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(C)2003
Somekawa & vafirs

金沢 BAR <主のひとり言>

卵かけご飯

多少重複するが、前回一本135万円という70年物のスコッチのシングルモルトウィスキーが発売された、という話を書いた。
54本限定という事であった。
単純計算で、一杯辺りの原価は56000円となり、商売としてお客様に提供したとすると、かなりサービスしたとしても(シングル)一杯7万円から8万円という事になる。そうおいそれとは飲めない。 ひとケタ違うが、過去に我が店に一本12万円というシングルモルトが入荷した事があった。
それでもシングル一杯5000円の原価ということになり、大サービスで一杯6000円でお出しした。
一本で約24杯(=24人)しか飲めない。当然すぐなくなった。
ここまでではないが、今回もちょっと楽しい話である。

先日かなり久しぶりとなる男性が来られた。
年の頃なら40代の半ばといったところ。
女性を伴っている。飲み仲間とのこと。女性は初めてのお客様である。
年齢はというと、これは失礼なこと。男性より若い事は確かだ。

ところで飲み仲間というと、男性であれ、女性であれなんとなく同性をイメージするだけに男女で飲み仲間とは、ちょっとオシャレで、ちょっと粋な気がする。
もちろん大人同士でなければいけない。いずれにしろ、いいものだ。
最近シングルモルトに興味を持ち、家でも何がし買ってきては飲んでいるそうである。
横の女性にも勧めながら、ハイランド・パークのカスク、アイラはラガブーリン他、ゆ〜たりと口に運んでいる。
女性は勧められるまま「どれも、美味し〜い・・・」と言いながら、本当においしそうに、そして幸せそうに、飲みほしている。
僕などもそうであるが、本当に美味しい酒に出会うと、酒の分析などどうでもよく、ただ「酒が好きでよかった〜」と思うと同時に、実に素直に“幸せな気持ち”になれるものである。
それぞれ何杯目かを飲み干し「ご馳走さま」と、満足げに帰って行かれた。

それから3〜4日も経ったろうか、その女性がひょこっと、今度はひとりで来られた。
椅子に掛けると、何かシングルモルトを下さい、と言いつつ真っ赤な重厚そうな紙袋を差し出し「先日本当にお酒を美味しく頂きました。何かお礼をしたくて」ということだった。
僕はちょっと困ってしまった。会話しながら何がしかのお酒を出しただけで、特にサービスしたわけでもなく、通常通りの仕事をさせてもらっただけである。
「どうぞ受け取ってください」の言葉に僕は恐縮しながら、素直に頂くことにした。
僕は女性の前で失礼ながら真っ赤な箱に目をやると、同時に彼女はあっさり「卵です」と言った。
見るとどうやら烏骨鶏(ウコッケイ)の卵のようである。
僕は「これは貴重なものを、明日は卵かけご飯に決まりですねえ〜」と言いつつカウンターの中へしまった。
彼女は3杯も飲むと「ご馳走さま」といって帰って行った。
僕はいつもより、より心をこめて“有り難うございました”と言った事は言うまでもない。

次の日になり嫁さんにその話をしながら、しっかり梱包された箱を開けてみると茶色い、ちょっと小さめの卵が6個入っていた。
「あらまあ、珍しいものを頂いたのね」と言いつつ、次に「たかいのじゃないの?」となる。
実際よく知っているようで、結構高いという意識があり、現実に嫁さんも僕も食べた事はない。
そこで貧乏人の悲しいサガである。醜く、いやしくもネットで値段を調べてみることになった。
もともと服など買うとしよう。金持ちはデザインで選び、その後値段をみる。もしくは値段など気にしない。が僕のような貧乏人は先に値段を確認してからデザイン、となる。
最近はユニクロなど、実に重宝している。この際シマムラも利用しよう。
さて烏骨鶏の卵であるが一個500円(包装・袋別)となっている。
冒頭の一杯56000円とか、5000円などと比較すると、まあ500円である。が、通常スーパーの安売り、1パック10個入り100円(1個10円)を食べている我が身としては1個500円はそのまま50倍という事になる。
1個の大きさまで計算に入れると、もっと差が開く。
昔一回り小さい軍鶏(シャモ)を飼っていたが当然卵も小さい。
烏骨鶏も同様、通常の鶏の卵の半分強だろうか。
説明書きに目をやると、年間1羽40個くらいしか生まないらしい。通常は年間300個くらいは生むらしいので、その分小さい中にうんと凝縮されるのであろう。
むかしクイズ番組で鶏はおおよそ年間にどのぐらいの数を生むか・・・?とあったが、最高でも365個だそうである。要するに1日に1個以上は産めないらしい。

さてせっかくだから炊きたての御飯を用意してくれた。
割って器に落としてみると、全体にプリン、という感じである。黄身の色も間違いなく濃い。
色に例えると、通常夏ミカンくらいの色だとすると、オレンジくらいの色だろうか、ちょっと濃い。
黄身を箸でつまんでみる。放し飼いで自然に育て、生まれた卵がそうであるように、黄身を箸でつまんで持ち上げてみる。
嫁さんと「ホホゥ〜」と思わず口に出る。
余計な事はしない、醤油を少したらし軽く混ぜ、アツアツの御飯にかけよく混ぜるとほど良いネバリが出てくる。
さて口に運んでみると確かにウマイ。
卵独特の生臭さがなく、黄身の香りが実によい。
嫁さんもウンウンとうなずいている。ひょっとしてミツバチが寄ってくるのではないか、と思うぐらいいい香りがしている。
僕も嫁さんも食べ終わり、共通した言葉が「次も食べたい」という事であった。
6個入りである。オヤジの特権で2個食べた。美味かった。

それからしばらくしてスーパーの卵売り場に行った。
いつもは買わない、そこにある一番値段の高い、といっても6個入り300円(1個50円)だったが、買ってきた。
またアツアツの御飯にかけてみる。
白身の部分が大きく、ちょっとダブダブした感があるが、もちろん美味しい。が、比べるものではない。

我が家では、ふだん卵かけご飯を食べる習慣はなく、それだけに久しぶりに新鮮な気持ちにさせられた。
聞くと卵かけご飯がちょっとしたブームだとか。
子供たちも含め、これから我が家の食卓にも、アツアツ御飯と生卵と醤油が出てきそう。
幸せがちょっと増えるかもしれない。

まだお名前も伺っていない彼女に、またまた感謝である。

<主のひとり言>  毎・月半ば更新いたします。