は足元に十分気を付けてお帰り下さい。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。