詩人シュトルムの生涯と文学(紹介)

 テーオドール・シュトルムTheodor Stormは1817年9月14日北海沿岸の北ドイツの小都フーズム Husumに生まれました。生涯,弁護士・裁判官として市民的な職業を全うしながらもっぱら抒情詩と短編小説の形式により,19世紀の近代化しつつある市民社会に生きる人々の人生,愛 と死,喜びと悲しみをロマン主義的・抒情的トーンを基調とした写実的手法で描きました。シュトルムはいわゆる「回想形式」を好みましたが,その親しみのこもった心地よい語り口には読者を知らず知らずにひきつける魅力が感じられます。政治的理由からしばらく異郷で過ごしますが,1864年以降は再びフ−ズムに帰郷,晩年は少し南の緑豊かな小村で隠居,ここではもっぱら創作三昧,短編小説の傑作が生まれました。最後の傑作『白馬の騎手』を完成してまもなく1888年に亡くなりました。お墓はフーズムの聖ユルゲン墓地にあります。
 以下に伝記を紹介する代わりに,年譜と作品リストを記します。ご覧ください。

  参考文献: ラーゲ著『シュトルムの生涯と文学』(芸林書房)

     シュトルム年譜
    
    作品名は『 』で示しますがジャンルは短編小説では略しました

 1817 9月14日北海沿岸の小都 Husum の Markt 9番の家(現存)で生まれる。
     父 Johann Casimir は弁護士,母 Lucie は旧家 Woldsen 家の出身
 1821 Klippschule(低学年用の予備学校)に入学
 1826 フーズムのギムナジウムに入学
 1835 リューベックのカタリーネ・ギムナジウムに転校
 1837 キール大学入学,法律専攻。少女ベルタのために『熊の子ハンス』(童話)や詩など書く
 1838 ベルリン大学に転学,秋ドレースデンに旅行。
 1839 再度キール大学に復帰。モムゼン兄弟と親交
 1840 民話,民謡などの収集
 1842 ベルタに求婚するが断られる。10月国家試験に合格,フーズムに帰郷。さしあたり父の助手
 1843 独立の弁護士事務所を開設。合唱団を設立。『三人の友の歌集』刊行
 1846 9月15日いとこのコンスタンツェ・エスマルヒと結婚
 1847 ドロテーア・イェンゼンへの恋情。詩『赤いばら』,散文スケッチ『マルテと時計』
 1848 ドロテーア,フーズムを去る。長男ハンス誕生。シュレースヴィッヒ・ホルシュタイン解放運動, 
     短編『広間にて』,詩『十月の歌』
 1849 『みずうみ』(初稿),童話『小さなヘーヴェルマン』デンマークへの抗議運動に加わる
 1850 南ドイツの詩人メーリケとの文通開始。解放運動実らず
 1851 次男エルンスト誕生。『みずうみ』他作品集ベルリンで出版される
 1852 シュトルム,デンマーク政府より弁護士職許可取り消される。ベルリンへ旅行
 1853 ベルリンの作家フォンターネとの文通開始。三男カルル誕生。2度目のベルリン旅行。
     10月プロイセンの司法試補になる。作家パウル・ハイゼとの文通始まる。
     12月ポツダムに移住
 1854 『陽光のなかで』,詩『息子たちのために』
 1855 長女リースベト誕生。8月シュツットガルトのメーリケを訪ねる。『アンゲーリカ』
 1856 中部ドイツのハイリゲンシュタットの地裁裁判官に就任。9月赴任
 1859 ハイリゲンシュタットでも合唱団設立。『ギュンター以後の愛の詩集』(編纂)
 1860 次女ルーツィエ誕生。『遅咲きのバラ』
 1863 三女エルザベ誕生。
 1864 フーズム地方デンマーク支配から解放される。フーズムの州知事に選出される。
     3月帰郷。合唱団再設立。童話『ブーレマンの家』
 1865 四女ゲルトルート誕生。5月20日妻コンスタンツェ亡くなる。詩『深き影』 
     9月5−13日ツルゲーネフの招きでバーデン・バーデンに赴く。『海のかなたより』
 1866 プロイセン・オーストリア戦争の結果シュレースヴィヒ・ホルシュタインはプロイセン領となる。
     6月ドロテーアと再婚,10月 Wasserreihe 31 の家に入居。(現在シュトルム協会の本拠であり
     シュトルム文学館となっている)
 1867 州知事職廃止に伴い地裁裁判官に就任。『聖ユルゲンにて』
 1868 末娘フリーデリーケ誕生。最初の全集出版
 1870 『クラウディウス以後のドイツ詩集』(編纂)
 1871 作品集『随想集』,『ハリヒ行』など収める
 1872 『荒野の村』,8月ザルツブルクのレーオポルツクローン城へ招かれる
 1874 地裁上級裁判官に昇任。父の死。『三色すみれ』『人形遣いのポーレ』など
 1875 『静かな音楽家』など
 1876 『水に沈む』, 医学生の長男ハンスの監督激励のためにヴュルツブルクへ旅行
 1877 再度ヴュルツブルクへ。文学史家シュミット Erich Schmidt と交歓,ケラーとの文通
     『メーリケの思い出』
 1878 『管財人カルステン』他,ブレーメン北西に住む音楽教師の三男カルルを訪問
 1879 地裁長官に昇任。母死す。『エーケンホーフ』他,詩『なかへ入るな』
 1880 5月1日退職。家屋敷売却,南方ハーデマルシェンへ移住。『市会議員の息子たち』
 1881 4月30日新築住居 Altersvilla 完成,入居。パウル・ハイゼ来訪
 1882 『キルヒ父子』,エーリヒ・シュミット来訪
 1883 『沈黙』,マキシミリアン勲章授与される
 1884 ベルリン旅行。フォンターネ,画家ピーチュと旧交を温める。『グリースフース年代記』
 1886 ヴァイマル旅行。ゲーテ文書館館長になったシュミットを訪問。『桶屋バッシュ』
     『白馬の騎手』着手。5ヶ月間病床に臥す。12月息子ハンス死す
 1887 『ドッペルゲンガー』『告白』,8月ジュルト島に滞在。70歳の生誕を祝う。胃癌の兆候
 1888 『白馬の騎手』完成。7月4日ハーデマルシェンの自宅で家族に見守られながら永眠。
      7月7日フーズムの聖ユルゲン墓地に葬られる

 
    シュトルム散文作品リスト(成立順

 1847   マルテと時計 Marthe und ihre Uhr
 1848   広間にて Im Saal
 1849   みずうみ (初稿) Immensee
       小さなヘーヴェルマン(童話) Der kleine Haewelmann
 1850   面影 Posthuma
       みどりの木の葉  Ein gruenes Blatt
       ヒンツェルマイアー(童話) Hinzelmeier
 1854   陽を浴びて  Im Sonnenschein
 1855   アンゲーリカ Angelika
 1856  林檎の熟すとき  Wenn die Aepfel reif sind
 1858   炉辺にて(怪談集) Am Kamin
 1859   遅咲きの薔薇  Spaete Rosen
 1860   広場のほとり Drueben am Markt
 1861   ヴェローニカ Veronika
       館にて  Im Schloss
 1862   大学時代  Auf der Universitaet
        もみの木の下で Unter dem Tannenbaum
 1863   片いなかで Abseits
 1864   海の彼方より Von Jenseit des Meeres
       雨姫さま(童話) Die Regentrude
       ブーレマンの家(童話) Bulemanns Haus  
       ツュプリアーヌスの鏡(童話) Der Spiegel des Cyprianus
 1867  聖ユルゲンにて In St. Juergen
       画家の作品 Eine Malerarbeit
 1870  レーナ・ヴィース Lena Wies
      お雇い医術師―帰郷 Der Amtschirurgus - Heimkehr
 1871  島の旅 Eine Halligfahrt
      荒野の村 Draussen im Heidedorf
      昔の二人の甘党 Zwei Kuchenesser der alten Zeit
 1873  従弟クリスティアンの家で Beim Vetter Christian
      三色すみれ Viola tricolor
      今と昔 Von heut und ehedem
 1874  人形遣いのポーレ Pole Poppenspaeler
      森のかたすみ Waldwinkel
 1875  静かな音楽家 Ein stiller Musikant
      プシューヒェ  Psyche
      左となりの家で Im Nachbarshause links
 1876  水に沈む Aquis submersus
      子供たちと猫のこと Von Kindern und Katzen
 1877  管財人カルステン  Carsten Curator
 1878  レナーテ Renate
      エーケンホーフ Eekenhof
      森水喜遊館 (森と水の喜びの館) Zur "Wald- und Wasserfreude"
 1879  ビール醸造所にて Im Brauerhause
 1880  市会議員の息子たち Die Soehne des Senators
 1881  顧問官殿 Der Herr Etatsrat
 1882  キルヒ父子 Hans und Heinz Kirch
 1883  沈黙 Schweigen
 1884  グリースフース年代記 Zur Chronik von Grieshuus
       昔二人の王子あり "Es waren zwei Koenigskinder"
 1885  ヨーン・リーフ John Riew'
      ハーデルスレフフース城の祭り Ein Fest auf Haderslevhuus
 1886  桶屋のバッシュ Boetjer Basch
      ドッペルゲンガー Ein Doppelgaenger
 1887  告白 Ein Bekenntnis
 1888  白馬の騎手 Der Schimmelreiter
       
原題イタリックの作品は
『日本シュトルム協会編訳・シュトルム名作集』(三元社)の一,二巻に収録,原題ボールドイタリックの作品は同三巻にボールドの作品は第四巻に収録その他作品は同五巻に収録されています。   

 
    シュトルムの抒情詩主要作品(訳題五十音順)
 
 
愛する人の腕のなかに生きたものは Wer je gelebt in Liebesarmen
 愛の安らぎ Repos d'amour
 赤いばら Rote Rosen
 朝の散歩 Morgenwanderung
 異国の暴力への勝利が Hat erst der Sieg ueber fremde Gewalt
 海辺 Meeresstrand
 海辺の墓 Graeber an der Kueste
 エピローグ Ein Epilog
 おまえの最愛の人を葬るがよい Begrabe nur dein Liebstes!
 オヤスミ(低地ドイツ語方言の詩) Gode Nacht
 終わりの初め Beginn des Endes
 片いなかで Abseits
 権力に立ち向かい生きるものは Wer der Gewalt gegenueber steht
 荒野を越えて Ueber die Heide
 言葉にだして言わないが Du willst es nicht in Worten sagen
 死にゆくひと Ein Sterbender
 十月の歌 Oktoberlied
 新ヴァイオリン歌集 Die neuen Fiedel-Lieder
 神秘 Mysterium
 一八五〇年秋 Im Herbst 1850
 一八五一年一月一日 1. Januar 1851
 一八七〇・七一戦争 Im Krieg 1870/71
 ちいさな優しいランタンさん Kleine freundliche Latern'
 ナイチンゲール Die Nachtigall
 なかへ入るな Geh nicht hinein
 亡き人に Einer Tote
 慰め Trost
 猫のこと Von Katzen
 母がそれを望んだのです Meine Mutter hat's gewollt
 ヒヤシンス Hyazinthen
 深い影 Tiefe Schatten
 ブーレマンの家で In Bulemanns Haus
 まち Die Stadt
 息子たちのために Fuer meine Soehne
  
『シュトルム名作集』第六巻には以上の他,作者が生前に全集に収めたすべての作品の訳詩が収録されています。また巻末には詩および全六巻の総索引が付されています。
                                


このページには19世紀北ドイツの詩人・作家
テーオドール・シュトルムの人と作品・文学の
世界を紹介するコラム風の拙文を掲載いたします。
また関連の評論やエッセイ,書評などを紹介いたします。
とりあえず写真2枚ご覧ください。





上:フーズム城館の庭園にある詩人の胸像,1898年作(
禁転載)
下:聖ユルゲン墓地にあるシュトルムの墓(禁転載)







  Theodor Storm Stube - シュトルム文学    


                    前のページへ   最初のページへ   次のページへ

                     
           お願い:本ページの写真・テクストの引用は関連法律で認められている範囲内でご利用ください。